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自らが被差別部落に出自を持ち、差別を受けていた芸能者たちの歴史に深い関心を持つ俳優・三國連太郎が自らメガホンを取った作品。カンヌ映画祭審査員特別賞を受賞した。描くのは、被差別者たちの救済に努めた親鸞の姿である。肝心の親鸞を演じる主演の森山潤久が新人で、演技が良くなく、全体のストーリーも掴めないという大きな欠点があるが、それを補って余りあるのは、貧しく差別され虐げられ犠牲にされた民たちの描写の迫力である。近代化された現代社会では見えにくくなっている「差別」の、過去における恐るべき凄まじさを想像する助けに本作はなるし、作り手たちの、映画を通して差別をなくしたいという宗教的情熱の迫力にも感化される。
1987年製作/139分/日本
監督:三國連太郎
配給:松竹
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カンヌ国際映画祭でパルムドールを二度受賞した日本でただ一人の監督、今村昌平の真髄が発揮された一作である。売春婦や売春斡旋業の人々にしつこく取材を繰り返し、どのような過去があり、いかなる経緯で今の職業をしているのかを探り、それを元に映画にした。主人公は東北の寒村で、知的障害のある父と性的に奔放な母との間に(本当の父が誰かも分からず)生まれる。近親相姦、望まない嫁入り、女工などを経て、やがて売春宿に雇われ、経営していくようになる。女性の貧困と、差別される性産業従事者の悲しさを描くと同時に、彼女がやがてすれっからしの売春斡旋業者として搾取する側になっていくという一筋縄ではいかなさを直視した怪作である。
1963年製作/123分/日本
監督:今村昌平
配給:日活
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現実の世界で、ひとつの「問題」だけがクリアに切り出されている機会にはそう出会えない。様々な問題が複合的に絡み合い、解きほぐしがたい状況に我々は生きている。中産階級の夫婦が、認知症の父の面倒を見るため、貧しい娘を雇う。まず階層や貧富の問題がある。娘は妊娠しており、病院に行くためにやむなく老人をベッドに縛り付けるが、老人は転落し意識不明になる。怒った主人公が娘を追い出すが、後に娘は、それで転倒し流産したと虚偽告訴する。抑圧的な夫に真実を言えなかったからだ。主人公が冤罪を晴らし真実を明らかにする努力が、娘を追い詰め、彼女に共感する妻との離縁を招く。複合的なジレンマの構造を鮮やかにドラマ化した傑作。
2011年製作/123分/イラン
監督:アスガー・ファルハディ
配給:マジックアワー、ドマ