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TOKYO人権 第45号(2010年3月24日発行)
リレーTalk
車いすでもおしゃれしたい! ~「機能」と「デザイン」の両立を目指す~
福祉技術研究所 岩波君代さん
パピエール ドゥ 小澤百合香さん
(向かって左から、岩波君代さん 小澤百合香さん)
車いす利用者の足元をおしゃれに装う「あっと・ブーツ」は、「ブーツを履くのが夢」という声に応える形で生まれたそうです。企画・開発を担当したのは、「座・衣服研究会」。「福祉分野とアパレル分野を結びつけたい」という思いから会を立ち上げた方々に、“おしゃれ”をすることの大切さについてお話をうかがいました。
「座・衣服研究会」は、車いす利用者が抱える衣服の悩みを解決し、おしゃれを楽しんでもらうために始まった会です。ところが最初、参加した車いす利用者のみなさんはポカンとした表情のままで、話が一向に前に進まなかったんですよ。デザインの好き嫌いなどを語る以前に、何が悩みかもわからないような感じでした。
おそらくほとんどの方が、おしゃれなど自分には縁がないと思って生きてこられたからでしょう。それに、「おしゃれ」という言葉を使っただけで「そんなものはぜいたくだ」などと言われて育ってきた方もたくさんいました。
そこで衣服やおしゃれへの率直な思いを語ってもらう時間を会のプログラムに設けました。そうすると、当事者ならではの意見が次々と出てきたんです。たとえば、「お店に入れない」という悩み。「なんで車いすの人が?」という店員の視線が怖いというのです。また、補装具をつけていることで脚まわりが大きくなったり、洋服の上下のサイズが大きく違ってしまうことがあっても、お店の人に「私に合うサイズを探してください」とか「リフォームしてください」と、なかなかお願いできないという意見もありました。
こうした悩みは“気持ちのバリア”なのだと思います。けれどもこれは、障がい者の方から声を上げない限り変わらないでしょう。そこで研究会では、衣服の知識や自分のサイズとともに、「お店の人にどうやって自分の希望を伝えるか」ということも勉強しています。
研究会では、お互いの痛みもよく分かり合えるため、変に気遣う様子もなく、障害の度合いや障害が先天であるかないかなどで異なることなど、かなりつっこんだ、ストレートな意見も出し合っていますよ。本音を語り合い、思いを共有できる場というものが、この研究会の大切なところです。こうした過程を経て、私たちは車いす利用者の「困ったこと」を解決する商品を作り出しています。たとえば「あっと・ブーツ」という商品を作ったのは「下肢装具をつけているけど、おしゃれなブーツを履いてみたい」という声がきっかけです。一人ひとりに意見を聞いて試行錯誤を重ねた結果、補装具や靴の上からでも簡単に着脱できるように靴底をなくし、ファスナーで全開にできる構造にしました。
障がい者のための衣服というと、暖かさや動きやすさなどの使いやすさの側面ばかりが優先されがちなのですが、本来、衣服の「機能」とは、「おしゃれ」とワンセットであるべきものです。どちらか一方が欠けてしまえば衣服として成り立ちません。障がい者だからといって、「見た目」は切り捨ててしまうというのはおかしいし、とても不自然です。「おしゃれ」というのは単に着飾るということだけではなく、社会的に自分を認めてもらう行為でもあります。もしこれを奪ってしまったとしたら「あなたは家の中にずっと閉じこもっていなさい」と言っていることと同じになってしまう。
おしゃれをするのに、障害のあるなしは、まったく関係ありません。一人でも多くの車いす利用者に、いまよりもっと積極的におしゃれを楽しんでもらえるよう、私たちは研究会を通して共に学んでいきたいと思います。
座・衣服研究会
(有)パピエールドゥ 担当 小澤百合香
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