東京都人権プラザ企画展 人権カルチャーステーション

山中智省さん推薦①

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

著 桜庭一樹/イラスト むー

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

つらい現実を生き抜くために
必要だった「砂糖菓子の弾丸」とは。

海辺の田舎町に暮らす中学生・山田なぎさは、父親の他界後、母親と引きこもりの兄と一緒に過ごすなかで、世の中にコミットできる直接的な力=「実弾」を求めるようになっていた。そんな折、なぎさのクラスに「人魚」を自称するエキセントリックな転校生・海野藻屑が現れる。空想的な言動を筆頭に、実体のある力を持たない「砂糖菓子の弾丸」を放つ藻屑になぎさは翻弄されつつも、彼女の不思議な魅力に惹かれ、やがて友人となる。しかし、本作の冒頭で示されるように藻屑には、避けようのない悲劇的な結末が待ち構えており、その原因こそが父親による虐待だった。そして、藻屑が撃ち続けた「砂糖菓子の弾丸」は、実はこうした現実を生き抜くための手段だったのである。自らの生存をかけて世界と戦う/戦った少女たちに、あなたは何を思うだろうか―。

  • 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』桜庭一樹 KADOKAWA 2004年

山中智省さん推薦②

86―エイティシックス―

著 安里アサト/
イラスト しらび

86―エイティシックス―

自己と他者を尊重し合うことが
損なわれることの危険性。

物語の舞台であるサンマグノリア共和国は、隣国の無人兵器〈レギオン〉による侵略に対抗すべく、同型兵器〈ジャガーノート〉を投入しての迎撃・防衛を行っていた。無人兵器同士の戦闘ゆえに戦死者はゼロ―。しかし、公にはそう発表されるものの実態は全く異なっていた。表向きは無人兵器とされている〈ジャガーノート〉には、白系種を優遇する共和国によって「人の形の豚」と見なされた有色種、通称「エイティシックス」が搭乗し、犠牲を厭わず、戦死者の扱いも受けられないまま戦わされていたのである。戦争下の人種差別が生んだ最悪の狂気に対して、「エイティシックス」や彼らの理解者は何を考え、どう抗していくのか。その様を描く本作が示唆しているのは、人間が互いを尊重し合う大切さはもとより、それが損なわれること自体の危険性である。

  • 『86―エイティシックス―』安里アサト KADOKAWA 2017年〜

山中智省さん推薦③

ミモザの告白

著 八目迷/イラスト くっか

ミモザの告白

多様性を尊重する時代ならではの
他者と向き合う悩みと葛藤を描く。

「今日から女子としてやっていきます」。成績優秀でスポーツ万能、女子からの人気も高い美少年の高校生・槻ノ木汐はある日、クラスメイトにそう告げる。心と身体の性の不一致に悩んだ末、心にしたがって「正しく生きる」ことを選んだ汐であるが、幼馴染の紙木咲馬をはじめとする周囲の人々は、突然現れた「異質な他者」に様々な反応を示す。そして、人間関係の急変に汐自身も苦しむなか、咲馬とクラスの愛されキャラ・星原夏希は汐に寄り添い、少しずつ、理解の道を探し始める―。性自認というセンシティブな題材を、多感な主人公たちの青春・恋愛模様に重ねながら、他者との向き合い方をめぐる等身大の悩みや葛藤を描いていく本作。読後に得られる多くの気づきは、多様性を尊重する世界を作る/生きる上で間違いなく、貴重な糧となることだろう。

  • 『ミモザの告白』八目迷 小学館 2021年〜

PROFILE
山中智省
目白大学人間学部子ども学科専任講師
山中智省
1985年静岡県生まれ。横浜国立大学大学院前期課程修了。専攻は日本近現代文学、サブカルチャー研究。近年は、文学研究の視点からライトノベルの発展を追う。近著に『小説の生存戦略 : ライトノベル・メディア・ジェンダー』(青弓社、2020年、共編)など。
1985年静岡県生まれ。横浜国立大学大学院前期課程修了。専攻は日本近現代文学、サブカルチャー研究。近年は、文学研究の視点からライトノベルの発展を追う。近著に『小説の生存戦略 : ライトノベル・メディア・ジェンダー』(青弓社、2020年、共編)など。