東京都人権プラザ企画展 人権カルチャーステーション

スクリプカリウ落合安奈さん推薦①

ライフ・イズ・ビューティフル/Life Is Beautiful

ライフ・イズ・ビューティフル/Life Is Beautiful

戦争という過酷な状況下で
人を想うことのあたたかさに触れる。

「お聞かせする話は 単純だが語るのが難しい物語だ 寓話のように悲しく 奇跡と幸福にも彩られている」という一節からこの映画は始まります。第二次世界大戦中のホロコーストという過酷な状況下で、人が人を想うことのあたたかさを、ある一つの家族を通して描いています。1939年、陽気な主人公、ユダヤ系イタリア人のグイドは北イタリアの田舎町で教師のドーラに恋をします。やがて二人は結ばれ、息子ジョズエを授かります。そんな中、徐々に第二次世界大戦の影が濃くなり、ユダヤ人のグイドとジョズエは強制収容所に送られることになります。後を追ったドーラも二人と共に汽車に乗ることを選択します。グイドがジョズエにある嘘をついたことで、この家族の運命が大きく変わっていきます。私にとって人生を変えた作品です。幼少期に家族で見て、人権というものを初めて意識するようになりました。幼少期に見た時の記憶は、恐ろしく強烈なものとして焼き付いていたのですが、大人になってから見返すと、直接的な表現は極力避けられていました。小さなお子さんから大人まで、この作品を通して、大切なことを考えるきっかけを得られると思います。

  • 1997年製作/117分/イタリア/G

  • 監督・脚本:ロベルト・ベニーニ

  • 出演:ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキほか

スクリプカリウ落合安奈さん推薦②

つまずきの石/
Stolpersteine

つまずきの石/<br class='only-sp'>Stolpersteine

奪われた命、過去の過ちと
日常の中で向き合う瞬間。

2015年の夏、ベルリンの街を目的地に向かって足早に歩いていると、私は急に何かにつまずきました。足元を見てみると、10cm四方の真鍮のプレートが地面に埋め込まれていました。私はこの《つまずきの石》の存在を知っていましたが、本当にこのような形で日常の中でふいに「ホロコースト」という出来事と向き合う瞬間が訪れるとは予期していなかったので、その時の驚きを今でも覚えています。ヨーロッパ各地約61,000ヶ所(※)に存在するこの作品は、ベルリン出身のドイツ人作家のグンター・デムニヒ氏によって一つ一つ手作りで制作されています。近づいてみると、ホロコーストで犠牲になった人の名前、生年月日、死亡した年と場所などが刻まれています。地面に埋め込まれたこの石は、犠牲になった方が最後にここで暮らしていたこと、そして不条理の中で命が奪われたことを今を生きる私たちに伝えます。ベルリンはアートの街として有名です。そして、意識すると街のあちこちに、ホロコーストの記憶を今に伝える作品が存在します。日々歴史と向き合うことを大切にする文化を感じると同時に、決して繰り返されてはいけない人間の過ちについて、アートや私たち一人一人ができることとは何なのかと深く考えさせられます。ベルリンやヨーロッパを訪れる機会がある方は、《つまずきの石》の存在を頭の隅に入れて街を歩いてみると、違った景色が見えてくるかもしれません。
(※数についての参考資料:NPO法人ホロコースト教育資料センター2017年11月10日の記事より)

  • グンター・デムニヒ(Gunter Demnig)

  • ドイツほか/1992年より

  • 真鍮/3.9×3.9×3.9inch

スクリプカリウ落合安奈さん推薦③

国際呼び出し周波数

イム・ミヌク(Lim Minouk)

国際呼び出し周波数
国際呼び出し周波数
国際呼び出し周波数

「場所」が失われたとしても
わたしたちは緩やかに繋がっている。

2015年に東京都現代美術館で開催された「他人の時間」展で出会ったこの作品は、パフォーマンスの映像を映し出すモニターとヘッドホン、楽譜と15の行動指針の箇条書きのハンドアウトで構成されていました。シンプルな展示でしたが、編曲や歌詞を付けることも許された柔らかいメロディーを聴いているうちに熱いものが込み上げてきました。現代美術作品を見て涙が出たのは後にも先にもこの作品だけです。「—「国際呼び出し周波数」では、場を奪われた人々の間で分かち合われる、新しい連帯の形としてのプロテスト・ソングを展示—」(東京都現代美術館公式ホームページより一部抜粋)。作品ハンドアウトより行動指針の一部をご紹介します。「1.この歌は失われつつある場所や拠り所から追放された人々に伝達する、一種の波長である。」「8.一人で歌っていながらも、誰かと共に歌っていると信じて始めること。」「13.心の中にこの歌が聞こえたら、いたわりと勇気を誰かと分かち合っているという信号である。」「14.船が沈没したら、国境の区別なく救出し、救助を要請する信号を送る。」「15.この曲は、私たちが共に生きる世界のために夢を見、風に運ばせるための呼び出し周波数である。」柔らかなメロディーに様々な思いを乗せて、人々が緩やかに繋がっていく感覚を教えてくれる作品です。作者公式サイトからお聴きいただけます。

  • ソウル/2011年制作

  • 映像、楽譜、音声、パフォーマンス

作者公式サイト
PROFILE
スクリプカリウ落合安奈
美術家
スクリプカリウ落合安奈
1992年埼玉県生まれ、2016年東京藝術大学美術学部油画専攻卒業。日本とルーマニアの2つの母国に根を下ろす方法の模索をきっかけに、「土地と人の結びつき」というテーマをもつ。差別の連鎖やコミュニティー間の摩擦に向き合いながら、インスタレーション、写真、映像、絵画などマルチメディアな作品を制作。
1992年埼玉県生まれ、2016年東京藝術大学美術学部油画専攻卒業。日本とルーマニアの2つの母国に根を下ろす方法の模索をきっかけに、「土地と人の結びつき」というテーマをもつ。差別の連鎖やコミュニティー間の摩擦に向き合いながら、インスタレーション、写真、映像、絵画などマルチメディアな作品を制作。