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SDGsに「人権」が必要な理由

印刷ページ表示 更新日:2022年2月7日更新

TOKYO人権 第83号(令和元年11月25日発行)

特集

“誰も取り残さない”未来のために
~SDGsに「人権」が必要な理由~

 気候変動や貧困、資源の枯渇など、私たちの社会は地球規模の課題に直面し、将来、安定した暮らしができなくなるといわれています。この状況に取り組むため、国連サミットで「SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)」が掲げられました。その前文には「誰一人取り残さないことを誓う」「すべての人々の人権を実現する」という言葉が明記されています。SDGsに何故、このような人権的視点が必要なのでしょうか? カードゲーム「2030SDGs」を通して、その理由を考えます。

「SDGs(持続可能な開発目標)」とは

【クイズ】
SDGsの最後の「s」は?
(1)special(スペシャル)の略
(2)superb(すばらしい)の略
(3)複数形の「s」

答えはページ下にあります。


 2015年9月、国連で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(以下、2030アジェンダ)」が採択されました。これは、地球や人類の繁栄のために、全世界が2030年までに達成すべき目標を掲げた文書です。前文には「誰一人取り残さない」「すべての人々の人権を実現する」と宣言されており、人権尊重の理念が基礎にあることを示しています。

 この2030アジェンダで掲げられている行動目標が、17の目標と169のターゲットで構成された「SDGs(Sustainable Development Goals)」です。

「SDGs(持続可能な開発目標)」とはの画像
SDGsのロゴ[PDFファイル/1.2MB]

 日本ではSDGsを達成するため、2016年5月に「SDGs推進本部」を設置、同年12月に「SDGs実施指針」を策定しました。この指針では、「あらゆる人々の活躍の推進」「健康・長寿の達成」など、8つの優先分野が示されています。近年、メディアを通してよく耳にする「働き方改革」や「女性の活躍推進」は、この指針に沿った取り組みの一つです。

 さらに、SDGs推進本部は、日本ならではの「SDGsモデル」を構築し、国際社会に発信していくため、「SDGsアクションプラン2019」を発表しました。ここには「SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント」など、SDGsモデルの3本柱を掲げつつ、SDGs実施指針で示した8つの優先分野に対する政府の取り組みが記されています。

 経済産業省では、SDGsをいかにして企業経営に取り込み、持続的な企業価値を向上させていくか等を整理した「SDGs経営ガイド」を発表しました。また東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会でも、そのメインコンセプトの一つとして、「持続可能性」を重要なテーマに掲げており、SDGs達成のための節目となることが期待されています。

カードゲーム「2030SDGs」でSDGsの世界を体感

 一方で、日本で行われた調査ではSDGsの認知度は16%と低く(株式会社電通/2019年4月)、言葉は知っていても、開発途上国など海外の出来事であり、「自分事」として捉えられていないという現状があります。こうした中、独自に開発したカードゲーム「2030SDGs」を通してSDGsの理解を広げる活動をしているのが一般社団法人イマココラボです。

写真:色とりどりのゴールカードとプロジェクトカード
カードやマグネットなどのキット

写真:ホワイトボードに並べて貼られた3色の丸いマグネット
世界の状況メーターとマグネット

 このゲームで使用するカードは「環境保護」や「貧困撲滅」など、5種類のゴールを記した「ゴールカード」、事業や研究、社会活動など、80種類のプロジェクトを記した「プロジェクトカード」、プロジェクトカードを実行する際、費やしたり得られたりするお金や時間を記した「お金カード」と「タイムカード」です。参加者は2~3人のグループに分かれ、さまざまなカードを使って与えられたゴールを目指します。ゴールはチームによって異なり、それによって各グループの行動も変わってきます。例えば、「環境保護」をゴールに掲げるグループは、多くの「お金」や「タイム」を費やして環境に関するプロジェクトを実行します。かたや「経済」をゴールとするチームは、プロジェクトカードやタイムカードを他のチームに売ることで、「お金」を得ることもできます。このようなグループごとのアクションは、実際の世界でも起こり得ることです。

 またこのゲームの大きなポイントは、グループの行動により、SDGsの主要なテーマである「経済」「環境」「社会」の充実度が、「世界の状況メーター」と称したマグネットで刻々と変化する様子が分かる点です。

 イマココラボ事務局長でプロフェッショナルファシリテーターの桝田綾子(ますだあやこ)さんは次のように語ります。「さまざまな価値観や目標を持つ人々がいるこの世界で、SDGsを達成するためにはどのような考え方や行動が必要なのかを、体験的に理解していただくことができます。カードゲームは、義務感ではなく、楽しみながらSDGsを学ぶのに最適だと考えています」。

 参加者からも「自分のグループのゴールに到達するために努力しながらも、世界の状況メーターがどうなっているかを常に気にしなければならない点が面白い」「SDGsを知ってはいたが、内容について改めて納得することができた」などの感想が寄せられるそうです。

「何を重視するか」で世界が変化する体験を

 現在イマココラボでは、このカードゲームを自主イベントとして月3回開催するほか、企業や自治体などの組織から依頼を受け、研修としても実施しています。その際、ありがちなゲーム展開は、前半の時間で「経済」を優先するシビアな世界を作ってしまい、参加者同士でそのことを反省し、後半は「環境」や「社会」も充実させていくパターンです。ただ海外で、環境への意識が非常に高い方々が集まった回では、「環境」がまず優先され「経済」がほとんど発展しない経過をたどったこともあるそうです。

 一方で、「子育て中の女性が集まる回では、また異なる展開になります」と桝田さんは語ります。「タイムカードをどんどん使い、いい世界を作ろうとされる方がとても多いのです。一見、素晴らしいことのようですが、そんなときは、本当にそんなに時間を提供してよかったのか、実は自分の時間も大事にしたかったのではないか、などと問いかけています。心のどこかに報われない思いを抱えていたとしたら、SDGsが掲げる『持続可能』な生活は成り立ちませんから」(桝田さん)。

 カードゲーム「2030SDGs」は自らの行動が世界に影響を与えていることに気付いたり、自分の価値観を大切に尊重しながら、周りの人や世界を豊かにする感覚を体験できたりする仕組みになっていて、これこそ、SDGsの基礎となっている「誰一人取り残さない未来」や「全ての人が尊重される世界」を構築する視点を構成しているのです。それはまさに人権尊重の精神そのものと言えるでしょう。

 SDGsの認知度を高め、東京2020大会のレガシーとするためにも、「2030SDGs」のようなツールを使うことで、身近にSDGsを考えられるようになるのではないでしょうか。

インタビュー/田村 鮎美(東京都人権啓発センター専門員)
編集/小松 亜子


クイズの答え

(3)複数形の「s」
「SDGs」=「Sustainable Development Goals」目標(ゴール)が複数あることを表しています。


pick up!カードゲーム「2030SDGs」を開催!

写真:カードゲームを行う様子

「人権啓発指導者養成セミナー」でSDGsのカードゲームを実施します。
詳細は第83号[PDFファイル/3.5MB](裏表紙)をご覧ください。

開催日:2019年11月26日(火曜日)
時間:13時~17時
会場:御茶ノ水トライエッジカンファレンス
対象:企業、団体等の人権研修担当者


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