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TOKYO人権 第102号(2024年6月30日発行)
JINKEN note/コラム
グリーフサポートという、心の健康を維持するための取り組み
哀しみに寄りそい、ともに生きていくことの出来るコミュニティづくりを目指す
人生の中で誰もが経験する身近な人との死別、その喪失感や哀(かな)しみを抱えたときの支援は、これまでも看護や介護の現場などで取り組まれてきました。死別に限らず、誰もが経験する多様な喪失体験によって表れる心と身体のさまざまな反応(グリーフ)に対し、支援を行なっている団体が世田谷区にあります。
「一般社団法人グリーフサポートせたがや※1」では、死別や離別による別れ、DV(ドメスティックバイオレンス)や性暴力被害による安全感の喪失、病気やケガで健康を失うこと、災害により住む場所を失うこと、年齢・ジェンダー・民族・宗教・障害・性的指向や性自認などによる差別によって自己肯定感を失うことなど、その人にとって大切なものを喪失した際に心と身体に起こるさまざまな反応のことを「グリーフ」と捉え、支援を行なっています。詳しくお話を伺いました。
「グリーフサポートせたがや」では、身近な人やものをなくした子どもと大人をサポートするスペースを提供し、哀しみに寄りそいともに生きていくことの出来るコミュニティづくりを目指して活動しています。子どもと大人を対象としたグリーフサポートのプログラムを定期的に行うほか、世田谷区のグリーフサポート事業として電話と対面の個別相談やグリーフについて知るための講座も行なっています。
子どもプログラムでは、3歳から18歳の死別体験を持つ子どもたちが集まり、研修を受けたファシリテーターと一緒に、安心・安全な環境の中で自由な時間を過ごします。例えば、おもちゃやゲームで遊んだり、工作をしたり、「火山の部屋」と呼ばれる部屋で大きなぬいぐるみを投げてエネルギーを発散したり、または何もしなかったり、思い思いに過ごします。大人プログラムでは、ファシリテーターと参加者がそれぞれの喪失体験について話したり聴いたりする分かち合いの時間を持ちます。同団体は、2013年に活動を開始し、今年で10周年を迎えます。
火山の部屋では、クッションで遊んだり感情を思い切りぶつけたりもできます
厚生労働省の調査によると、2023年に死亡した人は159万人余りと、統計を取り始めて以来、過去最多※2となりました。少子高齢化とともに「多死社会」などとも言われ、死に接する機会が増えているのも事実です。
「健康権」と呼ばれる、人が健康に生きていくための権利が守られるためには、身体的な健康に限らず精神的な健康を維持できることが重要です。身近な人を失うなどにより、大きな喪失感を抱えたとき適切な情報にアクセスでき、サポートとつながれることは、心の健康を支えるものとなります。グリーフサポートという、心の健康を維持するための取り組みは、一人ひとりの生と死に丁寧に向き合い、個人を尊重することにつながり、人権尊重の理念と通じます。
「グリーフサポートせたがや」では、「グリーフは乗り越えるものではなく、人生の一部として抱えて生きていくものであり、その力は一人ひとりの中にある」という視点を大切にしています。「グリーフを抱えたときに行ける場があり、一人じゃないと感じられる場がある」と知ることは、心の支えとなるとともに、哀しみを抱えて生きる自分自身の尊厳を取り戻していくことにつながる気がしています。
インタビュー・執筆 吉田 加奈子(東京都人権啓発センター 専門員)
※1 グリーフサポートせたがや「サポコハウス」世田谷区太子堂5-24-20-201 Tel 03-6453-4925 HP https://www.sapoko.org/
※2 2024年2月厚生労働省発表の人口動態統計速報値による。
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