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TOKYO人権 第108号(2025年12月10日発行)
特集
近年、子どもへの虐待等の不適切な保育をめぐる事件がメディアで頻繁に報道されています。こうした事案を未然に防止し、発生時に早期に対応するため、2025(令和7)年10月1日に施行された改正児童福祉法は、保育園、幼稚園、学童クラブなどの保育現場での児童虐待の通報を義務化しました。今、各自治体では職員、保護者など誰でも利用できる相談・通報窓口の設置が始まっています。そこで、こうした相談の仕組みをいち早く導入した港区の取り組みについて、子ども家庭支援部子ども政策課の高橋(たかはし)知子(ともこ)さんと最首(さいしゅ)治(はる)さんに伺いました。

高橋さん(左)、最首さん(右)
港区ではこれまでにも職員が保育施設を巡回し、アドバイスを行い、必要に応じて指導等を行ってきました。さらに区の担当部署に相談窓口も設けるなど、保育の質の向上に向けた取り組みを行ってきたと言います。しかし、「どこからが『不適切な保育』かの判断が難しいケースや、虐待案件発生時に調査や指導などの対応には専門家の助言や協力が不可欠」であることから、港区では2024(令和6)年1月に虐待等の不適切な事案について相談を受ける新たな仕組みを立ち上げました。
港区の相談の仕組みは、相談内容が区役所と外部の専門機関に同時に共有される点に特色があります。園長経験者や法律家などが在籍し、長年、保育に関わる虐待案件への対応を専門に行ってきた有限会社子ども総合研究所と連携する仕組みを立ち上げました。「第三者が入ることで判断の公平性も担保される」と言います。
区立や私立を問わず子どもの保育を行う区内のあらゆる保育施設が対象で、相談できるのは子どもや保護者、そして施設職員等です。相談の受付はウェブで行うことでいつでも相談内容を送信できます。「何か気になったときにいつでも相談できることが大切で、実際に夜に相談が寄せられていたケースもある」と言います。虐待等を「未然に防ぐことが一番ですが、もし起きたらすぐに対応できる仕組みにすることが重要だと考えています」。
開設以降、保育内容の相談など、コンスタントに相談が寄せられていますが、幸いまだ虐待案件はありません。「仕組みとして順調に機能している」と手ごたえを感じています。

港区の相談制度のチラシ(一部抜粋)
港区では相談制度の導入と同時に、保育施設職員への新たな人権研修制度を開始しました。子どもの人権を尊重した保育の実現には、職員の人権意識の向上が不可欠との考えに基づいたものです。
例えば、区立保育園の副園長を対象とした研修は4日間のプログラムで、初年度となる2024(令和6)年度は15名が受講しました。人権の基本や子どもの権利条約等を学び直したうえで、グループワークを通じて、子どもの権利が守られた保育ができているかについて、具体的事例をもとに検討します。
この研修は「人権ファシリテーター研修」と位置付けられ、受講者は自身の保育施設で、今度は自分が中心となって園の保育内容を子どもの視点から見直し、職員同士の話し合いを行うといった役割が期待されています。「保育の質の向上には、子どもの人権の視点に立った保育ができているかが大切です。そのためには保育施設の職員の人権意識を高めていくことも必要だと感じています」。
子どもの人権を中心にした保育を実現するために、通報、相談制度の義務化をはじめとしたさまざまな取り組みが進められています。その際、保育に携わるおとな自身が人権を理解していることも求められているのです。
インタビュー・執筆 林 勝一(東京都人権啓発センター 専門員)
港 区
虐待等不適切な事案などの相談窓口

東京都
保育所・幼稚園等における虐待等通報・相談窓口
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