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TOKYO人権 第35号(2007年9月30日発行)
特集
盲導犬を育てる
写真提供:日本盲導犬協会
盲導犬は、視覚に障害がある人が、安全に歩くためのパートナー。交差点や道の角、段差の前での停止。電柱・看板といった障害物や、歩行にともなう危険の回避。指示された目的物への誘導など、さまざまな場面でユーザー(盲導犬を使う人)の行動をサポートしてくれます。以前にくらべると街頭や、乗り物、施設の中で見かけることも増えて、社会的な認知度は高まってきたように思えます。しかし、私たちは盲導犬や、視覚障害者のことについて本当に正しく認識できているでしょうか?
盲導犬の歴史は、世界的には第一次世界大戦後のドイツまでさかのぼります。視力を失った傷病兵のために、盲導犬の育成が組織的に始められました。日本国内では昭和32(1957)年に誕生した盲導犬チャンピィが国産第一号です。その後、次第に数を増やし、昭和53年には、道路交通法等の改正により、盲導犬の存在が法的に認められました。また、盲導犬を育成する団体も正式に認可されました。現在全国で9つの団体が盲導犬の育成・訓練にあたっています。
盲導犬の使用を「いますぐ希望する」または「将来希望する」と考えている視覚障害者は、およそ7800人と推計されています(平成10(1998)年、日本財団)。これに対して、現在活躍している盲導犬は965頭(平成19年8月現在)。必要とされている数には、遠く及ばないのが現状です。1年間で育成できる盲導犬の数には限界があり、育成が追いつかない状況が続いています。
盲導犬ディックと
ユーザーの矢野さん(左)
補助犬とは、盲導犬、介助犬、聴導犬のことを指します。かつては補助犬に対する理解が不足していたために、商業施設などで補助犬同伴の入店が断られることがしばしばありました。この法律の施行により、公共施設や交通機関に補助犬が同伴できるようになり、その後、平成15年10月から、デパートやレストランなどの施設でも、補助犬の受け入れが義務付けられました。補助犬の活躍の場は広がりつつありますが、受け入れる側の、いっそうの理解が求められています。
財団法人日本盲導犬協会神奈川訓練センター(横浜市港北区)は、平成9年にオープンした、総合的な訓練施設です。ここには、盲導犬の訓練だけでなく、盲導犬を育てる訓練士の学校や、視覚障害者が生活訓練を行うための施設などが備わっています。同施設における盲導犬の育成プロセスを紹介します。
繁殖犬には盲導犬に向いている性格の犬が選ばれます。
子犬は生後2 か月から1歳になるまでの約10か月間、パピーウォーカーと呼ばれるボランティアの家庭で愛情に包まれながら育ちます。盲導犬としての資質を養う大切な時期です。
1歳を過ぎたころ、訓練センターに戻ります。訓練は、指示に従う基本訓練から始まり、実際に街頭に出て行う誘導訓練へと進みます。7か月から10か月かけて訓練は行われます。
基本訓練や誘導訓練について、成果を確認します。評価は3か月の間をおいて、2回に分けて厳正に行われます。この結果、盲導犬になれない犬も出てきます。
ユーザーとなる人が盲導犬と一緒に歩くための訓練です。約4週間の前半はセンターに宿泊して実施。後半は自宅に戻り、普段使う駅や道で、歩行訓練を行います。
共同訓練が無事に終わると、盲導犬としての新しい生活がスタートします。約8年間活躍し、その後はボランティア家庭や、施設でのんびりと過ごします。
(財)日本盲導犬協会マネージャー
山口義之(やまぐちよしゆき)さん
街で盲導犬に出会った時、まず最初にお願いしたいことはそっと温かく見守っていただくことです。盲導犬は、カーナビのように目的地まで連れて行ってくれるわけではありません。ユーザーは、頭の中で目的地までの地図を描きながら、盲導犬に指示を出して歩いています。盲導犬が集中力を欠くと、安全に歩けなくなってしまいます。それでも、困っている様子がわかったら、盲導犬に声をかけるのではなく、視覚障害者本人に、「何かお手伝いしましょうか」の一言をかけてください。あるユーザーは、こう表現しています。 「目的地につくまでの苦労を半分、目的地についた時の喜びを2倍にしてくれるのが盲導犬です」と。当協会では、盲導犬の育成はもとより、視覚障害者の生活訓練と、盲導犬の訓練士の育成に力を注いでいます。現在は、年間50頭の育成体制の確立をめざして頑張っています。皆さんのあたたかい支援をお待ちしています。
盲導犬体験デイの様子
Q1.ラブラドール・レトリバー
Q2方言や言葉遣いによる違いをなくすなど
(注意:日本語を使用する育成団体もあります。)
Q3ハーネス
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