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「ビジネスと人権」

印刷ページ表示 更新日:2023年5月31日更新

TOKYO人権 第98号(令和5年5月31日発行)

特集

―企業に求められる人権尊重責任​                             企業外観イメージのイラスト                                                                                                                                                            近年、「ビジネスと人権」について関心が高まっています。強制労働や児童労働など、企業活動の中で起こる人権侵害は、これまでも問題視されてきました。企業がその活動の中で関わるあらゆる人の人権に及ぼす影響を考え、人権を守っていくためのルール作りが2011年以降、世界中で急速に広がっています。本特集では、「ビジネスと人権」の概要と実践方法について、ポイントを解説します。

「ビジネスと人権」を取り巻く動向

 2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)」が合意され、企業活動における人権尊重のあり方に関する基礎的な国際文書となりました。
 指導原則は、あらゆる企業に対し、人権を尊重する主体として責任を果たすことを求めています。指導原則に法的拘束力はありませんが、欧米では、法制化により「人権デュー・デリジェンス」の実施等を企業に義務付けている国もあります。人権デュー・デリジェンスとは、企業が自社や取引先を含めたサプライチェーン(供給網)全体で人権侵害がないか確認し、予防や改善に当たることを意味します。こうした流れを受け、日本政府は、2020年10月に「ビジネスと人権に関する行動計画」を策定し、その後、2022年9月にガイドライン※1を策定しました。2023年4月には、公共調達において、入札する企業における人権尊重の確保に努めることとする政府方針を決定しました。今後、公共調達の入札説明書や契約書等において、入札希望者や契約者は、人権尊重に取り組むことが求められていくことになります。
 企業が人権について取り組む際に求められる行動は次の三つに整理できます。

1方針によるコミットメント 人権を尊重する責任を果たすという方針による約束 2人権デューデリデンスの実施 人権への影響を特定し、防止し、低減し、どのように対処するかについて責任を持つ 3救済措置 企業が引き起こし、また助長する人権への負の影響に対して救済を

企業等による具体的な実践例

 経済産業省などが実施した2021年の調査※3によると、人権方針を策定済みの上場企業は、回答企業の約7割を占めました。一方、「実施方法が分からない」「十分な人員・予算を確保できない」という回答もあり、特に日本の企業数の99.7%を占め、経済の中核を担う中小企業による実践が呼びかけられています。
 中小企業向けのガイドライン※4によると、「ビジネスと人権」への取り組みを表明するために重要なのは、手探りでも「まずはやってみること」、「できることから始めること」と提案されています。例えば、建設業の場合、人権尊重に照らし「長時間労働」という課題があり、それに対し、「短納期での発注を控えてもらうよう要請する」という対処の事例が紹介されています。このほか、企業が尊重すべき人権として、男女の賃金格差やパワハラなどの労働問題も対象となります。自社の何が問題で、どのように取り組めば改善できるのか、じっくり洗い出してみることが大切です。
 企業における人権も、個人間と同じく重要で、一度発生してしまった人権侵害は、取り返しがつかないものです。一方、人権尊重に取り組むことは、企業価値を高め、消費者や取引先からも選ばれるという好循環を生むことにもつながります。企業、行政、個人など、さまざまな主体.が人権を守ることを前提に行動できるようになれば、より強固な人権尊重の社会が築かれるはずです。

執筆 吉田 加奈子(東京都人権啓発センター 専門員)

※1『 責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議、2022年9月
※2『 ビジネスと人権に関する調査研究 報告書(概要版)』法務省人権擁護局、2021年3月
※3『 日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査 集計結果』経済産業省・外務省、2021年11月
※4『 中小企業のための人権デュー・ディリジェンス・ガイドライン〜持続可能な社会を実現するために〜』(一財)国際経済連携推進センター、2022年2月


東京都人権啓発プラザでは、令和2年度から令和4年度まで毎年、「ビジネスと人権」に焦点を当てた内容で「人権啓発指導者養成セミナー」を実施しました。
実施済みセミナーの動画は、こちらから視聴いただけます。
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参考になる資料

『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料』経済産業省、2023年4月
企業がまず行うこととなる「人権方針の策定」や人権デュー・デリジェンスの最初のステップである「人権への負の影響の特定・評価」について、検討すべきポイントや実施フローの例を示しています。

『中小企業のための人権デュー・ディリジェンス・ガイドライン〜持続可能な社会を実現するために〜』(一財)国際経済連携推進センター、2022年2月
「人権問題とは何か」、「具体的に何をすれば良いのか」といった疑問に答える目的で作成された中小企業の方々向けのガイドライン。具体例や作業フローなどを示し、平易な解説がされています。