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TOKYO人権 第105号(2025年3月31日発行)
JINKEN note/コラム
人権についてもっと知り、学びを助けてくれるおすすめの本・映画
人権に関連した話題がもっと身近に感じられるよう、当センターで人権の学びをサポートする「専門員」おすすめの作品を題材に、人権の視点で考えるためのポイントを解説します。
石原 真衣・村上 靖彦 著
2024 年/岩波書店
『アイヌがまなざす 痛みの声を聴くとき』
本書は、アイヌ民族の遺骨返還運動、アイヌの出自を持つ女性が受けてきた複合差別、そしてアイヌを文化継承などの回復の問題としてきた学術界への思いという3つのテーマを軸に、アイヌの出自を持つ5人へのインタビューと、インタビュアー2人の分析と論考によって構成。当然ながらそれぞれの問題は一枚岩でなく、複雑な事情が交差している。
社会から向けられてきたまなざしを、アイヌはどのようにまなざし返しているのか。当事者の声を聴き、アイヌの過去・現在・未来を考える一冊。
ポイント
「まなざす」という印象的な言葉は、研究の対象や観光資源といった視点からアイヌを「消費」してきた和人※1に、現実を考えるきっかけを投げかけてきます。
特権的な立ち位置にある多数派は、その特権から疎外された少数派からの訴えがあって初めてその不平等や不正義に気付くこともできます。
その痛みの声を聴き、受け取ることで、問題を理解する糸口がつかめるのではないでしょうか。
執筆 東野 明子(東京都人権啓発センター 専門員)
© 山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
監督・脚本 岨手 由貴子
原作 山内 マリコ
『あのこは貴族』(集英社文庫刊)
2021年公開 124 分/ G /日本
『あのこは貴族』
東京の裕福な家庭で育った主人公と、地方から上京し自らの力で生活を切り開いてきた女性。異なる背景を持つ2 人が偶然出会い、それぞれの生き方を見つめ直していく物語。自分には手に入らないものを前に、それぞれの「生きづらさ」を抱える2 人は、家庭や社会から押し付けられるジェンダー観に揺さぶられつつも、自分らしい生き方を探っていく。
ポイント
本作品は、経済的状況、東京と地方の地域間の違いなどの社会的・構造的な格差を浮き彫りにしています。
結婚の際、相手から家族の背景を調べる身元調査※2を受けた主人公が、周囲の期待に縛られながらも自尊心を模索する姿が注目すべき点と言えます。
特権的な立場を享受する一方、家制度の維持が個人の意志に優先されるなど、現代社会における自由と選択、幸せを求める権利についても、深く考えさせられる内容です。
執筆 吉田 加奈子(東京都人権啓発センター 専門員)
※1 アイヌの出自を持たない多数派の日本人。
※2 調査会社などを使って出身地や家族の状況を調べること。人権を侵害し、差別につながるおそれがあるとされる。
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