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TOKYO人権 第11号(2001年9月18日発行)
リレーTalk
高齢者の自尊心を尊重する介護や援助
(財)東京都老人総合研究所
鎌田ケイ子さん
ここでは、さまざまな分野の方々に人権についてのお考えを伺います。
少子高齢化が進み、高齢者介護の問題が深刻化しています。今回は痴呆高齢者の立場に立った介護について(財)東京都老人総合研究所の鎌田ケイ子さんにお話を伺いました。
現在、急速に増加の傾向にある痴呆高齢者の数は全国で100万人を超えているといわれています。私は、これまで寝たきりや痴呆高齢者の訪問看護や痴呆ケアの研究と実践、家族をはじめとする介護者との交流を通して望ましいケアのあり方を考えてきました。今後さらに加速する高齢化社会を目の前にして、今私たちに求められているのは痴呆について正しく知り、痴呆高齢者の立場に立った対応をしていくことではないでしょうか。
私は介護の視点から、痴呆の諸症状を大きく分けると、事実の誤認(現実の取り違え)と失敗行動の2つに分けられると思います。記憶障害や見当識障害、幻覚、妄想、精神混乱、人物誤認、作話などは現実を取り違えているためにおこる事実誤認です。失敗行動は、いったん外出したら家に戻れない、徘徊する、放尿、何でも口に入れるなどの症状が見られます。
これらの諸症状に対して、介護する側が行うべき基本的な行動は、痴呆高齢者の感じている世界を認めて尊重することだと思います。現実を取り違えて見当違いのことを言っているときに、頭ごなしに否定したり、また、行動が失敗しているようなときには、怒ったり説得をするというのは、よい結果が生まれません。人間には一人ひとり異なった感受性があるのですから、健常者が感じている世界を正しいとすることは、実は押し付けであり、相手を尊重しているとはいえないのです。
例えば、放尿とか徘徊の症状には、頃合いを見計らって誘導したり、トイレの位置を分かりやすく標示したりして、行動が失敗しない状況や環境を作る工夫が必要なのです。
また、ご飯を食べたばかりなのに、「まだか」とか催促をするようなときには、「もうすませた」と知らせるより、「これから支度をする」と言って期待を持たせた方が納得します。
行動を押さえ込むばかりでは、痴呆高齢者は生物として生きているだけの存在となってしまいます。痴呆高齢者が人間である証は、人間として生きている喜びを感じることなのです。
痴呆高齢者はどんなに知的機能が低下しても、子どもと違います。むしろ自尊心を傷つけられることに最も敏感な人だと言っていいでしょう。そして、年長者としてのプライドを大切に守ることによって、痴呆の進行をある程度、遅らせることもできるのです。周囲に迷惑をかけたり、身の危険性が発生するような状態であっても、人一倍、自尊心が強いというアンバランスな状態を率直に受け止めていくところに、対応の基本があるといっていいでしょう。そのためには、介護者自身が精神的余裕を持つ必要がありますね。気持ちが追いつめられる前に、一人で問題を抱え込まないで、身近な家族や行政サービス、家族の会等に是非相談してみてください。
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