東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第77号(平成30年2月28日発行)

特集

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ダウン症のある人とその家族の幸せとは

多様な自立や生き方、幸せのかたちを認め合う

 どんな人生を送りたいか、自分にとっての幸せとは何か? 人それぞれに希望があるものです。そして、自分が思い描いた幸せの形と他者のそれとが異なるのはごく当然のことです。しかし、多くの人が思い浮かべる「障害者にとっての幸せ」は、当事者の感覚とは大きなズレがあるようです。
 障害者とその家族の幸せについて、ダウン症のある子をもつご家族に、お話をうかがいました。

ダウン症候群とは?

 ダウン症候群(いわゆるダウン症)は、染色体の突然変異によって起きます。1965年、最初の報告者であるイギリスのジョン・ラングドン・ハイドン・ダウン医師の名前をとって命名されました。人種、性別、経済状況などに関係なく、800人から1,000人に1人の割合で誕生します。知的発達に遅れがあることが多く、心臓、目、耳などに合併症を伴うことがあります。しかし、芸術、スポーツなどさまざまな分野で才能を発揮する人も多いため、近年はその活躍ぶりが脚光を浴びるようになってきました。

障害者は不幸なの?

顔写真:笑顔の水戸川さん

(公財)日本ダウン症協会 理事
水戸川真由美さん

 「障害があって生まれることは不幸で、家族も幸せな生活を望めない」と誤解している人は少なくありません。ダウン症のある人たちとその家族、支援者でつくる、(公財)日本ダウン症協会(JDS)の理事の水戸川真由美(みとがわまゆみ)さんも、かつてその一人でした。水戸川さんの3人のお子さんのうち、19歳の第3子(長男)がダウン症で、第1子(長女)は脳性麻痺で知的障害があり全介助が必要です。「ショックで、『わたしの人生、この子の介護以外もう何もできないんだ』と絶望した」と、第1子が生まれた33年前のことを水戸川さんは振り返ります。しかし、さまざまな制度や支援があることを知り、それらを活用し子育てをするなかで仲間とも出会い、意識が前向きになり、多くの大切なことを学ぶこともできたといいます。

 「3人の子を育ててわかったのは、その子なりの生き方があるということです。長女は施設に入所し介助を受け、他人との関わりや、ご飯を上手に食べられることを楽しんでいます。彼女にとっては、これが一つの自立の姿です。お金を稼いで自活するだけでなく、それぞれの自立の仕方があってもいいんじゃないかな」(水戸川さん)。

 そして現在、水戸川さん自身もJDS以外に、産前産後の母親に寄り添う専門家(産後ドゥーラ)や子供服ブランドと協力して障害を理解するグッズの企画・販売、障害者とその家族をテーマにしたドキュメンタリー映画の製作など、さまざまな活動に関わり充実した毎日を送っています。

 「健康とは何か、生きるとは何か。人とのつながりの大切さや、人が誕生することの奇跡など、さまざまなことを、障害がある子を育てることで教わりました。私の人生はけっして“お先真っ暗”なんかではなかったです」(水戸川さん)。

ひとりで抱え込まないで相談を

 社会の「障害があること自体が不幸」という誤解は隠されていても、ときに表に出てくることがあります。
 2012年8月に新型出生前診断「NIPT」が導入されたとき、マスコミはこぞって大きく取り上げ、同時にJDSへ取材が殺到しました。それまでも、超音波エコー画像など、出生前診断はさまざまにおこなわれてきましたが、この新しい検査法は母体や胎児へのリスクが無く、母体の血液だけで胎児の遺伝子を調べることができ、障害の有無を高確率で診断できるといわれるものです。このことから「ダウン症と診断された胎児の人口妊娠中絶を選択することができる」と報道され、ダウン症がある人たちとその周囲の人々に衝撃を与えました。報道内容を知った当事者が「自分は生まれてきてはいけない存在だったのか?」と深く傷つくことも懸念され、JDSは、当事者向けの緊急の応援メッセージをホームページに掲載するなど対応を余儀なくされました。

 JDSは出生前診断そのものに反対しているわけではありません。しかし、水戸川さんはNIPT導入にはとても大きな不安を感じたといいます。

 「簡単にできるからと、安易に出生前診断を考えないでほしい。親は胎児の状態を調べるだけでもすごく悩むのです。でも、今の日本は、そういった不安に寄り添う取り組みがまだ十分ではありません」(水戸川さん)。

 それでも、水戸川さんは、NIPTを巡る一連のことは、悪いものばかりではなかったと考えています。

 「NIPTを受けるかどうかも含め、家族でよく話し合うことが、命について考えるとても良い機会になるんじゃないかと思います」(水戸川さん)。

 水戸川さんは第3子がダウン症だとわかったときには、あまり不安を感じなかったと言います。なぜなら、第1子を育てる中で、当事者同士の横のつながりの力を実感し、公的支援を利用し、さまざまな社会的サポートがあることを既に知っていたからです。

 「授かった命に障害があることがわかったら、不安になるし絶望的な気持ちになる。それは普通のことです。でも、そもそも、染色体に異常のある子は生まれてこられないことが多いのに、それでも生まれてきた子には生きる力が十分にあるんです。不安はいずれ希望に変わります。一人で悩まないでぜひ相談して」(水戸川さん)。

支援の充実が、障害のある子供と家族を後押し

冊子イメージ:+Happy しあわせのたね

 JDSでは相談事業のほか、「ダウン症がある人も誕生を祝福され、その人らしく安心して暮らせる社会」を目指し、情報提供、普及啓発、調査研究など、幅広い活動をおこなっています。

 そのなかで最近話題を集めているのが、母子手帳『+Happy しあわせのたね』です。当事者が集まるインターネット上のコミュニティー「21+Happy」が企画し、JDSが発行しました。

 一般的な母子手帳は、子供の成長段階に合わせて、できること、できないことを記入する形式になっています。しかし、ダウン症児は健常児と比べ成長・発達が緩やかであるため、その月齢で多くの項目に「できない」と記入することになり、親は「やっぱりうちの子は何もできないんだ」と思い、落胆してしまいます。しかし『+Happy しあわせのたね』では、月齢にかかわらずできた日を「はじめての記念日」として記入できるよう工夫されています。ここが、ダウン症以外の障害や課題がある子供にも合理的に配慮されたものであるため、注目されているのです。また、漫画家のたちばなかおるさんや、『セサミストリート』の作家のエミリー・パール・キングスレイさんなど、ダウン症のある子の親たちの育児エッセイのほか、家族による手記やメッセージ、親が抱えやすい悩みや不安へのアドバイスなどが載っており、盛りだくさんです。JDSが無料で配布しているほか、ホームページからも全てをダウンロードすることができます。

 水戸川さんは、長女が生まれた1985年と、長男が生まれた1999年をくらべると、障害者に対する支援や社会の理解はずいぶんと変わったと言います。そして最近は、支援の内容も多様になってきており、2012年には(社福)鞍手ゆたか福祉会が「福祉型大学 ゆたかカレッジ」という新しいシステムの事業所を開設しました。全国5箇所にあり、文部科学省認可の大学ではないものの、特別支援学校の高等部を卒業した知的障害者が、前半の2年間で基礎学力や教養を学び、後半の2年間で実務体験を積み、合計4年間で社会へ出るための準備することができます。ゆたかカレッジは、ゆっくり育つというダウン症の特性を活かせるので、水戸川さんの長男も、東京にある「カレッジ早稲田」に通っています。

 「以前には無かったいろんな支援が各地に広がってきていて、今後が楽しみです」(水戸川さん)。

 多様な生き方を認め、どう支えるか。それが、障害の有無にかかわらず、全ての人が幸せに暮らせる、豊かな社会を実現する鍵だといえそうです。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子

はじめの一歩!

ダウン症について知りたいと思ったら

冊子表紙

『ふしぎだね!? ダウン症のおともだち』

玉井邦夫/著 ミネルヴァ書房/刊

ダウン症のある子供の行動とその意図、周りの受け止め方などをやさしく解説。ダウン症のある友達がいる子供達だけでなく、大人にも読んでほしい一冊です。第10回学校図書館出版賞大賞受賞。

ダウン症協会のロゴ

公益財団法人 日本ダウン症協会(JDS)

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ホームページ:外部サイトへ移動しますhttp://www.jdss.or.jp/

3月21日は「世界ダウン症の日」、3月は「ダウン症啓発月間」です。

世界ダウン症の日のロゴ

期間中は各地でイベントが開催されます。
ホームページ:外部サイトへ移動しますhttp://jdss.or.jp/wdsd2018/

 

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