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「見た目」を重視する社会を問う、 自分のままで、自分らしく生きるための模索

印刷ページ表示 更新日:2024年7月25日更新

​​TOKYO人権 第102号(2024年6月30日発行)

Round-table Talk

座談会メンバー

Profile

かんばらゆかさん わたなべひろゆきさん Yuyaさん

写真左から
神原 由佳(かんばら・ゆか)
アルビノ
1993年生まれ。社会福祉士、精神保健福祉士。現在は通信制大学で社会福祉士の養成に関わっている。

渡邊 浩行(わたなべ・ひろゆき)
トリーチャーコリンズ症候群
1989年生まれ。大学で教員免許を取得。臨時教員を経て、現在は障害者施設の世話人として働いている。

Yuya( ゆうや)
アトピー性皮膚炎
2000年生まれ。大学時代にスキルを身に付けて、アトピー性皮膚炎の経験をもとにYouTube配信。
https://www.youtube.com/@Yuya-sz5mf<外部リンク>

とがわひろこさん

外川 浩子(とがわ・ひろこ)
(NPO 法人マイフェイス・マイスタイル代表)
当事者でも当事者家族でもないが、顔にやけどの痕がある人との交際がきっかけで「見た目問題」に出会う。疾患や外傷等による外見の違いによる差別のない社会をめざして活動する。

ひとはみかけというけれど 表紙
『人は見た目! と言うけれど―私の顔で、自分らしく』(岩波ジュニア新書)

座談会メンバー

聞き手(司会)
(1)外川浩子さん

(2)神原由佳さん

(3)渡邊浩行さん

(4)Yuyaさん

   とがわひろこさん (1)かんばらゆかさん(2)

 わたなべひろゆきさん(3)  Yuyaさん (4)

 外見や容姿など、いわゆる「見た目」を基準に人の価値を判断しようとする考え方を「ルッキズム」といいます。顔や身体にアザ、やけど、キズなどの症状を抱えている人は、「見た目」を重視する社会の価値観のなかで、尊厳を傷つけられ、様々な不利益を被ることが少なくありません。そこで、今回は外見に症状が現れる疾患を抱える3人の当事者の方々に、これまで経験してきたことや、ルッキズムに対する考えをうかがいました。

18歳までのあいだに9回の手術を経験した(渡邊さん)

外川 まずご自身の疾患と、それが「見た目」にどう影響しているかをご説明いただけますか。

渡邊 トリーチャーコリンズ症候群という遺伝性の疾患です。顔の周辺の骨格の形成が不十分だったり、骨格がなかったりすることで独特の容貌になります。耳がない人もいるし、耳があっても穴がない場合もあります。欠けている骨格を補うために、自分の体のほかの部分の骨を削って移植手術をする人が多いです。僕もこれまでに9回の手術を受けましたが、18歳のときに治療をやめました。

神原 アルビノと呼ばれている疾患で、体に必要なメラニン色素を作れないことで、髪や皮膚、眼の色が薄くなるのが特徴です。さらに弱視などの視覚障害を伴うことも多いです。医学的には眼皮膚白皮症といい、遺伝性の疾患です。日焼けをすると皮膚がやけどをした状態になるので、冬でも夏でも日焼け止めのクリームが欠かせません。
 子どもの頃は大学病院で定期的な診察を受けていたのですが、そのたびに「皮膚がんの心配もあるから日焼けには注意してね」と言われていて、中学生のころまで「自分は将来皮膚がんで死ぬんだ」と恐怖を感じていました。

Yuya 僕の場合はアトピー性皮膚炎で、全身に激しい痛みとかゆみが生じるのが特徴です。昔からある疾患ですが治療法は確立されていません。皮膚を掻く(か)ことで皮膚の表面が変化して、それが見た目に影響することに悩んでいる人が多くいます。僕は大学受験の精神的なストレスで症状がかなり悪化しました。大学を休学せざるを得なかった時期もありました。今はかなり落ち着いていますが、再発しないように気をつけている状態です。

自分の似顔絵を描くときに、髪も肌もクレヨンの色の中から選べなかった(神原さん)

外川 生まれつき症状を抱えている渡邊さんと神原さんは、ご自身の見た目が他の人と違うことを意識されたのはいつ頃ですか。

渡邊 幼稚園の頃にある子からしつこく「変な顔」と言われていました。その子から「変な顔の子とは遊ばないよ!」と言われたのが決定打でした。
 幼稚園から中学校までは学校には楽しく通っていたのですが、高校生の時に他人の視線に触れるのが苦痛になり、引きこもり状態となりました。通信制の高校に編入したときに、そういえば親は小学生の頃から学校には無理していかなくてもいいんだよと言っていたことを思い出しました。ずっと心配していたんでしょうね。高校卒業後は大学に進学したのですが、人目に触れるのが苦痛であることには変わりはなく、精神的にはかなり無理をして通学していました。

わたなべさん6歳くらいの頃    
 渡邊さん 6歳くらいの頃(本人提供)

神原 いじめや嫌がらせを受けたことはありませんが、私も幼稚園の頃に男の子にちょっかいを出されることがありました。理由はわからなかったけど、もしかしたら色が違うからなのかなと。小学校では図工の時間にクレヨンで自分の似顔絵を描いたとき、髪の色も肌の色もクレヨンの中から選べなかったことがありました。クラス全員の似顔絵が壁に張り出されているのを見て、自分の描いた絵だけがポツンと浮いているように思えました。

かんばらゆかさん

外川 Yuyaさんは子どもの頃はどうでしたか。

Yuya 症状が極端に悪化したのは19歳の時ですが、それまでにもアトピーは発症していました。小学校低学年くらいから肘とか膝の裏に傷ができていて、体操着や水着、半袖半ズボンの服を着るのは嫌でした。
 大学を休学していた時期には、体中がやけどを負ったような状態で、いつも包帯をぐるぐる巻きにしていました。家族も「これじゃ勉強どころじゃないね」と理解して面倒をみてくれていました。

サラリーマンの生活は絶対無理。だから大学時代に動画配信のスキルを身に着けた(Yuyaさん)

Yuyaさん

外川 今、お話しいただいたような経験が、ご自身の将来の職業選択などに影響を及ぼしたことはありますか。

神原 普通に就職活動をしても厳しいかなと思ったんですよね。金髪でリクルートスーツは、ないだろうと。でも、人と関わる仕事をしたかったので、社会福祉士と精神保健福祉士の資格を取得して、ソーシャルワーカーになりました。

Yuya 僕がYouTubeの動画配信を始めたのは、一般企業に勤務する生活は絶対無理だと思ったからです。週5日出勤する生活リズムで暮らしたら、ストレスに耐えられずに症状が悪化することは明らかなので。だから、自分に合ったペースで自分の好きなことを仕事にできるスキルを、大学時代から身に着けておきました。

「半径5メートル以内」の人たちが大切にしてくれているなら、それ以上、無理しなくていい(神原さん)

外川 「見た目」にハンディキャップを抱えていると、「なんで自分だけが…」という不公平感を感じると思います。そのような感情とはどのように折り合いをつけていますか。

渡邊 世の中の価値観をまともに受け止めちゃったら、自分は「最下位」だから。トリーチャーコリンズとか、男性とか、34歳とか、そういった自分を規定する「属性」を全て取り払った後にも残る自分の本質のようなものを大切にしたいと考えています。

神原 いい意味で「諦め」ています。昔は「自分はアルビノというだけで劣っているから、人一倍頑張らないといけない」という観念にとらわれていました。今は、「半径5メートル以内」の近い人との関係を大切にしたいと思っています。大事にしたい人たちから、私も大事にされているという安心感があるので、頑張ることのできない素の自分のままでいいと思えたのです。

Yuya 僕が動画配信を考え始めたのは、アトピーの症状が最悪で、大学を休学していたときでした。実は叔父が筋ジストロフィーで亡くなりました。アトピーは困難ではあっても治る可能性はある疾患です。それなら諦めたくないと、いろいろなことを試し続けました。症状がかなり緩和した今の状態は、当時の僕を知る人には想像できなかったと思います。

世の中が変わりつつあるが、社会が変わるには時間がかかる(神原さん)

外川 最近「ルッキズム」という概念が注目を集めています。この言葉は学術的な定義を超えて広い意味で使われるようになっていますが、このことについて思うところはありますか。

神原 テレビのお笑い番組などでも、外見の特徴を「ネタ」にする芸は減ってきました。漫画やアニメで人気の『鬼滅の刃』でも、悪役ではなく主役のキャラクターの顔にアザがあったり、そういうところは変わってきていると思います。私自身もアルビノだからということでからかわれることもなくなりました。

渡邊 僕も見た目を「ネタ」にいじられることはありませんね。

外川 社会は変わっていくでしょうか。

渡邊 見た目での差別に人々が敏感になっているように感じるし、そもそもルッキズムという言葉が使われるようになってきたこと自体が、変わりつつある証拠です。でも不利益なことはこれからも起こるでしょうから差別にぶち当たれば、はっきり言います。

神原 いい方向に向かっているとは思う一方で、まだ限界も感じます。社会が変わるのにはとても時間がかかると痛感しています。

Yuya アトピー性皮膚炎のことを正しく理解してほしいと思います。「ちゃんとお風呂に入ってるの?」とか「伝染しないの?」とか。清潔にしているし、伝染しない病気なのですから。

Yuyaさん
​ Yuyaさん 大学を休学中の頃(本人提供)

昔はトリーチャーコリンズを「個性」だと捉えていたけれど、それを疑問に思うようになった(渡邊さん)

わたなべひろゆきさん

渡邊 10代から20代の前半くらいまで、トリーチャーコリンズは自分の個性だと捉えて、メディアを通じて表現していました。しかし最近そうすることに意義を感じられなくなってきました。「見た目の違いは個性だ」なんて言う人でも結局、他人事でしょと感じることもあり、自分の辛さは誰も理解できないと絶望しました。できるだけ目立たず生きたいと考える当事者がたくさんいることにも気づきました。

神原 最近では「そういえば私ってアルビノだったんだ」と思えるほど、普段は意識しなくなっています。だから自分がアルビノであることを個性だとは思っていないし、他人から「個性的でいいね」みたいな言い方をされたら腹が立つと思います。当事者として発信するのは同じ辛さに悩む若い世代のためであり、将来の参考になるロールモデルを一人も知らなかった過去の自分のためです。

外川 Yuyaさんはアトピー性皮膚炎をテーマに情報発信をすることで、「アトピーのYuyaさん」というように、自分と症状がセットで認識されてしまうと思います。それについてはどうお考えですか。

Yuya そう呼ばれたら嫌です。今は症状が落ち着いているだけで、いつ症状が出るかわからないし、一生つきあうしかないですから。アトピーじゃない方がいいですけど、アトピーの自分だからできることを考えて「発信」をしています。

問題の解決に焦りは禁物。視野を広く持つことが大事(Yuyaさん)

かんばらさんの瞳の写真の前でとがわさんとかんばらさん他大勢
​外川さんと神原さん(上左から3人目、4人目)。神原さんの瞳を大写しした写真作品の前で(本人提供)

外川 最後に言っておきたいことはありますか。

神原 「自分がつらいと思ったら、つらいと言ってもいいんだよ」と言いたいです。「皆、つらい思いをしているんだよ」と言う人がいるけれど、だから黙って我慢しなければならないというのは違うと思います。誰だって、大変な時には、つらいと言えばいい。

渡邊 多様性という言葉がもてはやされていますが、マジョリティーとしての立場を脅かされない安全地帯から「いろんな人がいていいよね」みたいなことを言われると、それはそれで腹が立ちます。「多様性を尊重する」という言葉を使うのであれば、自分とは異質な人と接してみて、分かろうとする努力を重ねてほしいんです。

Yuya 自分が抱えている問題を、今すぐにどうにかしないといけないと焦っている人が多いようですが、焦りは禁物です。変えられないものは受け入れるし、変えられるものは努力したらいい。一旦社会から外れて休んでもいいし、みんなと同じような生き方を選ばないことを恐れる必要は全くありません。視野を広く持つことが大切だと思います。

 

​企画 林 勝一 (東京都人権啓発センター 専門員)
編集 杉浦由佳
撮影(表紙・2〜6ページ)百代
協力NPO法人マイフェイス・マイスタイル