本文
TOKYO人権 第110号(2026年7月31日発行)
インタビュー
北村 直也(きたむら・なおや)さん
全盲のeスポーツ(コンピュータゲーム)プレーヤー、声優・ナレーター。1993年東京都生まれ。先天性の小眼球により生まれつき重度の視覚障害があり、学校では全盲として学ぶ。子どもの頃は色と光のみ判別できたが、20歳でその知覚も失った。筑波技術大学でプログラミングやアクセシビリティを学んだのち、大手IT企業に勤務。退職後、eスポーツを通じて障害者の社会参加を支援する株式会社ePARAに所属。格闘ゲーム『ストリートファイター6』のサウンドアクセシビリティ機能の監修に携わる。eスポーツイベントの企画・運営、視覚障害者の就労支援、商品やサービスのアクセシビリティに関する研究や協力など幅広く活動。(一社)日本ゲームアクセシビリティ協会理事も務め、障害者がゲームを楽しめる環境づくりに注力している。

私は先天性の「小眼球」という病気で生まれました。病名の通り眼球が小さい状態で、この病気は全盲になる確率が極めて高いとされています。私も学校では全盲として学んでいましたが、子どもの頃は色と光だけは判別できていました。そのわずかに残っていた視覚も、二十歳の時に失いました。
中学校までは普通学級に通い、高校から特別支援学級に通いました。小学校低学年の頃は友達との身体能力の差も少なかったので、鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでいましたね。好奇心旺盛でいたずら好きな性格だったので、触るなと言われたものに触ってみたり、押すなと言われたボタンを押してみたり、入るなと言われた場所に入ってみては怒られる、そんな活発な子どもでした。
また、私が幼稚園の頃に母が懸賞でゲーム機を当てたので、家では兄弟3人でよくゲームをして遊んでいました。例えば、マンガ『テニスの王子様』のゲームでは、相手がどんな球を打ったのかをキャラクターが声で喋(しゃべ)ってくれます。ですから、トップスピンだったら特定のボタンを押してスマッシュで返球して点を取るなど、音を頼りに対戦できたのです。その他のゲームも兄弟と遊びながら「音だけでどこまでできるか」を自然と研究していました。
ゲームと同じくらい好きだったのがラジオを聞くことです。小学生の頃から野球中継をラジオで聞いたり、友達とラジオのパーソナリティになりきって、視聴者からの架空のお便りを創作して回答する「ラジオごっこ」をしたりしていました。中学生になると、今度はギターを弾きたいと思い立ち、母の知り合いに教わりに行ったのですが、なぜかギターよりもプログラミングを教わりました。そこでプログラミングの面白さを知り、大学は筑波技術大学の情報システム学科に進学し、コンピュータとその応用技術を学びました。当時はスマートフォンに「ボイスオーバー」という読み上げ機能が付き始めた頃だったこともあり、UI(※1)やアクセシビリティ(※2)への関心も強くなりましたね。
大学卒業後は大手IT企業に就職し、システムエンジニアとして働いていましたが、メンタルの不調で2年で退職しました。その後、大学4年生の頃から声優の養成所に通っていたので、レッスンを受けながらフリーランスとして声優やナレーターの仕事を待ち、並行してWEBのアクセシビリティの仕事を受けていました。そんな中である時、知人を通じて株式会社ePARA(イーパラ)(以下、ePARA)と繋(つな)がったのです。
現在は、eスポーツ(※3)イベントの企画・運営、講師活動、eスポーツを活用した就労支援事業、商品やサービスなどのアクセシビリティ向上のための研究開発、そして声優・ナレーターやeスポーツのプレーヤーとして活動しています。
ePARAでの最初の仕事は、記事の執筆でした。私は阪神タイガースのファンで、年間100試合はラジオの野球中継を聞いています。そこで『実況パワフルプロ野球』というゲームを、どうすれば全盲の人でも楽しめるかについて記事にしたのです。具体的には、バッティングは投球音を聞いてタイミングを合わせて振るだけのモードにする、守備はオートにする、そして、実在の選手がキャラクターとして登場するので、「この投手はカーブが得意」などの知識を生かしてプレーするなど、工夫次第で楽しめることを紹介しました。
次に参加したのが「ePARAチャンピオンシップ」という、バリアフリーのeスポーツ社会人チームの企業交流戦です。格闘ゲーム(※4)の『鉄拳7』を3人対3人でプレーする企画だったのですが、チームの連携が浅かったこともあり、思うような結果を残せませんでした。しかし、これを機に出場選手とサポートメンバーでブラインドeスポーツチーム「Fortia(フォルティア)」を結成し、eスポーツの活動を継続していくことになりました。
点字ディスプレイ
パソコンやスマートフォンに接続して文字情報を読み込むと、
手前のピンが上下に動いて点字を表示する機器。
視覚障害者の就学や就労、読書などさまざまな場面で活用されている。
サウンドアクセシビリティは視覚障害のあるプレーヤーが音の情報だけでゲームの状況を把握して操作できるようにする機能です。格闘ゲーム『ストリートファイター6』(以下、『スト6』)にサウンドアクセシビリティ機能を搭載することになったきっかけは、前作『ストリートファイター5』が流通している時に、イギリスで暮らす視覚障害のある少年から届いた一通の手紙だったそうです。「キャラクターのジャンプ音を、垂直に飛んだ時と前後に飛んだ時で分けてほしい」という要望だったそうで、これを受けて制作会社である株式会社カプコン(以下、カプコン)の開発陣が『スト6』のサウンドアクセシビリティ改善に乗り出し、ePARAに協力依頼をしてくださったのです。
私たちの具体的な作業は、カプコンから試験的にサウンドアクセシビリティの機能を付加した対戦映像を何本かいただき、それを見ながら音に関する検証を行うというものです。例えば「キャラクター同士の距離感が音の高さで分かる機能」については、「ウィーン」という連続音より「ピッピッピッ」という断続音の方が耳が疲れない、などの提案をしていきます。私が特に要望をしたのは、「相手の攻撃が上段・中段・下段のどれなのかを音の高さで判別できる機能」を組み込むことです。相手の攻撃に対してガードができなかった時、単に自分の反応が遅れたのか、それとも下段ガードをしていたのに相手が中段の技を打ってきたからなのかが分からないと、対策が立てられません。これは『鉄拳7』での経験を踏まえた要望でした。さらに、対戦中に特定のボタンを押すと、お互いの体力と必殺技ゲージなど(※5)の状況を専用の音で読み上げてくれる機能も実装していただきました。
また、効果音の細かい音量設定にもこだわりました。人によってキャラクターの足音を大きくしたい人や、打撃音を小さくしたい人など好みがあるため、詳細な設定ができるようにお願いしました。発売直前にもかかわらず急ピッチで対応してくださった開発陣の心意気には感謝しています。
この取り組みの反響はとても大きく、中途失明でゲームを諦めていた方々から「導入の仕方を教えてほしい」と何件も問い合わせがありました。また、世界最大規模の格闘ゲーム大会「EVO」では、オランダの全盲eスポーツプレーヤーであるブラインドウォリアースヴェン選手が『スト6』で晴眼者に勝って会場を大きく沸かせました。その後、彼が最高ランクである「マスター(※6)」に到達したニュースは、私自身、プレーヤーとしてライバル心が刺激される出来事でした。

ゲームは、コミュニケーションの第一歩としてとても有効だと思います。例えば「視覚障害者と交流しよう」とか「障害理解」みたいなことを前面に打ち出した場合、実際に当事者と向かい合った時に、まず何を話したらいいか分かりませんよね。しかし、ゲームを入口にすれば「とりあえず、難しい話は抜きにして一緒にゲームしようよ」と、簡単にコミュニケーションを始めることができます。
以前、東京都人権プラザでeスポーツの体験会を開催していただいた際の出来事が印象的でした。私はその日、参加者を相手に12連勝ほどしたのですが、5連勝を超えたあたりから「誰かこの人の連勝を止めろ」と、会場の空気が変わってきたのです。障害の有無に関係なく、純粋に挑戦者を応援するという、自然な空気の入れ替わりが面白かったですね。
また、広島県でブース出展型のイベントに参加した時のことです。9歳の男の子が私のブースにやってきて、2日間で合計60試合も対戦しました。私は1日目で左手の親指が痛くなってしまい、2日目は運営側に意図的に休憩時間を設けてもらうよう交渉したほどでした。その子は、負けるたびに新しい技を覚えて私に挑戦を繰り返し、最後の1回は私を負かしました。そこには視覚障害のある大人と晴眼者の子どもという区別はなく、絶対に勝ちたいという純粋なゲーマー同士の気概だけが存在していました。
ゲームには、こうしてあらゆる壁を超えていく力があるのだと感じています。
北村さんは2026年5月に東京ビッグサイトで 開催されたeスポーツ大会「EVO JAPAN 2026」の
ストリートファイター6のトーナメントに参加。

コントローラー
北村さんがゲームで使用しているコントローラー。
特別仕様のものではなく、市販モデルのものを使用している。
駅などを中心にバリアフリー化が進んできましたが、社会全体を見ると、まだまだ整備されていない場所がたくさんあります。私は声優やナレーターの仕事で収録スタジオに出向くこともあるのですが、スタジオというのは地下など段差が非常に多い場所に設けられていることが多いのです。ですから、例えば収録に車いすユーザーを招きたいと思っても、段差のないスタジオを探すのがそもそも難しい。すると、招くこと自体を諦めなければならなくなります。スタジオに段差があることで、車いすユーザーが声優やナレーターとして活動する機会を制限している状態だといえます。
これからの社会に期待することは、こうしたバリアを理由に何かを諦める必要がない社会になることです。誰もが興味を持ったことに自由にチャレンジできる環境になるといいなと思います。
私自身、旅行をしたいと思った時にそれを強く感じました。やはり私一人や全盲の人同士で旅行をするのは難しく、だからといって目の見える友達と一緒に行くと友達に負担をかけてしまうので、旅行はしてみたいけれどできないと思っていました。しかしある時、全盲の友達がよく一人旅や当事者同士での旅行をしていることを知りました。そこで私も、思い切って当事者同士で2022年には九州にいる友達に会いに行き、翌2023年には三重県の伊勢神宮に行きました。旅行はずっと諦めていましたが、チャレンジしてみれば、計画次第で全盲の私でも旅行ができることが分かりました。
「やってみたいけれど、自分にはきっとできない」と諦めるのは、とても悲しいことです。やってみたいと思ったら気軽にやってみることができる環境になると、本当にいいなと思います。実際にやってみたら「難しかった」となるかもしれないし、「楽しかった」となるかもしれない。結果は分からなくても、誰もが気になったことにチャレンジできる、ハードルの低い社会になることを願っています。
インタビュー 玉邑 周平(東京都人権啓発センター 専門員)
編集 小松 亜子
撮影(表紙・2〜6ページ)細谷 聡
※1 「ユーザーインターフェース」の略称。ユーザーと製品・サービスとの接点が生まれる際の機器や仕組み、デザインなどを指す。
※2 障害や年齢にかかわらず、すべての人が平等に情報やサービスを利用できるようにするための工夫やデザインのこと。
※3 「エレクトリック・スポーツ」の略称。対戦型のコンピュータゲームで行う競技のこと。
※4 2人のプレーヤーがそれぞれ選んだキャラクターを操り、攻撃を出し合って、先に相手の体力をゼロにすれば勝利というルールの対戦式ゲーム。
※5 『スト6』には、勝敗に直結する体力の他に、強力な技や特別な行動を行うための数値が個別に存在しており、画面上に棒グラフのような形式で表示されている。
※6 世界中の人とオンライン対戦できる「ランクマッチ」モードにおいて、何度も勝利を重ね続けることによって辿り着ける最上の階級。総プレーヤーの十数%しか到達できない狭き門とされている。
Copyright © Tokyo Metropolitan Human Rights Promotion Center. All rights reserved.