東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第88号(令和2年11月27日発行)

特集

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区立の児童相談所がオープン
地域が担う「子どもを守る仕組み」とは

2020年4月、世田谷区と江戸川区で特別区では初となる児童相談所(注1)(以下、児相)が開設されました。特別区は、23区中22区(注2)が児相設置の意向を示し、7月に開設した荒川区を含む3カ所で既に運営されています。これまでは東京都が児相を設置し、複数の自治体にまたがる管轄となっていました。本特集では、区立の児相が設置された背景と、児童相談行政の変化を解説します。

区立児相設置の背景

 2000年に「児童虐待の防止等に関する法律」が施行され、18歳未満の子どもへの虐待が定義されました。以来、児相での児童虐待相談対応件数は増加の一途をたどっています(厚生労働省報告などによる)。

 特別区での児相設置の議論を大きく進めたのは、2010年1月に江戸川区で起きた小1男児虐待死事件がきっかけとなっています。この事件では、医療機関から区の子ども家庭支援センターに虐待通告があったにも関わらず、情報の共有や対応の連携が十分でなかったため、児童の命を救うことができませんでした。江戸川区は、事件の検証を行い、「支援のはざま」が招いた一件から、「基礎自治体である区が、児童相談行政の責任全てを負えるようにしたい」と他の区とともに国や都へ要請を行いました。こうしたこともあり、2016年児童福祉法が改正され、特別区での児相設置が可能となりました。

区立の児相設置でこう変わる

 行政が提供する福祉サービスのうち、子育て支援や生活上の困難を支える事業の多くは、基礎自治体である区が担っています。区立の児相設置で、これらのサービス関連部署との連携がしやすくなり、さまざまな情報収集の迅速化が期待されています。

 従来の制度では、区に設置された子ども家庭支援センターで、虐待を含む子育ての相談に対応し、重度の虐待事案など強い介入や一時保護などが必要とされるケースは、複数の区をまたいで広域に設置された児相が対応するという役割分担でした。区立の児相が設置されると、それぞれの児相は独立した運営を行うことになるため、今までの役割分担には変化が生じますが、都区間の連携は依然重要です。東京都福祉保健局の担当者は、今後の都立児相と区立児相の関係について、「児童養護施設や里親のような社会的資源を相互利用する協力体制の維持や都から区への専門的助言のほか、都立児相が有する高度な医療・心理療法の専門機能を区立児相も活用できるようにするなど、連携を図っていく」と説明しています。

 今後、都が培った経験と、区の住民やサービス関連部署との近さを生かし、関係機関がうまく連携することで、よりきめ細かで手厚い体制で子どもと家庭を支援できると期待されています。

「子ども第一」地域に根づくきっかけに

写真:インタビューを受ける茂木さんと木村さん

江戸川区児相の魅力を語る茂木さん(左)と木村さん(右)

 4月に一早く児相を開設した江戸川区では、子ども家庭支援センターの機能を取り入れて児相と一体化させました。児相内にある一時保護所の開設に当たっては、個室を多数配置し、プライバシーに配慮して、大浴場は設置せず家庭用のユニットバスを複数設置。江戸川区児相の茂木健司もてぎけんじ一時保護課長は、「子どもが居心地よく過ごせることを第一としました。一度自宅に戻った子どもが自分の意志で再び訪ねてきたこともあり、『子どもの駆け込み寺』になっている」と言います。

 また、同児相の木村浩之きむらひろゆき相談課長は、設置を後押ししたものとして、「地域力」をあげます。「江戸川区は民間の子ども支援活動が盛んで、区民の間に、自分の街は自分の力で良くしていこうという心意気がある。そういった地域の密なつながりを生かしていくためにも、生活圏でもある地域に、児童福祉の拠点として区の児相があったらより良いのでは」と話します。

 地域の目やつながりは、一時保護された子どもがまた地域へ戻っていくとき、見守り役ともなるはずです。今回の特別区による児相の設置で、子どもを地域ぐるみで守っていくネットワークが地域の財産としてより蓄積されていくきっかけになるかもしれません。

インタビュー・執筆/吉田加奈子(東京都人権啓発センター専門員)

(注1)児童福祉法第12条に基づき、都道府県に設けられた児童福祉の専門機関。全国に220カ所(2020年7月現在)、都内には13カ所あり、うち10カ所を都が、3カ所を特別区が新設し、運営している。

(注2)練馬区を除く。練馬区は児相を設置しない方針で、独自の児童相談強化体制として、7月から都区共同で「練馬区虐待対応拠点」を子ども家庭支援センター内に設置し、都立児相と区の子ども家庭支援センターの専門職員が協働で児童虐待などに対応している。

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