#Movie
昨年ライターの鈴木みのりさんに教えていただいて以来、周囲の人間には事あるごとに、今後の議論のベースとなるべき必須作品としてお薦めしまくっている、Netflixドキュメンタリー。歴史の再検証と当事者たちの切実な証言を通して、我々観る者自身の無知や無自覚な差別意識もまた、否応なく浮き彫りにされてゆく…… 従って鑑賞後は、世界を見る精度が、確実にいくらか高まること請け合い!たとえばテレビで「異性装をネタ的に扱うコント」を見かけたとき、何かを感じずにいるのは、もはや難しくなるだろう。様々なマイノリティ問題の中でも特に周縁に追いやられ、偏見が放置されがちな領域だからこそ、あらゆる差別の構造を考える上での、基礎を叩き込んでくれるような作品でもあると、個人的には思う。
2020年製作/107分/アメリカ/R15+
監督:サム・フェダー
製作・配給:Netflix
#Movie
『ゆきゆきて神軍』『全身小説家』などで知られ、近年は『ニッポン国vs泉南石綿村』『れいわ一揆』など、「人々」が国家制度と対峙する様を捉えた作品も続くドキュメンタリー作家・原一男が、水俣病という巨大なイシューに豊かな視点で挑んでみせた一大群像劇。三部構成、6時間12分という超大作だが、多様な情報が詰まった作りなので、体感はわりとあっという間(個人の感想です)。地道な調査によってこれまでの「末梢神経説」の誤りが明らかになり、その研究成果を元にした画期的最高裁判決もすでに出ている、にも関わらず……という出だし部分からして、現在進行形の問題としての水俣病について、自分が何も知らなかったことを思い知らされる。また、国というシステムが、現状いかに組織としての自己保身のためにしか機能していないか、いざという時にも弱者側に寄り添う仕組みにはそもそもまったくなっていないかが、嫌というほどよくわかる…… その意味でも、誇張ではなく全国民必見の一作だと思う。
2021年公開/372分/日本
監督:原一男
配給:疾走プロダクション
#Movie
2015年にタリバンから死刑宣告を受けたアフガニスタン人の映像作家が、迫る身の危険を感じついに出国を決意、妻と二人の娘を伴いヨーロッパを目指す道程を自らiPhoneで逐一撮影した、2019年のドキュメンタリー。その後のアメリカ軍完全撤退~タリバンの政権奪取、再び圧政による支配が始まる流れを考えれば、その前にアフガンを脱出したのは明らかに正しい判断だったとは言えるのかも知れないが…… 当然のことながらその道のりは、ひたすら困難を極めることになる。そんな本作は、何と言っても徹底して「難民目線」の記録である、という点に画期性がある。それまでの平穏な日常が見る見る崩壊してゆく様はリアルな恐怖を感じさせるし、頼るものもないまま行く先々で邪魔者として扱われる不安と屈辱を観客として疑似体験することで、とかく日本に暮らしていると他人事のようにしか感じられない傾向も残念ながら確かにあるだろう難民問題が、今そこで生きている、生身の人間の苦しみとして、一気に身近に感じられるようになるはずだ。周知の通りウクライナで大量の難民が生じているこのタイミングでこそ、多くの人に観てほしい。
2019年製作/87分/アメリカ・カタール・カナダ・イギリス合作
監督:ハッサン・ファジリ
配給:ユナイテッドピープル