東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第81号(平成31年3月28日発行)

特集

ここから本文です

「ハーフ」と呼ばれる人々

「日本人」と「外国人」のはざまを生きる

 私たちは、一般的に父母のどちらかが外国人の場合、その子どもを「ハーフ」(注1)と呼んでいます。近年は「ハーフ」のスポーツ選手やタレントの活躍もあり、憧れの対象として見られる場面が増えました。しかし、日本生まれ、日本育ちであっても外見から外国人と見なされ日常生活の中で差別や偏見を受けることがあります。こうした不利益をこうむる経験をなくすにはどうすればよいでしょう。社会学者で自身も「ハーフ」の母親を持つ、下地ローレンス吉孝さんにお話を聞きました。

「ハーフ」と呼ばれる人々とは

顔写真

下地ローレンス吉孝さん
(社会学者)

 女子テニスの大坂なおみ選手の活躍をきっかけに、メディアやSNS上で話題になっているのが「ハーフ」や「日本人とは何か」についてです。

 大坂選手は、日本人の母親とハイチ系アメリカ人の父親を持つ、いわゆる「ハーフ」ですが、実はこの呼称は、日本でしか通じない和製英語で、定義もはっきりしていません。一般的には、父母のどちらかが外国籍という国際結婚で生まれた子どもが「ハーフ」と呼ばれます。国の統計によれば、その出生数は50人に1人の割合にのぼります(人口動態調査、2016年)。しかし、同様の組み合わせで海外に生まれ、日本に移住した子どもも「ハーフ」と呼ばれる場合がありますが、統計には反映されません。また、帰化した元外国籍者が親になったケースでは、法的には両親ともに日本国籍であるにもかかわらず、その子どもは「ハーフ」と呼ばれる場合があります。このように、「ハーフ」は単純な条件で線引きができない、あいまいな概念なのです。

 このテーマを社会史の視点から研究しているのが、社会学者の下地しもじローレンス吉孝よしたかさんです。下地さんの母親は1950年に沖縄で、アメリカ兵である祖父と日本人の祖母との間に生まれました。子どものころは特に気にすることなく過ごしていましたが、大学進学後、マイノリティについて学ぶ授業で「アメラジアン」という言葉に出合ったことが人生の転機となります。これは、沖縄でアメリカ兵と日本人女性との間に生まれた子どもを指す言葉で、下地さんの母親はこのカテゴリーに入るのです。「初めて自分がマイノリティなのだと知り、衝撃を受けました。そして、僕自身は日本人と見なされるのか、そうでなければ何なのかと考えました。そうした中で、この問いが日本の歴史や国際関係と密接に結びついていることや、学術的な研究がほとんどなされていないことなどを知り、研究対象として取り組むことにしたのです」(下地さん)。

時代とともに変わる「ハーフ」へのまなざし

 2018年に“ハーフ”をテーマにした著書『「混血」と「日本人」─ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』を出版した下地さんは、「ハーフ」と呼ばれる人々をめぐっては、各時代状況の中で、さまざまな呼称が肯定的にも差別的にも使われてきたことを明らかにしています。

 まず、戦前や戦後に用いられた呼称は「混血児」です。戦後は特にアメリカ兵と日本人女性との間に生まれた子どもを指す言葉として定着しました。「敗戦や経済不況といった時代状況のなかで、父親の帰国や生活の困窮を理由に、児童養護施設に保護される『混血児』が増え、社会問題化しました。政府は対策を協議した結果、国際養子縁組により『混血児』を海外に渡航させ、養子縁組が成立しなかった子どもは“日本人と同様に”扱うことにしました。これは一見、配慮のある対応に見えますが、裏を返せば、日本に残った『混血児』に特別な支援はしないということでもありました」(下地さん)。

 その後、日本が高度経済成長期に入ると、欧米の映画や音楽、ファッションなどが次々と輸入され、欧米は日本にとって憧れの対象となりました。そして、1970年代には「ハーフ」の呼称が広がり、「ハーフ」のタレントやスポーツ選手などがもてはやされるようになります。「その結果、当時の『ハーフ』には、容姿を過度に美化したり、女性を性的な対象として描いたりといった特殊なニュアンスが結びつくようになりました」(下地さん)。

 1990年代に入ると、企業の海外進出や開発援助、留学などが活発になり、1980年代ごろから増えていた国際結婚がさらに増加。さらに、1990年に入管法が改定され(注2)、日系ブラジル人を中心に南米から多くの日系人が来日します。こうした社会情勢を背景に、一層多様なルーツを持つ子どもが日本で生まれ育つようになり、当事者や当事者支援団体、メディアは「ハーフ」に代わり「国際児」や「ダブル」、「ミックス」、「アメラジアン」などの呼称を生み出しました。例えば「ダブル」は、2つの言語や文化を持ち、「ミックス」は複数のルーツを持つとの意味で用いられますが、こうした呼称が表す範囲やそこに込められた意味、使用方法はさまざまで、当事者が肯定的に用いる場合もあればそうでない場合もあります。下地さんは「日本社会はハーフに対して羨望と差別・偏見という相反するまなざしを向けてきたのです。そのなかで呼称の多様化は、自分自身を分かりやすく表現したい、あるいは、自らの複雑さを伝えたいと願う当事者の意思が表れている」と語ります。

日本社会にはすでに多様な人が暮らしているという自覚を

 下地さんは『「混血」と「日本人」』の執筆にあたり、多くのハーフに聞き取りを行い、外見が日本人に見えないために差別や偏見を受ける例が少なくないことを浮き彫りにしました。

 「例えば、会社の採用面接を終えて部屋を出ようとした時に、『外見が外国人だから雇用できないな』と、面接官同士が話しているのを偶然聞いたことがあると話してくれた男性や、就職後に「ハーフだから雇った」と言われ、その後、外見ではなく中身を正当に評価してもらえる職種に転職した女性がいました。他にも、住居を借りる際、外見が日本人に見えないからと入居を断られる例や、中東やバングラデシュにルーツを持つ男性が、日本人よりはるかに頻繁に警察官から呼び止められることに対して『偏見があるのでは』と感じていたり、女性の場合は卑猥ひわいな言葉を投げかけられるなど、セクハラを受けた経験を多くの方が話してくれました」(下地さん)。

画像:「ハーフ」の親の国籍と父母の国籍別にみた2016年の出生数。
「ハーフ」と呼ばれうる人々の親の国籍と出生地の類型および人口統計の有無
(出典:下地ローレンス吉孝『「混血」と「日本人」』17 ページを一部改変)

 一方、私たちが日常生活で気を付けたいのが「ハーフ」に対する何気ない声かけです。私たちはつい「日本語が上手ですね」「お箸の使い方が上手ですね」などと声をかけることがあります。もちろん、ほとんどの場合、この声かけに悪気はなかったとしても、“あなたは日本人ではない”との意識から発せられたその言葉が相手にどのように受け取られるかを考えるべきだと下地さんは指摘します。「たとえ褒め言葉のつもりでも、言われた側は『日本人ではない』『日本に属している者ではない』と言われた感覚を受けるのです。しかも、当事者はそうした言葉を頻繁に言われるため、1日1回としても1年にすれば365回、『あなたは日本人ではない』とのメッセージを受け取っていることになるのです」(下地さん)。

 では、私たちはこうした声をどのように受け止めればよいのでしょうか。下地さんは次のように語ります。「私自身、ハーフの母親に対してどのような言葉をかけるのが正解なのか分からないことがあります。ハーフであれば皆同じ経験をしているわけでもありません。明確な解決法を見つけるのは難しいのですが、まずは、相手が自分とは異なる背景や考え方を持っているとの前提に立つことが大切だと思います。その上で、自身のルーツについてどう考えているのか、耳を傾けていくのがいいのではないでしょうか」。

 現在、外国人の受け入れについてさまざまな議論が交わされていますが、日本はすでに多様な人々が共に暮らす社会となっています。その現状を把握した上で、まずは「ハーフ」を身近な存在の一人として知ることから始め、お互いを尊重し合える豊かな社会を築いていきたいものです。

(注1)「ハーフ」と呼ばれる人々に対する各呼称はさまざまな歴史的状況の中で使われる用語としてカッコ書きで表記します。

(注2)1990 年に「出入国管理及び難民認定法」が改定され、日系二世、三世について「日本人の配偶者等」又は「定住者」の在留資格により入国が認められた。

インタビュー/林 勝一(東京都人権啓発センター専門員)
編集/小松亜子

特集プラス

HAFUハーフ TALKトーク」をチェック!

「ハーフ」や、海外にルーツを持つ人たちがお互いの情報を共有するとともに、日々の暮らしや経験、研究などを発信するWEBサイトです。下地さんがケイン樹里安さん、セシリア久子さんと共に運営しています。

「HAFU TALK」

外部サイトへ移動しますhttps://www.hafutalk.com/

「混血」と「日本人」─ハーフ・ダブル・ミックスの社会史

冊子表紙

下地ローレンス吉孝 著 青土社 刊 2018年

このページの先頭に戻る