東京都人権プラザ企画展 人権カルチャーステーション

吉村和真さん推薦①

怪獣になったゲイ

ミナモトカズキ

怪獣になったゲイ

フィクションだからこそ難しい
性課題の複雑さと漫画の面白さを両立。

性に関する人権課題をテーマとしたマンガは、近年着実に増えている。特に作者自身やその周辺で実際に起きた事象を扱うエッセイマンガでは、赤裸々なカミングアウトも含め、その動向が顕著だ。これに対し、ストーリーマンガでフィクションとして性の問題を扱うには、政治的・社会的・倫理的な立場に加え、物語展開やキャラクター設定の妙が求められる分、創作者としての力量がいっそう問われやすい。
その点、「怪獣」と「ゲイ」をストレートに結び付けた本作は、タイトルのインパクトを裏切ることなく、性問題の複雑さとマンガの面白さとを両立させながら、読者の心に訴えかけてくる。あなたも、怪獣になるか/なられるか、ぜひご一読を。

  • 『怪獣になったゲイ』ミナモトカズキ KADOKAWA/ ビームコミックス

吉村和真さん推薦②

「アトムの最後」

手塚治虫

「アトムの最後」

誰もが知っているのに、誰も知らない
『鉄腕アトム』本来のテーマ。

「正義の味方」「科学の子」というアトムのイメージは、テレビアニメの国民的人気によって広がった。ところが作者の手塚は、差別問題やディスコミュニケーションこそが、この作品本来のテーマであると訴えていた。いわば「鉄腕アトム」は「誰もが知っているのに、誰も知らないマンガ」状態だったのだ。今回紹介する「アトムの最後」は、そのギャップに苦悩する手塚の叫びであり、60年以上前の話だがまったく古びていない。人間とロボットとの間の差別がいかに根深く無意味なものか、その目で確かめてほしい。
なお、同様のテーマをシリアスとユーモアを交えながら描いた現在連載中のマンガ、業田良家『機械仕掛けの愛』との併読を薦めたい。

なお本作は、1968年に『鉄腕アトム』の本編連載が終了した2年後に描かれた作品。アトムが活躍した21世紀からさらに幾年か経ったあとの地球では、ロボットと人間の関係が大きく変化していた。ロボット博物館で眠るアトムのもとに、丈夫という若者が押し入り、エネルギーを再び吹き込まれたアトムは、ロボットに追われているという丈夫から、助けてほしい、と頼まれる。(参考:手塚治虫オフィシャルHP)

  • 初出 講談社『別冊少年マガジン』

  • (1970年7月号)

  • 掲載書影は手塚治虫『鉄腕アトム①』手塚治虫文庫全集(講談社)ですが、「アトムの最後」は文庫全集『鉄腕アトム別巻』に収録されています。

吉村和真さん推薦③

「吉村和真が読み解く『夕凪の街』」

吉村和真

「吉村和真が読み解く『夕凪の街』」

マンガリテラシーが求められる作品を
解読することで得られる新たな発見。

『この世界の片隅に』に先立ち、こうの史代の名を一躍全国に広めた短編作品。ただし本作は、あくまで戦争マンガではなく、戦後10年間を生きた被爆女性の物語である。発表直後からマンガの愛読者や識者に高く評価された。だが、その魅力を説明するのは難しい。なぜなら、「夕凪の街」の表現的特徴を言語化するには、一筋縄ではいかないマンガの読み描き能力=マンガリテラシーが求められるからだ。
そこで思想史・マンガ研究の観点から、本作のすべてのページやコマを点検しながら解読を試みた。漫画家と出版社の協力によって実現した研究成果を通じ、原爆のイメージや被爆者の心情、そしてマンガの見方に、新たな発見が得られることを期待したい。

  • こうの史代×竹宮恵子×吉村和真『マンガノミカタ 創作者と研究者による新たなアプローチ』樹村房 2021年 収載

PROFILE
吉村和真
京都精華大学マンガ学部教授
吉村和真
1971年福岡県生まれ。専門は思想史・マンガ研究。「マンガを読む」ことが人間の思想や価値観に与える影響を研究中。日本マンガ学会や京都国際マンガミュージアムの設立に従事した。主な著作に『差別と向き合うマンガたち』(臨川書店、2007年)、『複数の「ヒロシマ」』(青弓社、2012年)、『障害のある人たちに向けたLLマンガへの招待』(樹村房、2018年)など。
1971年福岡県生まれ。専門は思想史・マンガ研究。「マンガを読む」ことが人間の思想や価値観に与える影響を研究中。日本マンガ学会や京都国際マンガミュージアムの設立に従事した。主な著作に『差別と向き合うマンガたち』(臨川書店、2007年)、『複数の「ヒロシマ」』(青弓社、2012年)、『障害のある人たちに向けたLLマンガへの招待』(樹村房、2018年)など。