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「障害の社会モデル」が導く共生へのヒント

印刷ページ表示 更新日:2025年7月23日更新

TOKYO人権 第106号(令和7年6月30日発行)

特集  

「障害の社会モデル」が導く共生へのヒント―社会のあり方を問い直す視点から

 障害者が直面する困りごとを、本人の能力や特性に起因する「個人の問題」とするのではなく、社会や環境に起因すると捉える考え方、それが「障害の社会モデル」です。公益財団法人日本ケアフィット共育機構で経営企画室室長を務める佐(さ)藤(とう) 雄一郎(ゆういちろう)さんに、このモデルの意義と実践について伺いました。

「困っている人のせいにしない」視点 

 ​「少し前まで日本では、障害を『個人の問題』と捉える『個人モデル』が主流でした。しかし、『社会モデル』では、障害は社会や環境のあり方にあると考えます」と佐藤さんは説明します。「例えば、段差があって車いす利用者が店に入れない場合、それは『足が動かないから』ではなく、『段差のある設計に問題がある』と社会モデルは捉えます」。
 この考え方は、2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」の中でも示されており、日本は2014年にこの条約を批准しました。そして2016年4月から施行された「障害者差別解消法」も、この社会モデルに基づいています。「こうした考え方は、徐々に浸透してきています」と佐藤さんは話します。

合理的配慮の義務化と誤った認識

 「2024年の法改正により、社会モデルに基づいた合理的配慮の考え方が広がり、民間企業にもその義務が課されました。これを受けて、研修やマニュアル整備を始める企業が増えています」と佐藤さんは語る一方、社会全体への広がりは十分ではないと感じています。「中には、『障害者が優遇されている』といった誤解も根強く残っている」と言います。
 こうした誤解を解くために、同機構は「バリアフルレストラン」※を企画しました。この企画では、車いす利用者が多数派という設定の中で、立って歩ける人が「不便さ」を体験できるように設計されています。社会が車いす利用を前提としているため、椅子がない、天井が低いなどの演出により、「社会の設計に偏りがある」ことを実感する参加者が多く、「初めて障害のある人の困難を理解できたとの声が寄せられている」と佐藤さんは言います。
特集

偏りに気づくことから始まる

 「障害がないことを前提につくられた制度や組織文化には、一定の偏りがあるとも言えます。例えば、ある人が、仕事ができない状況にあるとき、それは必ずしも本人の能力の問題ではなく、能力を発揮できる環境が整っていない可能性もあります。社会モデルの視点から見ると、社会や環境に原因があると考えることで、改善の可能性が広がります」と佐藤さんは指摘します。

誰もが持つマイノリティ性

 社会では、「誰もが何らかのマイノリティ性を抱えている」と佐藤さん。左利きや介護中の人なども、社会の設計によっては不利な立場に置かれるとしつつ、「『合理的配慮』は、社会的障壁を取り除くための『調整』です。加齢によって心身機能が低下していく超高齢社会では、社会的障壁は誰もが関わる問題であり、それらを取り除くことは障害の有無にかかわらず、多くの人に役立つものです。障害のある人は特別な存在ではありません。誰もが将来抱えるかもしれない困難を先取りしているだけなのです」と佐藤さんは説明します。
 社会モデルの視点から、制度や意識などの障壁や偏りに気づき、それを改善していくことは、すべての人にとって生活しやすい、より良い環境づくりを推し進めるものとなりそうです。
特集
​     佐藤 雄一郎さん
    

インタビュー・執筆 吉田 加奈子(東京都人権啓発センター 専門員)


※ 「バリアフルレストラン」の取り組みについて https://dare-tomo.team/barrierful-restaurant/<外部リンク>