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TOKYO人権 第102号(2024年6月30日発行)
特集
―「インクルーシブシティ東京プロジェクト」
東京都人権プラザでは、ユース世代を中心とした若年層を対象とする3年間の事業として「インクルーシブシティ東京プロジェクト※1」を2023年度から実施しています。このプロジェクトでは、「インクルーシブ」な社会に導く・支える「人」の育成を目的とし、(1)若年層を対象として人権を「学ぶ」ための体験・フィールド型学習プログラム、(2)ユース世代に接する大人に向けたセミナー、(3)人権教育・啓発を広げ、「つなげる」ための特別展示(セサミストリートのキャラクターを活用した「子どもの権利」についての展示)の3事業を行っています。本特集では、(1)としての位置づけで2023年11月に初めて実施した「人権ディフェンダーになるための4日間集中プログラム〈ユース向け〉」について報告します。
社会を担う若者の健やかな成長は社会の発展の基礎をなすものであり、多様な人が共に支え合う「インクルーシブシティ東京」の実現には、ユース世代へのアプローチが必要不可欠です。2023年4月に施行されたこども基本法でも、子どもたちが「自分に直接関係することに意見を言えたり、社会のさまざまな活動に参加できること」という基本理念が定められているように、権利の主体である子どもの行動を後押しするような考えが国内で広がりつつあります。また、海外では「ユース・ソーシャル・アクション」と呼ばれるユース世代が社会によりよい変化を与える実践に注目する報告もあります※2。こうした背景を踏まえ、本プログラムではユース世代を対象に、人権について学び、さまざまな変化を起こしていく役割を担って欲しいという期待を込め、15歳から25歳くらいの若年層に対し働きかけることにしました。
プログラムの名称にある「人権ディフェンダー」とは、人権を守るという強い意志を持ち、自ら行動し平和的に人権を促進していく人のことを意味します※3。人権ディフェンダーになるために、特別な資格は必要ありません。人権を守るという強い意志を持って行動できる人であれば、誰もが人権ディフェンダーになれるのです。世界では、人権ディフェンダーの名の下に、大勢の人々が日常のあらゆる場面で有償・無償の人権を守る活動をしています。
初回となる2023年度は「性の多様性」をテーマに4日間で実施し、大学生、社会人など15人が参加しました。人権教育や子どもの権利の専門家から人権について学び、当事者から直接話を聞き、写真で自分を表現するワークショップや新宿2丁目を歩くフィールドワークを行いました。自分自身と人権とのつながりを体感しながら、「人権侵害の現場に遭遇したらどのように行動すれば良いか」などについて活発な議論を行い、最後に各自が「人権ディフェンダー」として具体的にできることを想定しながら行動計画を作成しました。
プログラム終了から3ヶ月が経った3月下旬、参加者が再び集った振り返り会では、「知識を得て良かったという感想に終わらず、色々な人が周りにいると分かった上で行動するという思考になった」など、考えや行動が変わったという報告が次々に上がりました。参加者同士がつながり、社会課題解決のための行動を共にする仲間ができたという報告のほか、「人権ディフェンダー」という自覚を持ちはじめたことが、人権を守るための行動をとる後押しになったといった感想もありました。
受講した参加者が今後、今回の学びを周囲に伝え、広げていってくれることを願っています。2024年度は、ユース世代向けのプログラムを2回実施する予定です。この取り組みをきっかけとして、人権を守るために具体的に行動できる人が増えていくことが、多様な人が共に支え合う「インクルーシブシティ東京」の実現につながっていくように思います。
執筆 吉田 加奈子(東京都人権啓発センター 専門員)
人権ディフェンターになるための4日間集中プログラム<ユース向け>のチラシ
実施済みのプログラム詳細については、こちらのQRコードからご覧いただけます。
※1「『未来の東京』戦略」に掲げる「インクルーシブシティ東京」の実現に向け、東京都人権プラザが引き続き社会に貢献していくために実施する事業。
※2 英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省の報告による。
https://www.gov.uk/government/publications/youth-social-action-rapid-evidence-assessment
※3 国際的に認知されている人権擁護の実践者。国連による定義は以下を参照。
https://www.ohchr.org/en/special-procedures/sr-human-rights-defenders/about-human-rights-defenders<外部リンク>
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