本文
TOKYO人権 第85号(2020年3月31日発行)
特集
みんなが安心できる場所をつくる。
~プライドハウス東京2020が目指すもの~
東京2020大会に合わせてオープンの準備が進められている「プライドハウス東京 2020」。LGBT(LGBTQ(注))に関する正しい理解を広げるための情報提供や、当事者にとって安心・安全な居場所として機能するもので、現在、このプロジェクトに関わるさまざまなプログラムが企画されています。今回の特集では、プライドハウスの歴史や仕組み、そして東京ではどのような展開が行われるのか、その取り組みを取材しました。
【クイズ】
過去にプライドハウスが設置された都市は?
(1)パリ
(2)バンクーバー
(3)平昌(ピョンチャン)
答えはページ下にあります。
「プライドハウス」は、オリンピック・パラリンピックなどの国際的なスポーツ大会に合わせ、多様な性に関わる人が安心して過ごすために設営される場所のことです。ここでは、LGBTについての情報提供をはじめ、当事者や家族、支援者に対するサポート、「LGBTとスポーツ」に視点を置いた学びや、イベントなどが行われています。
このプライドハウスが初めて開設されたのは、2010年のバンクーバーオリンピック・パラリンピックの際で、地元のNPOが期間限定で立ち上げたものでした。開設時のコンセプトとして特に意識されたことの一つが、選手や観客の中に存在するLGBTの当事者や家族にとって、安心・安全な居場所であることです。
プライドハウス東京
コンソーシアム
代表 松中権さん
「もともとスポーツ界はLGBTへの差別や偏見が強く、当事者がカミングアウトしづらい『最後の砦(とりで)』と言われてきました」と語るのは、「プライドハウス東京コンソーシアム(共同事業体)」の代表、松中権(まつなかごん)さんです。松中さんはその理由を、「例えば、スポーツには、パワーやスピードなど、いわば『男性らしさ』を競い合う側面があるため、男性選手が同性愛者だと『男らしくない』と、ことさら嫌悪されてしまうのです」と説明しています。
またLGBTの方は普段から、自宅にも職場にも「居場所がない」と感じることが多いことから、「サードプレイス」と呼ばれる安全安心の居場所づくりが当事者にとって、より重要であることがこれまでに指摘されてきています。こうした背景に加え、多くの人の注目が集まるスポーツ大会は、啓発や行動のきっかけづくりに最適ということもあり、2010年のバンクーバー大会の後に続く国際的なスポーツ大会では、開催地のNPOなどが、あくまで「自発的」にプライドハウスの開設に取り組んできました。
2016年リオデジャネイロ五輪に合わせて設置された「リオ・プライドハウス」のオープニングの模様。
風向きが変わったのが、2014年のソチ大会の前年に、開催国のロシアが同性愛宣伝禁止法を制定し、世界的に大きな批判を呼び起こしたことでした。危機感から取り組みの継続性が提起され、「プライドハウス・インターナショナル」という国際ネットワークが組織化されました。松中さんは、2015年にトロントで開催された同ネットワーク会議に参加し、東京2020大会でのプライドハウス開設を決意したそうです。
ただ、日本ではLGBTの人権に関して、まだまだ基本的な啓発が進んでいないという自覚を持っていたことから、当事者だけでなく、なるべく多くの人が関わって実現することが大切だと考えました。また、2016年のリオ大会、2018年の平昌大会では、運営面のサポートが十分とは言えず、規模的にも課題を残したことからその安定化を目指すことにしました。
こうした動きは結果として、9つの企業と18の大使館、26のNPOや個人、そして大会組織委員会との連携を目指す「プライドハウス東京 コンソーシアム」(以下、コンソーシアム)として結実しました。(加盟数は2020年3月1日現在)
まずは、東京2020大会に先駆け、2019年秋に日本で開催されたラグビーワールドカップのタイミングで「プライドハウス東京 2019」が開設されました。場所は東京・原宿のコミュニティスペース「subaCO」で、期間は約1か月半。コンソーシアムの中に立ち上げた7つのチーム、(1)教育・多様性発信 (2)文化・歴史・アーカイブ (3)セクシュアルヘルス・救済窓口 (4)アスリート発信 (5)祝祭・スポーツイベント・ボランティア (6)居場所づくり (7)仕組みづくり、がそれぞれ個別のテーマに沿ったプログラムを実施しました。
世界のLGBT絵本ライブラリー。各国大使館の協力を得ながら、世界の絵本が続々と教育・多様性発信チームに届いています。今後の展示や活用が期待されます。
例えばワークショップ(教育・多様性発信)。映像を扱う企業と組んで上映会を行い、鑑賞後に中高生がディスカッションを行いました。また、LGBTに関連する世界の絵本を収集して、ボランティアが翻訳。「王子様」や「お姫様」が出てこない物語など、59タイトル70冊ほどのライブラリーを設けました。教育は東京で行うプライドハウスの柱という位置づけで、多様なコラボレーションを実施。協力企業のスタッフの中には、プライドハウス東京で初めて当事者と交流できたと話す人や、カミングアウトされる経験をした人もいたと言います。期間中の来場者は約3,000人。現役の選手や、元ウェールズ代表選手らも来場しました。海外からの来客も多く、当事者も含めてそれぞれのストーリーを語り、交流しました。「拠点が存在することで、みんなが自分の言葉で語れるようになる。 それはまさに『自分事』です。こうしたコミュニケーションが生まれる可能性があることが大事だと感じています」(松中さん)。
「プライドハウス東京 2020」は、新宿区内に開設する予定で準備が進んでいましが、東京2020大会に 合わせて、開設が延期となりました。松中さんは「これまで準備してきたものをさらに充実させて、開設の実現に向けて取り組んでいきたい。そして『プライドハウス東京 2020』を、オリンピック・パラリンピックの一つのレガシーとして、次世代のLGBTの若者が安心して集える常設の場所をつくりたい」と展望しています。
次期オープンの際には、ぜひ訪問してみてください。関連プログラムに参加したり、常駐のスタッフと交流したり、どのような方法であっても、それを「自分事」につなげていくことができれば、LGBTへの理解を通じて、私たちはやがて多様性を認め合う豊かな社会を構築していけるのではないでしょうか。
(注)代表的な性的マイノリティの頭文字で作られたLGBTに、性自認等が決まっていない状態=クエスチョニング等の意味でQを付けて表すこともあります。
インタビュー/田村 鮎美(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子
写真提供:プライドハウス東京 コンソーシアム
クイズの答え
すべて正解。他にもいくつかの都市でプライドハウスが設置されました。
公式グッズもたくさんあります!
缶バッジ Tシャツ
プライドハウス東京のロゴは、東京2020大会の公式エンブレムを手がけた、野老(ところ)朝雄氏が制作。ロゴ入り公式グッズはおしゃれなデザインが魅力です!
注:プライドハウス東京<外部リンク>
オープン情報に関しては、ホームページをご確認ください。
Copyright © Tokyo Metropolitan Human Rights Promotion Center. All rights reserved.