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「ステレオタイプ・ 偏見との向き合い方」

印刷ページ表示 更新日:2024年9月12日更新

TOKYO人権 第103号(令和6年8月31日発行)

特集  

講座の風景のイラスト  東京都人権プラザでは、人権問題都民講座を毎年実施しています。講座にご参加いただけなかった方にも広く内容をお伝えするため、過去に実施した講座の内容を特集記事として紹介します。

 今回は、令和5年度第2回人権問題都民講座「ステレオタイプ・偏見との向き合い方ープリンセス像や血液型占いと無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)」の講演内容を基にした、講師の上瀬由美子さんによる寄稿を掲載します。

 

 近年「無意識の思い込み」をキーワードにして、ステレオタイプや偏見について考える機会が多くなりました。ステレオタイプとは「大阪の人はせっかち」「東京の人は冷たい」など特定のカテゴリーに含まれる人たちの多くが持っていると信じられている特徴のことで、偏見はそこに否定的な感情や評価が加わったものをさしています。これらの思い込みは、当該の人々に苦しみをもたらし、集団間対立・差別・不平等を正当化するために使われるなどの問題を生じさせます。これまでの心理学の研究から、私たちはとても幼い頃からステレオタイプの形成につながる知識を身につけてしまうこと、(偏見的でないようにしたいと強く思っている人であっても) 意識をしていないと自動的にステレオタイプを使ってしまうことが明らかになっています。また一旦ステレオタイプが作られると解消が難しいことも確認されています。
 昨年9月に実施した講座では、ステレオタイプの性質や思い込みが強化されるメカニズム、ステレオタイプや偏見を低減させるために個人や集団ができることなどについて、参加者の方と一緒に考えました。

思い込みを自分で修正するためのヒント

 心理学では、「ステレオタイプや偏見の修正は難しいが、可能である」と考えています。ただし変えるためには、持っている人が自分の中にある思い込みに気づくこと、そして目を逸(そ)らさずに修正を続けていくことが必要です。「言うは易く行うは難し」ですが、修正につなげるヒントを以下に示します。

(1)自分が同じ立場だったらどうかを考えてみる
  ステレオタイプを使って人を判断している時には、相手を「自分とは全く異なる人」とイメージしていることが多いものです。視点を変えて相手の身になって考えてみることは偏見の低減につながります。

(2)多様性を意識する
  外集団( 自分が含まれない集団) は、「あの人たち」とまとめて認識されてしまいがちです。内集団(自分が含まれる集団) の中に色々な人がいるよう   に、外集団の人も実際にはひとりひとり異なっています。

(3)別の言い方を考える
  ステレオタイプに基づいた発言をしてしまい失敗したときには、何と言ったらよかったのか別の言い方を考えてみましょう。適切な言い方を用意して身につけておけば、失敗を繰り返さないように気をつけることができます。

 × 「○○さん、女性の視点から何かご意見お願いします」
    (○○さんは女性の代表ではない。)
           ↓
 〇 「○○さん、何かご意見お願いします」

(4)あてはまらない人、逆の特徴を持つ人を思い浮かべてみる
  ステレオタイプにあてはまらない人や逆の特徴をもつ人を思い浮かべ、それを繰り返すことで、固定化されたイメージは次第に変わっていきます。

(5)「無意識の思い込み」を使ってしまいやすい場面を覚えておく
  人は、忙しい時や一度にたくさんのことをしなければならない時、判断について自分の責任が明確でない時に、ステレオタイプを使った自動的な判断をしてしまいがちです。

(6)ひとりの人が様々な立場にたっていることについて考える
  人は差別を受ける側にも差別する側にもなり、ひとりが複数の差別を被っている場合もあります。そして偏見・差別が生み出す苦境は人によって異なっています。

(7)「特権」について考える
  自分がはじめから持っている安定的な立場は、「あたりまえ」と感じられ、特別なこととは認識されにくいものです。しかし、その「あたりまえ」と思っていることが、別の立場の人たちから見れば、特別に優位な立場であることが往々にしてあります。

(8)失敗を活かす 
  「偏見がかっている」と他者から誤りを指摘されたときに、「そんなつもりではなかった」「悪気はなかった」と拒否するのではなく、立ち止まって考えてみることが大切です。非難されたことをネガティブな経験として忘れようとするのではなく、どのような場面でなぜ自分がその思い込みを使ってしまったのかを考え、何に気をつけたら良いかを考えてみましょう。それにより、同様の場面で失敗しないように注意することができます。

有効な集団間接触を作るためのヒント

 集団間に対立がある時、両者の間に交流がほとんどないまま否定的な思い込みが形成・維持されていくことは珍しくありません。このような場合、内集団・外集団の垣根を超えて人々が交流することで否定的態度が低減することが知られています。しかし一方で、接触が逆に対立を強めてしまう場合もあります。偏見低減につなげるためには、以下のような要素が重要となります。全てそろっていなくても大丈夫ですが、多いほど良いでしょう。

(1)地位の平等性
  どちらかがどちらかを一方的に助ける関係ではなく、立場が交代したり双方が助けあえるような平等な関係での交流が効果的です。

(2)ステレオタイプを反証する行動を促進する関係
  当初の思い込みとは違う、良いギャップを感じられるような場面が交流の中で生まれると良いでしょう。

(3)相互依存性(共通の目標で協力) 
   双方が協力しあわないと解決しないような課題があると効果的です。自分たちが損をしないために、外集団の人たちときちんと向き合う必要がでてくるためです。

(4)個人として知り合う機会
   「○○グループの人」としてではなく、「●●さん」個人として知り合いになれると効果的です。友情形成は偏見の変容や低減に強くつながります。

(5)十分な時間と回数
  好ましい接触でも、その1回だけで大きな変化を生じさせることは難しいものです。

(6)平等な関係を良しとする社会規範(社会的・制度的な支持)
  社会全体で偏見をなくしていこうとすること、そのことを行政や組織が明確に支持することがとても重要です。偏見・差別を否定する明確なルールがない場合には、ステレオタイプは抑制されにくく、偏見や差別の肯定が生じてしまうからです。

 自分を変えることについても、集団間関係を変えることについても、ひとつの方法がいきなり変化をもたらしてくれるわけではありません。「繰り返し 時間をかけて 少しずつ」進んでいく辛抱強さが求められます。

 

令和5年度第2回人権問題都民講座のチラシ

令和5年度第2回人権問題都民講座のチラシシ

講師・執筆

かみせ ゆみこさんの写真 

 

 

 

 

上瀬由美子(かみせ・ゆみこ)

立正大学心理学部教授。日本女子大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学。1996年に博士(文学)取得。
2010年より現職。社会問題を研究対象に扱うほか、アニメーションを題材にしたステレオタイプの分析なども行う。
日本応用心理学会常任理事。著書に『ステレオタイプの社会心理学ー偏見の解消に向けて』、共著に『偏見や差別はなぜ起こる?心理メカニズムの解明と現象の分析』、訳書に『セックス/ジェンダー性分化をとらえ直す』などがある。


● 令和6年度の実施済み講座●

アイヌ文化と多様性―もともと多様な「わたしたち」が考えるアイヌについてのお話(講師 北原 モコットゥナシ/北海道大学アイヌ・先住民研究センター教授)
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