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TOKYO人権 第57号(平成25年2月28日発行)
特集
性的少数者の自殺リスク その背後にある「生きづらさ」とは
性的少数者【注1】の自殺リスクが高いらしいことは、関係者の間では以前から指摘されていた問題でした。近年、そのことを明らかにする研究結果が報告され、波紋を呼びました。その要因と考えられる性的少数者が抱える「生きづらさ」と、自殺予防について、取材しました。
東京都福祉保健局専門相談員、AGP(同性愛者医療・福祉・教育・カウンセリング専門家会議)メンバー
宮島謙介さん
性的少数者と呼ばれる人たちの中には、さまざまなタイプの人たちが含まれています。実際にどれくらいいるのか、政府による正式な調査はおこなわれていませんが、海外の複数の調査から、その数が推計されています。
「性同一性障害【注2】はおおよそ1万人に数人。また、同性愛者【注3】・両性愛者【注4】は人口の約3〜5%で、両者を合わせると20人に1人の割合。これは決して“少数”とは言えない数です」(東京都福祉保健局 専門相談員、AGP 同性愛者医療・福祉・教育・カウンセリング専門家会議メンバー 宮島謙介(みやじまけんすけ)さん)。
性的少数者は、日常的に偏見や蔑視にさらされることが多く、いじめやさまざまな差別を受けやすいのが現状です。
「家族にさえ理解されず、子どもの頃から“オカマ”【注5】などといじめられ続けることで染み付いてしまう自己否定感。社会に受け入れられていない孤独感…。それに、人生設計を見いだせず、将来に希望を持てないことも生きづらさの一つです」と語るのは性的少数者の自殺防止といじめ問題に取り組む団体「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」事務局の共同代表、明智カイト(あけちかいと)さん。また、同様のことを、宮島さんも指摘します。
「生き方の参考となるロールモデルが極端に少ない。人は自分と共通点のある人物を手本にして成長していきます。しかし、それが一般社会の中に見出せない。それなのに、ネガティブな情報は氾濫していて、そうした社会からの刷り込みによってますます生きづらくなってしまう。これは、性的少数者全般に共通した問題です」(宮島さん)。
「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」事務局 共同代表
明智カイトさん
性的少数者の多くは差別を恐れて、自身のことを周囲に打ち明けてはいません。そのため、自殺で亡くなった人が当事者であったことも、動機となった生きづらさも公にはなりません。自殺リスクの高さが認識されにくいのは、この問題が可視化されないことによるのです。
そうした中、日高庸晴(ひだかやすはる)氏(宝塚大学看護学部准教授)による、ゲイ【注6】とバイセクシュアル【注7】の男性に関する研究は特筆に値するものです。
「それまで性的少数者に関するデータといえば、海外や病院で集められた事例ばかりでしたが、国内で、しかも病人ではない人たちから統計データを得たことは画期的です」(宮島さん)。
研究からわかったのは、日本のゲイとバイセクシュアルの男性の中には、そうではない男性の約6倍もの自殺未遂経験者がいることでした。
「性的少数者であるがゆえの生きづらさが自殺リスクの要因になっているとすれば、レズビアン【注8】、バイセクシュアルの女性、トランスジェンダー【注9】にも同じ傾向があると考えられます」(宮島さん)。
この研究は政府が策定する「自殺総合対策大綱」にも大きな影響を与えました。有識者、議員、「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」ら当事者団体等、大勢の人たちが協力し、この研究を以って各方面へ働きかけた結果、2012年には「性的マイノリティ【注1】」への対策の必要性が明記されることになりました。これは、いないことにされていた性的少数者の存在をあらためて認めたことを意味します。ただ、大綱はあくまで指針のようなものであり、それだけでは社会は動きません。
「今後は大綱を根拠に、各自治体の具体的な動きを促す活動を続けていこうと思います」(明智さん)。
大阪の繁華街での若者男女2,095人を対象にした街頭調査
Hidaka Y et al (2008) Attempted suicide and associated risk factors among youth in urban Japan, Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology,43:752-757
わが国における若者の自殺未遂経験割合とその関連要因に関する研究<外部リンク>
日本人ゲイ・バイセクシュアル男性5,731人を対象としたインターネット調査
厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート2
j-msm.com<外部リンク>
性的少数者が一定数存在しているということを前提とした取り組みがほとんどおこなわれていないことから、学校教育の現場での対策も急務です。
特にいじめ問題は深刻で、“オカマ”ネタで笑いを取ろうとするなど、大人も性的少数者いじめに加担していることに無自覚であるといいます。
「とにかく『いじめないで』と伝えたい。『このクラスにもいるかもしれない』という意識を先生が持つだけで、当事者はとても救われます」(明智さん)。
また、中にはこの問題に取り組んでいる学校もありますが、偏った知識によって当事者側との意識にズレが生じているケースもしばしば見られるといいます。
「“オネェ【注10】キャラ”と性同一性障害しか知らないために、トランスジェンダーと同性愛者を混同していることがよくあります。一人ひとり事情も違うので、本人の話をもっとよく聞くようにしてください」(宮島さん)。
教育現場に限らず、支援や施策をするには当事者の声をもっと聞く必要がありそうです。「かわいそう」という“上から目線”で一方的に考えても、適切な対策は打ち出せません。当事者を活動に取り込み、むしろ当事者を中心に、それを周りがサポートする協力関係を築いてこそ、これまで公にならなかった当事者の本当の声を汲み取った活動ができるのではないでしょうか。
インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター)
編集/脇田 真也
用語集
(注)「セクシュアルマイノリティーズ・インカレネットワーク Rainbow College」作成の冊子より一部抜粋し加筆・編集した。
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子どものいじめに役立つ脱出策 | ストップいじめ!ナビ<外部リンク>
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