東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第78号(平成30年5月31日発行)

インタビュー

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誰もが「生きたい」と思う同じ人間

「生きづらさ」を叫んで人と人をつなぐ

 幼いころから家庭で暴力を受け、学校ではいじめに遭い、不登校やリストカットを経験してきた成宮アイコさん。強迫性障害や社交不安障害に苦しみながらも、高校時代から生きづらさを言葉で表現する展示会や朗読会を行ってきました。その中で人とつながることの大切さに気づき、誰もが少なからず生きづらさを抱えているのだと知ります。成宮さんが活動を通して伝えたいことは何かをうかがいました。

PROFILE

成宮アイコさん顔写真

成宮なるみや アイコさん
朗読詩人

1983年、新潟県生まれ。機能不全家族で育ち、不登校やリストカットを経験。強迫性障害や社交不安障害に悩まされながらも、生きづらさをテーマにした言葉の展示や朗読を行う。こうした活動がメディアで取り上げられ、現在は東京に在住しながら全国で朗読ライブを行う。
2017年、『Rooftop』と『TABLO』でコラム連載中。ライブにはドラムやベース、エレキギターなどのミュージシャンが加わることも。著書に『あなたとわたしのドキュメンタリー』(書肆侃侃房)がある。

子どものころの話をお聞かせください。

写真:インタビューにこたえる成宮さん

撮影/細谷 聡

 気がついたときには、祖父から日常的に暴力を受けていました。「お前は家族の最下位だ」と言われ、そのように振る舞うことしか知らなかったので、幼稚園の先生に他の子と同等に扱われても、どう接したらいいか分からなかったんです。当時は『何か変だな』と感じたくらいだったのですが、小学生のとき、SFだと思っていたアニメ『ちびまる子ちゃん』の家族の団らんが、実話をもとにしたストーリーだと知って驚きました。暴力のある毎日はつらかったけれど、それでも受け入れて生きてきたのは、どの家庭も同じだと思っていたからです。ところが、その環境が当たり前ではないと気づいた瞬間から、生きることが苦しいと感じるようになりました。人間関係をどう築いたらいいのかますます分からなくなり、会話をすることさえできなくなりました。すると、声の出し方まで分からなくなって、場違いな大きさの声を出してしまったりします。やがて「あいつ、ちょっと変だよね」とか「声がキモいよね」と言われるようになったのです。

 学校に行くのが苦痛になり、家にいることも多かったのですが、そうすると『このまま私が死んでも誰も気づかないかも』と孤独な気持ちに襲われました。どうにかして社会とつながりたいと思い、よくイトーヨーカドーやマンガ喫茶に通いました。こうした場所なら、人はいるけれど悪口を言われることはないからです。

なぜ、詩の朗読ライブを始めたのでしょうか。

 高校生になってから、行き場のない気持ちを日記帳やインターネットのブログにつづるようになりました。その日、実際にあったことを書く日記以外に、詩のようなきれいな文章を書く日記、名言のように1行で文章を書く日記、妄想で作り上げた「リア充(現実の生活が充実している)アイコ」の架空の日記とか。これは私にとって会話の代わりのようなものだったので、誰かと普通に話せていたらこんなにたくさんの日記は書いていなかったと思います。

 その日記を、地元の新潟市内にあるミニシアターで展示することになったのが、高校卒業を間近に控えたころです。イトーヨーカドーのように安心していられる場所として出入りしていたのが縁ですね。そしてそのとき、展示会に来てくれた同じ年頃の子に「私もこういう症状があるんです」と話しかけられたのです。
こんなことは初めてでした。

 当時からSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)では「死にたい」とつぶやく人が多く、私自身もよく投稿していました。そんなときに「その気持ち分かる」と返信してもらえると『独りじゃない』と思えて、救われたことがたくさんありました。しかし、画面上のやり取りなので、どこか現実味がないというか、同じ人間なんだと実感しづらいところがあったのです。

 そんな中で、初めて展示会で実際に苦しんでいる人に出会い、『私と同じような気持ちの人がちゃんと存在しているんだ』と実感しました。朗読ライブを始めたのは、そんなふうに人とつながる感じをもうちょっとリアルにしたかったのと、『死にたいと思っている人は本当に存在しているんです』と、少しでも多くの人に示したかったからです。

ライブはとても独特ですね。
1つ1つに成宮さんのメッセージを感じました。

 書きためていた日記の朗読に加え、「あなたの言葉を叫びます」という企画を恒例で行っています。SNSやライブで事前に生きづらさを抱えた人たちからエピソードを募集し、それを朗読するものです。それらのエピソードは、私の体験ではないのに、読んでいると『私のことかもしれない』と共感するものばかりです。だからきっと、私以外の誰かも「自分と同じ気持ちの人がいる」と感じてほっとすると思うのです。私が誰かの言葉を代わりに叫ぶことで、どこかで誰かが人とのつながりを感じてくれる。自分だけ周りと違うとか、社会から取り残されているのではなく、自分も皆と同じ地続きの世界にいるんだと伝えられたらうれしいです。

 また、ライブでは朗読した詩やエピソードをプリントした赤い紙を持ち帰ってもらっています。私のライブに来てくださる人は、きっと何かしらの生きづらさを抱えているケースが多いと思います。そんな中で身支度をして電車に乗り、人混みを歩いて会場までたどり着くのはとても大変なことだったはずです。だから、「自分はこの日、生きてこの会場に行った」という証として、赤い紙を持ち帰ってほしいと思っています。

 また、ライブの様子は動画配信をしていて、来場者による撮影も自由です。会場に来られなかった人も、動画や写真を見ることで、誰かとつながることができるかもしれません。私は、苦しんでいる人にお金や仕事をあげることはできないけれど、社会とつなぐことはできるかもしれないと思い、ライブを続けています。

「生きている」という実感は日常のどんな瞬間に感じるのでしょうか。

写真:成宮さんライブ風景

“あなたも、私もちゃんと生きてきたんだ”と伝えたくて、ライブでは客席の一人ひとりに視線を向ける。

ⒸNaoki Tajima

 SNSで誰かとやり取りをしていると、例えばこんなことがあります。夜、寝られなくて「4時になったら朝刊がくる。どうしよう」とつぶやくと「分かる。郵便受けに朝刊が入る『コトン』て音、怖いよね」と返してくれる人がいます。そうすると、寝られないこと自体は解決しないけれど、あの音に怯えている人が他にもいるんだと知って安心します。自分が誰かと結びついていると感じることで、つらくてもあと3日、あと1週間生きてみようと思うことができるのです。つらい過去も障害も絶対にない方がよかったのですが、生きづらさを「昨日のドラマ見た?」みたいな「あるある話」にしていけたら、少しは楽しく過ごしていけるような気がしています。

 最近はSNSが発端で事件が起きることもありますが、私はあまりSNSを規制してほしくないと思っています。規制を求める人には、SNSでつながることで救われた人が多いことも知ってほしいのです。

 ただ、時にはそのSNSの書き込みに傷つくこともあります。それに対してどうしても何か言いたい場合は、感情的にならず丁寧な言葉で文章を書くことを意識しています。とはいえ、SNSは私にとって逃げ場でもあるので、受け入れ難くても無理に争わず、見なかったことにしたり、別のSNSに移動してやり過ごしたりすることも多いですね。また、私はアイドルとプロレスがとても好きなので、それを見て落ち込んだ気持ちを励ましたりもします。プロレスラーやアイドルが頑張っている姿を見ていると『人間は捨てたもんじゃない』と思えてくるんですよね。

 どんな人も、生きていくにはこうした逃げ場や解決方法を持っていることが大切だと思います。ただし、一つだけに限定して依存してしまうのは危険なので、『80%くらい使える逃げ場や解決方法』を10パターンくらい用意しておくのがよいのではないでしょうか。

誰ともつながることができず、死にたいと思っている人にどんな言葉を掛けたいですか。

 SNSには、匿名で質問をする「質問箱」というサービスがあります。一般的には「どんな財布を使ってますか」とか「お勧めのコスメは」などの質問が投稿されるものですが、私のところには質問というより、悩み相談ばかりが投稿されてきます。それらに回答するときに私が心掛けているのは“アドバイスをしない”ことです。『私にも同じようなことがありました』『私も解決できずに困っています』『今もまだあまり元気ではありません』など、ひたすら自分が思ったことだけを伝えます。そうして回答を受け取った人が「他にも自分と同じ人がいる」と実感してくれたらいいなと思っています。

 また、私は「死にたい」とつぶやくこと自体は健全なことだと思っているんです。つらい気持ちをため込んで死んでしまうよりはずっといい。気軽に「つらい」とか「死にたい」とか吐き出しながら、死なずに生きてほしいと思っています。

“生きづらさ”なんて自分とは関係ないと思っている人も多いと思います。

 「もっと頑張れ」とか、「あの人よりはマシだろう」といった励まし方はつらいものなんだと知っていただきたいですね。これはたとえるなら、辛い物が食べられない人に「あの人は激辛を食べている。だから食べろ」と言っているようなものです。つらさとは、誰かと比べるものではないんですよね。私がライブで装飾を派手にしたり、メンタルの問題とは関係ないミュージシャンを招いたりするのは、無関心層に少しでも興味を持ってもらえたらと考えてのことです。今、コラムを連載しているニュースサイト『Rooftop(ルーフトップ)』でも、アイドルのインタビューなど多様な情報が配信されているので、できるだけ幅広い人に気づいてもらえるきっかけになればと思っています。

 以前は、福祉系のイベントに出るとそのカラーがついて回ってしまうと思い、意図的に避けていたんです。『どうせ公的な機関の福祉関係者になんて分かってもらえない』という気持ちもありました。ところが、たまたま大きな福祉イベントに出演した際、関係者席に座っていた方が私の何気ない発言に小さく拍手してくれたんです。それを見て『偏見を持っていたのは私の方だった』と反省しました。どんな立場であろうと理解のある人はちゃんといるのだと気づいてからは、場所を選ばず、より多くの人に言葉を届けることを意識しています。

 また、私はこうしたライブを通して、一見立派に見える人も少なからず生きづらさを抱えているものだと知る機会も増え、「みんな同じ人間なんだ」と安心しました。世間では個性的であることが素晴らしいかのように言われますが、私は個性的であろうとなかろうと、誰もが「生きたい」と思う同じ人間で、等しく尊い命なのだと伝え続けていきたいと思います。

インタビュー/林 勝一(東京都人権啓発センター 専門員) 編集/小松 亜子
撮影/ Seikichi Tachikawa(表紙)、細谷 聡(インタビュー風景)、Naoki Tajima(ライブ風景)

画像:冊子表紙「あなたとわたしのドキュメンタリー」

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