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TOKYO人権 第100号(2023年12月28日発行)
JINKEN note/コラム
こどもホスピス―子どもや家族が安心して楽しく過ごせる“ 第3の場所”
病気とともにある子どもの権利を守る
小児がんや難病など、生命にかかわる病気とともにある子どもや家族が、遊びながら一緒に過ごせる場所として「こどもホスピス」が注目されています。自宅や病院とは違う、安心して楽しく過ごせる「第3の場所」を増やしたいというニーズの高まりから、「こどもホスピス」の設立を目指すプロジェクトが、全国で動き出しています。国内では3例目で、東日本では唯一の子ども専用のホスピス「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち※1」を取材しました。
「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち」(横浜市金沢区)は、2021年11月の設立以来、のべ336組以上の家族が利用してきました。病児が家族と宿泊できる居室のほか、家族風呂、対面キッチンなどを備えています。子どもたちが希望するのは、家族や友だちとピザを作ったり、屋内でテントを張ってキャンプ体験をしたりすることなどで、特別なことではありません。子どもが誰でも持つ「遊ぶ権利※2」は、入院中では後回しになりがちです。普段はできない遊びを実現できる場所にもなっていることから、子どもたちからは「滞在を楽しみに治療に励める」という声が届いています。病気とともにある子どもの権利が守られる場所として、存在意義が高まっていると言えます。
寝転がって乗れる室内ブランコと、大勢でも料理できる広々としたキッチンを備えている。
病児の家族を地域から孤立させないこと、闘病中でも成長し続ける子どもの発達を制限しないことを目的に、遊び、思い出を共有する場所として「うみとそらのおうち」は生まれました。運営財源は、企業や個人からの寄付を主に、横浜市が土地を30年間無償で貸し付けるなど、多方面から集まった善意によって支えられています。現在では200名の地域ボランティアを抱えるほか、食器や食品、装飾品から遊具まで、施設内のいたるところに寄贈品があり、支援の輪が広がり続けていることを感じます。
娘の闘病経験から子ども専用のホスピスの必要性を感じ、設立を働きかけた認定NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト代表理事の田川 尚登(たがわ・ひさと)さんは、「いかに子どもと過ごしたかという思い出が家族にとっても大事」と話します。七五三、誕生日など、家族行事を行う場所としても使われており、利用した家族の「こんなに笑ってる顔、見たことなかった」という言葉が印象に残っていると言います。
田川さんは、「治療に専念してほしいという善意のつもりの言葉が、周囲との関係を遮断してしまい、家族の孤立を生むことがあります。子どもの思いを大切にし、子どもらしく過ごす機会を守りながら大勢の人と時間を共有できる施設としてあり続けたい」と、地域とのつながりの中で運営していくことを目指しています。
インタビュー・執筆 吉田 加奈子(東京都人権啓発センター専門員)
田川 尚登さん
※1 所在地:横浜市金沢区六浦東1−49−5 電話:045−353−3153(事前予約制、利用料等についてはホームページ https://childrenshospice.yokohama/index.html<外部リンク>)
※2 子どもの権利条約の第31条に「休息及び余暇についての権利」が明記されています。
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