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今、ひとり親家庭に必要な支援を問う

印刷ページ表示 更新日:2022年2月7日更新

TOKYO人権 第81号(2019年3月28日発行)

インタビュー

今、ひとり親家庭に必要な支援を問う
当事者の声を響かせつつ広げるには

 ひとり親家庭の貧困が深刻化し、大きな問題となっています。自身も非婚シングルマザーとして生きてきた赤石千衣子さんは、日本社会におけるひとり親家庭の生きづらさと30年以上にわたり向き合ってきました。「ひとり親家庭の貧困状態を改善するには、差別や格差など日本社会の構造的な問題も考えなければいけない」と話す赤石さんに、ひとり親が子どもと一緒にいきいきと暮らしていくために必要な支援の在り方について、お話をうかがいました。

PROFILE

写真:赤石 千衣子さん顔写真
赤石 (あかいし ) 千衣子(ちえこ )
認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長

1955年、東京生まれ。非婚シングルマザーとして「児童扶養手当の切り捨てを許さない連絡会」に参加。婚外子差別撤廃や夫婦別姓を求める活動などにも関わりながら、シングルマザーの支援を続ける。2013年より、しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。社会保障審議会児童部会ひとり親家庭への支援施策の在り方に関する専門委員会参加人。社会福祉士。著書に『ひとり親家庭』(岩波書店)、編著書に『シングルマザー365日サポートブック』などがある。

ひとり親家庭とその子どもを取り巻く環境についてお聞かせください。

写真:インタービューを受ける赤石さん
撮影/細谷聡

 40年前に比べ、シングルマザーは2倍に増えています。厚労省が5年ごとに実施している「全国ひとり親世帯等調査」によれば、2016年度の母子世帯は123.2万世帯、父子世帯は18.7万世帯です。母子家庭になった理由をみると、離婚が79.5%、死別が8.0%となっており、死別は減って離婚が増えています。離婚の理由は、ドメスティック・バイオレンス(身体的暴力、精神的虐待などを含む)や夫の借金などが多く、私たちのしんぐるまざあず・ふぉーらむが行った調査でも、離婚した半数以上の女性が、夫の経済的問題、夫による暴力・虐待を離婚の理由にあげています。

 経済面を見ると、母子世帯の就業率は81.8%と、諸外国に比べとても高いのですが、このうち正規雇用をされている人の割合は44.2%しかありません。年間の就労収入は200万円、児童扶養手当などを足しても243万円と低く、世帯の年収で比較しても子どものいる世帯の平均年収707.8万円に比べると二分の一にしかならないのが現状です。働いているのに貧しい、日本のひとり親家庭の相対的貧困率(注1)は50%を超えており、これは先進国最悪とまで言われています。

 特にシングルマザーの8.7%は未婚・非婚(注2)ですが、日本の社会は、未婚・非婚の母を排除してきました。1984年には児童扶養手当法が「未婚の母には支給しない」と改悪されそうになったことがあります。国会で「おめかけさんには手当は不要」という答弁があったほど、偏見と差別があったのです。今も、死別・離別のひとり親には適用される寡婦(かふ)控除という所得控除が、未婚・非婚のひとり親には適用されない状況が続いています。

 シングルマザーの子どもたちの5割が大学・短大への進学を希望していますが、実際にはその半分しか進学できていません。進学先を選ぶときも「どこに進学したいか」ではなく、学費や通学距離など「どこなら行けるか」が優先されているのが現状です。

何がきっかけとなり、シングルマザーのための活動を始めたのですか。

 私は結婚をせずに子どもを生んだシングルマザーで、自分の子どもが通う共同保育所で保育士として働いていました。そんな中、シングルマザーに支給される児童扶養手当の制度が改悪されることを知ったのです。未婚・非婚の母には手当が打ち切りになるということを聞いて驚きました。その当時、私の月収は10万円ほどでしたから、児童扶養手当の3万3000円(当時)がなくなったらとても生活ができません。私は「児童扶養手当の切り捨てを許さない連絡会」という団体におそるおそる参加して活動を始めました。その結果、未婚・非婚の母への支給停止は見送られましたが、1985年、制度が改悪されました。

 その頃、死別ではない離婚・未婚・非婚のシングルマザーに対する世間の風当たりはとても強いものでした。「身勝手だ」という見方が多かったのです。ともすれば「かわいそう」「同情すべき」といったイメージが付いて回る母子家庭という言葉は使わずに、この連絡会を1994年に「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」に改称したのです。

「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」は、主にどのような活動をしているのでしょうか。

 離別・未婚・非婚・死別とシングルマザーになるにはいろいろな事情があります。そのため、支援のニーズも多様化しているのですが、その多くが不安定な雇用が生活不安につながっていることから、シングルマザーに対する就労支援、相談支援、セミナー、支援者養成、情報発信、入学お祝金などの子ども支援の事業を実施しています。

 シングルマザーのキャリア支援プログラムとして、世界最大の化粧品会社ロレアルグループの日本法人である日本ロレアル株式会社とコラボした「未来への扉」という就労支援事業を行っています。この事業は、日本ロレアルの美容部員(化粧品の販売員)や人材派遣のアデコ株式会社の取引先企業内のオフィスワークなどへの就職のチャンスがあり、注目されています。相談事業としては、電話相談に加え、グループ相談会も開いています。また、フードバンク(注3)活動団体と連携し、ひとり親家庭を対象とした食の支援もしています(2018年はのべ1500世帯に支給)。また、入学お祝い金事業も実施しており、2017年度は、小学校から大学などに進学する子どもたち794人に1人につき3万円(高校入学は4万円)のお祝い金を支給しました。ほかにも、夏のバーベキューや冬のクリスマス会など、親子向けのイベントも喜ばれています。随時行っている政策提言や、ひとり親向けのセミナー・講演会も私たちの大切な活動です。

 一方、支援者向けの講座として「ひとり親サポーター養成研修」を厚生労働省の補助金で行っています。さまざまな現場で行われているシングルマザーの相談支援は、もっと質を高める必要があります。この研修では、相談を受ける側の人が、当事者に安心感・安全感を与えられる対応を学びます。こういった研修を通して、よりよい相談支援が全国に広まればよいと思います。

シングルマザーには、具体的にどのような支援が必要だとお考えですか。

 ひとり親を対象とした就労支援プログラムを運営して、わかったことがあります。それは、パソコン講習とか医療事務といったスキルだけを身につけても、効果が出づらいということ。シングルマザーの多くは、自己尊重感が低い傾向にあります。ですから「未来への扉」のプログラムでは、まず、コミュニケーション講座を受講していただき、自己尊重感を高めます。その上で、実践的な内容の講座を受けていただくと、自信もつきやすく、前向きになるんです。ビジネスマナーや身だしなみ講座、問題解決の講座も受けていただきます。

 「ママカフェ」というグループ相談会も行っているのですが、自分と同じ立場のシングルマザーとの交流を通して、それぞれが抱えている思いや悩みを話し、共有します。すると「悩んでいるのは自分ひとりではなかった」と気づき、これが自己肯定につながり、エンパワーメントになるのです。託児付きで参加は無料ということもあり、とても人気があります。

相談会や各種プログラムへの参加を通して、当事者の皆さんは、どう変化していくのでしょうか。

 いろいろな方から相談を受けます。Aさんは、お子さんがいじめに遭い不登校になったということで学校や行政への不満をたくさん持っている方でした。私たちへの相談も当初は不満を言う時間が長くて、何度も何度も過去に起こったことをお聞きしながら、ときにはお叱りを受けました。一方で食の支援などもしていて、1年くらいそんな状況が続きましたが、密なやりとりを続ける中で少しずつ信頼関係ができてきました。お子さんも塾に行けるようになり、そしてAさんも仕事を始めました。もともとまじめな人なのです。そして不登校だったお子さんは、公立高校に入学することができたのです。お母さんも変わり、仕事でご自身の力を発揮できるようになりました。親子でよく頑張ったと思います。

 「未来への扉」の受講生のBさんは、当初は受講前の面談のときにも涙ぐんでいる、死別のシングルマザーでした。夫が亡くなってつらい思いをされたのですね。お子さんは学校に行けていないという状況でした。でも、「未来への扉」を受講することで、同じように頑張っている仲間がいることが励みになったのでしょう、変わったのです。メイクレッスンなどを通じて「自分の顔が好きになりました」と言うようになり、美容部員への就職も果たしました。お子さんも学校に行けるようになったそうです。

 ひとり親になったとき、頼れる相談先があったかどうか、あるいは、知人や友人から的確なアドバイスを受けられたかどうかによって、その後の当事者の生き方は大きく変わります。相談機関の役割はとても大きいのです。安心して相談ができて希望を持つことができる支援を続けていきたいと思います。

読者に伝えたいこと、読者にもできることがあればお聞かせください。

 日本のシングルマザーは高い就労率にもかかわらず、先進国でもっとも相対的貧困率が高くて、かつ働いているにもかかわらず、就労収入が著しく低い状態に置かれています。なぜでしょうか。それは、男女の賃金格差の結果であり、またパートで働く人が多く、賃金が低いからです。それは個々の努力の問題ではなく、構造的な問題です。ですから、一番目には働いて子どもが養えるような収入があげられるよう、格差を是正していくことが大切です。同時に企業の働き方が子育てしながら働く人を「内包」していけるように変わっていくとよいと思います。

 それを目指しつつも二番目には、所得の再分配を強化することが必要です。児童扶養手当の増額や就学援助、高等教育の給付型奨学金などもそれに入るでしょう。そのためには、ひとり親に対する世の中の目線が変わっていくことが大切です。離婚するのは自己責任ではありません。現代では、DVによる離婚も借金による失敗も、リストラで失業することもだれにでも起こり得ます。離婚を選択した場合には一時的に支援を受けることもあるということです。

 そして三番目には、支援する側も含めて、それぞれの立場で、「少しずつでもできることに参加する」人を増やしていくことが大切です。子ども食堂に参加したり、地域の中でできることをやったり、支援団体に寄付をすることなどです。まずは取り組みやすいところから始めて、同時に根本的なことも考えていけるといいですね。
 また、シングルファーザーの問題や、非正規雇用で子どもがいないシングルはどうなのか、高齢者シングルはどうなのかという問題もあります。ひとり親の支援と同様に、そうした人たちの人権も守られなければなりません。どんな生き方をしている人にも、その人の尊厳があり、暮らしの権利があるというところに視点を置きたいものです。子どもがいてもいなくても、どんなライフスタイルの人でも、その人らしく生きる権利があるということを、私たち一人一人がきちんと認識することが、大切なのではないでしょうか。


(注1)経済協力開発機構(OECD)では、貧困を表す社会指標の一つとして「国民の年間所得を順に並べ、その中央値の50%に満たない所得水準の人々の人口比率」と定義している。

(注2)ここでの「未婚・非婚」は『第3期東京都ひとり親家庭自立支援計画(平成27年度.平成31年度)』(東京都、2015年3月、P.9)の用例に準じ、死別・離別以外のひとり親世帯の類型として挙げている。

(注3)製造された食品の規格外品等を引き取り、福祉施設等へ無料で提供する活動。

インタビュー/植野 真澄・坂井新二(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/館野 公一、那須 桂

認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ
WEBサイト:https://www.single-mama.com/<外部リンク>

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