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TOKYO人権 第110号(2026年7月31日発行)
特集
テレビ放送で人権を侵害されたと感じる言論や表現があった場合、視聴者は放送倫理・番組向上機構(以下、BPO)に申し立てができます。こうした仕組みによって、放送局やテレビ番組における人権意識は高まってきました。近年では、インターネット(以下、ネット)でも多くの番組が配信されています。ネットで配信されるドラマやバラエティ番組に対してもBPOのような仕組みがあるのでしょうか。メディア研究者の村上圭子さんにお話を伺いました。
メディア研究者の村上 圭子(むらかみ・けいこ)さん
国民の共有財産である電波を使う放送局には、放送法に基づいた規制があります。BPOは、メディアとしての表現の自由を守りながら、放送局が人権を擁護するための自主・自律的な機関として、2003年、日本放送協会(NHK)と日本民間放送連盟によって設立されました。BPOでは、視聴者から人権侵害の申し立てがあった場合、番組内容や放送倫理上の問題を審理して、その結果を公表します。問題があると思われる番組を独自に審議する機能もあります。かつては何か問題があっても“放送してしまえば終わり”という考えが制作者の中にないとはいえなかったと村上さんは言います。しかし、BPOの活動の浸透で、放送局は、より人権を意識した番組制作を心がけるようになりました。
2020年に、ネット上での配信と連動したリアリティショーと呼ばれるテレビ番組の出演者が、SNSで誹謗(ひぼう)中傷を受け、自死にいたった事件が発生しました。これがきっかけとなり、SNS上の人権侵害に対し、被害者が訴えを起こす手続きの簡略化などの制度改正が行われました。同時に、配信番組における出演者の人権擁護のあり方も問われることになりました
それでは現在、ネットで配信されるドラマやバラエティ番組に対して、BPOのような仕組みはあるのでしょうか。
村上さんは、放送とネットの情報流通の違いを次のように指摘します。人々が、暮らしに必要な最低限の情報にアクセスする権利を保障するという役割は、放送法の下で放送局が担ってきました。しかし、今では多くの人がネット経由で情報を入手しています。また、ネット上では、マスメディア事業者に限らず、誰もが情報や意見を発信できるようになっています。そこには偽・誤情報や誹謗中傷も含まれており、瞬時に拡散しやすい特性もあります。自由な言論空間と人権侵害が表裏一体なのです。
ネット空間は、巨大なプラットフォームがいくつもあり、それらの下に各種サイトがあり、更に個人のYouTubeやSNSを通じた発信があるという複雑な構造です。こうした中で、規制に関する議論は慎重に行われるべきであり、ネット版のBPOのような仕組みもまだ検討されていないと村上さんは言います。
欧州では、プラットフォーム事業者などに対して誹謗中傷や偽・誤情報等の削除を義務付けるデジタルサービス法が2024年に全面施行されました。日本でも2025年に情報流通プラットフォーム対処法が施行され、一定の法整備がなされました。プラットフォーム事業者には、被害の申し立てに対する対処プロセスの透明化をはじめ、人権侵害を抑止する強い姿勢が求められていると村上さんは言います。
そのうえで、放送局以外で動画配信を行う事業者や番組制作者にも、BPOが設立された目的と同様、表現の自由を守りながら人権を擁護する自浄能力を発揮させることが重要な鍵になると、村上さんは展望しています。
企画:吉田 加奈子
インタビュー・執筆 藤本 尊正
(ともに東京都人権啓発センター 専門員)
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