スクリプカリウ落合安奈さん SELECT
コトリンゴ
様々な曲を思い浮かべましたが、自分にとって今一番嘘がないのが、この曲でした。「母国に根を下ろす」とはどういうことか、人間にとってどんな意味を持つのか、という問いから、自身のもう一つの母国のルーマニアに研究に行っていた頃のこと。ちょうど「この世界の片隅に」の劇場版の予告が公開され、主題歌のこの曲を一人ホテルで聴いて、何だかとてつもなく日本が恋しくなって涙が出てきました。広島を舞台に、絵を描くことが大好きなほんわかした性格のすずさんが主人公の物語を、この曲が優しく包み込みます。「—1945年(昭和20年)3月。呉は、空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされ、すずさんが大切にしていたものが失われていく。それでも日常は続く。—」(映画公式サイトより一部抜粋)。繰り返してはいけないことが、いま、繰り返されている。この瞬間も、銃口が民間人に向けられ核爆弾のスイッチや原子力発電所が脅しに使われている。急に、日常や帰る場所を奪われた人々、日々悲惨さを増すウクライナの画像や動画がテレビやスマートフォンの中で既に「日常」のように更新されていく恐ろしさ。かつてキノコ雲の下にいた人々、その子供や、またその子供たちは、今この時代も差別や未知の健康被害に怯えながら、生きています。自分の無力さが嫌になってしまうけれど、できることを探し続けて、ただただこの不条理を1秒でも早く止めたい、心から。
須川亜紀子さん SELECT
ダイスケ
テレビアニメ『放浪息子』(2011年)のオープニングソング。女の子になりたい男の子・二鳥修一と、男の子になりたい女の子・高槻よしのは、性自認の揺れを隠しながら生きてきたが、お互いの悩みを知ることで、周囲の無理解や嘲笑に悩みつつも、ありのままの自分を表現していく。「ありのままの君でいていいんだよ」という歌詞は、だれにでも響くフレーズではないだろうか。原作は、志村貴子のマンガ『放浪息子』。
藤田直哉さん SELECT
PET SHOP BOYS And Kylie Minogue
自らゲイであることをカミングアウトしている歌手による、ゲイであることについてのジレンマの歌詞が歌われる曲である。自分自身が「さかさま」で「バカげた不条理」に生きているように感じ、夜な夜な街に繰り出して「クイーン」や「フェアリー」たちと呼ばれる「夜の男」たちと戯れている父と、「それはファンタジーの世界に過ぎない、なぜ分からないの」と指摘する娘のすれ違いを歌にしている。ゲイである父は、その世界がなければ生きていけない、狂気に陥ってしまう。しかし、娘にとって、その状態は異常であり、孤独ゆえに精神的な問題を抱えている。両者とも、愛を求めながらもすれ違ってしまう。
ライムスター宇多丸さん SELECT
Rhymester
自分たちの作品を図々しくも選んでしまって恐縮ですが……女性に対する差別構造の多くがいまだに放置・黙認され(世界からの取り残され感がハンパない)、結局は「母」となることばかりが奨励されるわりに、子育てにまつわる負担や代償はもっぱら個々の女性の責任として一方的に押し付けられるという、とんでもない理不尽が今もまかり通るこの社会。そんなんで少子化なんか止められるわけないだろ!と普通に思うけど、その「対策」に当たっているはずの政治家たちこそがよりによって、恐ろしく前時代的かつ差別的な母性幻想を「良識」と信じ込んで疑わないような方々ばかりだったりして…… 要はやっぱり人権軽視、と言う他ないそんな世の傾向に対して、2011年当時の、僕らなりの考えやメッセージを込めた一曲、ということで。
Hands
作詞者:Mummy-D/宇多丸
作曲者:AKIRA
ノイ村さん SELECT
Rina Sawayama
ロンドンを拠点に活躍し、レディー・ガガといった著名なアーティストからも支持を集める日本人アーティスト、Rina Sawayamaによる楽曲。「遺伝関係が無くても、苗字が違っていても良い。あなたは私にとっての選ばれし家族。」と歌い上げる本楽曲は、Rina氏が家族の一員であるかのように感じているというクィアな友人へと捧げたものであり、セクシャリティや性自認を公表することによって血縁関係のある家族から絶縁されてしまうことが(残念ながら)珍しくない現状を踏まえた上で、そんな大きな痛みを持つ人々が心から自分らしさを表現することが出来るように、そして「選ばれし家族」を見つけられるように優しく手を差し伸べる。2021年にはエルトン・ジョンと共演したバージョンが制作され、今ではまさにコミュニティにとってのアンセムのような存在として深く親しまれている。
吉村和真さん SELECT
森高千里
私は昔から森高千里のファンである。大学生の頃、恩師・小松裕先生から「吉村君、この曲を知ってるか」と問われ、「もちろんです」と答えると、先生は遠い目をした表情で「足尾銅山とはまったく関係ないんだよな」と仰られた。小松先生は田中正造の研究で知られた方で、足尾銅山鉱毒事件が起きた渡良瀬川周辺には何度も足を運ばれていた。そのため、曲名からこのCDを買って聴かれたわけだ。私は、先生の複雑な心境を理解しつつも、森高の歌詞によって新たな名所として生まれ変わるだろう渡良瀬橋の「これから」を、むしろ前向きに捉えていたのを覚えている。公害という人権問題の記憶を継承することの困難と可能性を、この曲を聞くと今でも思い出す。
大島育宙さん SELECT
Moment Joon
韓国出身の移民ラッパー、MOMENT JOONが朝日新聞社とのコラボプロジェクトで製作した楽曲。「『怖がるな』と言っても悪魔化か『可哀そう』 キャラじゃなくて人間に見られるの100年かかりそう」。「差別」以前に外国出身者の表現や存在を消費する姿勢への透徹した目線。「外国人」「外人」という呼び方そのものが人間を主体ではなく客体にしてしまうことの気持ち悪さを歌い続けるラッパー。人間として向き合うならば当然読み込まれるはずの、人それぞれのパーソナリティの立体的な部分が、社会の多くの人の視界からは勝手に捨象されてしまう。社会問題や人権問題以前の「見えなかった」人権軽視をストレートなリリックで突きつける。
富岡すばるさん SELECT
マドンナ
富岡すばるさん SELECT
マライア・キャリー
富岡すばるさん SELECT
ジャネット・ジャクソン
富岡すばるさん SELECT
レディー・ガガ
富岡すばるさん SELECT
浜崎あゆみ
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ライター
富岡すばるさん
が選んだカルチャー
東京都人権啓発センター専門員 SELECT
Logic ft. Alessia Cara, Khalid
アメリカのラッパー、ロジック(Logic)大ヒットアルバム『EVERYBODY』に収録され、2017年グラミー賞年間最優秀楽曲にもノミネートされたこの曲のタイトル「1-800-273-8255」は、アメリカの国立自殺予防ライフラインの電話番号。I don't wanna be alive(生きたくない)と始まるサビの歌詞は衝撃的で、ストレートに希死念慮を表現している。それが最後にはI finally wanna be alive(やっぱり生きたい)へ変化する。3名のシンガーがそれぞれ歌い上げる歌詞を読み、主人公が絶望から小さな希望の光を見つけ生きてゆこうと決意する姿をぜひ感じてほしい。
東京都人権啓発センター専門員 SELECT
Christina Aguilera
外見的ではない美しさ、自己肯定、そして誰もが抱える不安感のようなものがテーマになっているポップ・バラード。2003年グラミー賞最優秀女性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞を受賞し、ミュージックビデオは拒食症、同性愛、いじめ、自尊心、トランスジェンダーの問題について取り上げた構成になっている。「ありのままの自分」を受け入れることは、自分にとっても他人にとっても難しいことがある。それでも自分自身を信じ、その生き様に誇りをもちたい...自身も虐待のサバイバーであるアーティストのボーカルは、自分を愛することの大切さを気付かせてくれる。
東京都人権啓発センター専門員 SELECT
スティーヴ・ライヒ, ザ・クロノス・カルテット
鉄道ほど20世紀の文明を代表するものはないと記した夏目漱石は、同時に、人が大量に運ばれる新たなテクノロジーのうちに「個を踏みつけにする暴力性」も感知していました。例えば、ユダヤ人を収容所へ大量に運ぶことを可能にしたのが鉄道であったように、彼の予見は現実のものとなります。「DIFFERENT TRAINS」はアメリカ生まれのユダヤ人で、ミニマルミュージックを代表する作曲家、スティーヴ・ライヒの作品。鉄道について語られた言葉の断片や汽笛などで構成された三部構成の楽曲で、その第二部は「ナチスによるユダヤ人大虐殺で生き残った三人の体験談」をもとにしています(ライナーノートより)。「乗せられたものは決して戻らない」と恐れられたドイツの軍用列車によって、ヨーロッパ各地からユダヤ人たちは収容所へと運ばれました。時代や状況が違えば、誰しも絶望の列車に乗せられていたかもしれないことが、反復される言葉と変容していくリズムによって少しずつ身体に沁み込んできます。
東京都人権啓発センター専門員 SELECT
Lil Nas X ft, Jack Harlow
カントリーミュージックというジャンルにおける人種差別に関する議論を巻き起こした前作「Old Town Road」に続き、本作は、黒人が牽引する音楽ジャンルとしてのヒップホップにおける「同性愛嫌悪」を告発したMVが話題に。MVには、「性的に無責任」 だとか、「より多くの男性がエイズで亡くなる原因を作っている」 等の批判が寄せられ、リル・ナズ・X は、「ニガー(ママ)が複数の女性と寝るラップばかり歌っていても君たちはみんな黙っている。でも俺は少し性的なことをしただけで 『性的に無責任』『より多くの男性がエイズで死ぬ原因になっている』 と言われる。君たちはみんなゲイを憎悪している。それを隠すな」 と反論しています。
東京都人権啓発センター専門員 SELECT
Troye Sivan ft. Betty Who
ゲイであることを公表しているトロイ・シヴァンがカミングアウトに伴う葛藤について歌った曲。「自分の一部を変えることなくどうやったら天国に行くことができる?」という歌詞には、宗教的にも認められてこなかった同性愛を生きることの切実さが表れている。
東京都人権啓発センター専門員 SELECT
BTS
「Black Lives Matter」運動への100万ドルの寄付や、「LOVE MYSELF」キャンペーンでは子ども・若者への暴力やいじめ・ネグレクト等の撲滅を訴え、国連でも子どもや若者が自分を愛することの大切さについて素晴らしいスピーチを行ったBTS。「Butter」はコロナ禍で顕在化したアジア人への差別への抗議アクション「#StopAsianHate」への賛同を表明した後に発表され、プロモーションでは「黄色」いバターをシンプルに打ち出し、リリースの際には「僕たちは黄色人種だからね」とリーダーのRMが発言しています。アジア人としての自分自身を愛し「バターのようになめらかに(冒頭の歌詞)」世界の音楽シーンに溶け込んでいくBTSの活動を、ARMY(BTSのファンダム名)として誇りに思います!
東京都人権啓発センター専門員 SELECT
アイナ・ジ・エンド
アーティストの友人が自殺未遂してしまったときにつくられたという一曲です。友人の「死にたい」という気持ちに気づき、一緒に過ごすなど、なんとかしようとしたにも関わらずに飛び降りてしまった彼女。その姿を見て自身も心臓が痛くなるほど苦しんだといいます。何かと生きにくい社会。「逃げてもいい」、「見なくてもいい」という寄り添う言葉と同時に、「愛してるよ」、「生きたまま家に 旅にきてよ」と明るい方へ引き寄せてくれる言葉も胸に響きます。
東京都人権啓発センター専門員 SELECT
Alfred Reed
アメリカの作曲家アルフレッド・リードによりウィリアム・シェイクスピアの『オセロ』のために作曲された組曲の一つです。『オセロ』は、ムーア人の将軍であるオセロが、部下のイアーゴーの策略にかかり、妻デスデモーナの貞操を疑い殺してしまうが、すべてがイアーゴーによるものだと真実を知ったオセロは自殺してしまう、という話。黒い肌のオセロと白い肌のデスデモーナという描き方は、当時の人種差別構造を想起させます。また、2019年には『オセロ』の物語に沿って、アイヌと和人の物語に置き換えた演劇「アイヌオセロ 旺征露(オセロ)」がロンドンにて上演されたこともあります。17世紀に描かれた悲劇と今なお起こる悲劇に思いを寄せてご紹介します。
About the Song
各ジャンルの選者の皆さんと
人権センターの専門員が選んだ
人権課題に関連する楽曲の数々。
有名な曲も、知らなかった曲も、
その背景を知れば、
もう一度
聞きたくなるかもしれません。