TOKYO人権 第45号(平成22年3月24日発行)
特集
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1999年に、当時の国連事務総長であったコフィー・アナン氏が、持続可能な社会の実現のために民間企業や団体の主体的な力を結集しようと世界に呼びかけた「国連グローバル・コンパクト」。日本ではあまり知名度が高くありませんでしたが、最近になって、少しずつ参加企業が増えてきました。営利企業だけでなく、さまざまな団体も加わることができる未知の可能性を持ったこの取り組みについて、グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク(以下GC-JN)事務局に取材しました。
1990年代以前は、国際的な問題には国や国連だけが対処するものだというのがごく一般的な見方でした。しかし今日、経済のグローバル化によって引き起こされた発展途上国の極度の貧困や飢餓、環境破壊などの問題はきわめて複雑化しており、国や国連だけで解決に取り組むことは困難になっています。そうした中、当時のアナン国連事務総長が、資金力・人材・知識・ネットワークともに豊富な資源を持つ多国籍企業に、問題解決への協力を呼びかけたのがグローバル・コンパクトのはじまりでした。
グローバル・コンパクト(Global Compact、以下GC)とは、「世界との約束」というような、契約と口約束との中間くらいのもの。その名称からわかるように、法律や条約などのように義務や罰則などの強制力があるわけではありません。あくまでも自主的な取り組みとして、人権・労働・環境・腐敗防止の4つの分野に関する10原則(図1)とミレニアム開発目標(図2)を、その企業・団体の事業や社会貢献活動の中に取り入れ、実践することを求める内容になっています。
また、多国籍企業だけでなく、問題を共有する全てのステークホルダー(利害関係者)が参加すべきものであるとうたわれています。かつて、企業のステークホルダーといえば、その企業と直接的なつながりのある顧客や株主だけを指していました。しかし、今日のグローバル経済のもとではビジネスパートナーにまで広がっており、サプライチェーン(供給連鎖)の末端の個人の生産者やその家族のほか、国際社会を含めた広い範囲をステークホルダーとして考えざるをえなくなっています。
たとえば、ごく小さな製品を作るのにも、材料の加工、部品の調達から組み立てまで、複数の国にまたがる大小さまざまな企業や生産者が関わります。とある国の末端の小さな工場で人権を侵害するような違法な就労によってその部品が作られたとすると、それは一つの下請け工場だけの問題に留まらず、あっと言う間に世界に広がるステークホルダー全体に波及することになるのです。
2000年9月の国連ミレニアム・サミットで、147の国家元首を含む189の加盟国代表によって採択されました。2015年までに達成すべき目標として、以下の8つを掲げています。
日本ではこれまであまり知名度の高くなかったGCですが、海外ではGCに署名していると企業イメージが良くなるというようなブランドとしての価値もあるといいます。しかしGCは何らかの認証を与えるものではありませんし、何かを保証するものでもありません。また、署名企業には特別な義務は無く、あくまでも自発的に取り組むものとされています。しかし、そこにこそ、GCの意義があります。他者に強制されるのではなく主体的に、国際的な問題へさまざまな企業や団体が取り組んでほしいという、“成熟した国際社会”に相応の期待が込められているのです。
実際にGCに参加するための手続きは、経営陣の合意形成の後、GC-JN事務局をとおして申請し、企業・団体のトップが国連事務総長と書簡を交わすだけです。その後は、毎年一回の活動報告を公開することを求められるだけという、ごく簡単なものです。
そうは言っても“国連の”というだけで敷居が高いようなイメージもあるかもしれません。
「日本人のまじめな性格ゆえの誤解かもしれませんが、『まだ取り組みが不十分だから資格が無い』と思ってしまうようなんです。でも、ここまでできたという結果が必要なのではなく、できていないことに対して改善に取り組んでいこう!というやる気が“参加資格”です。もっと気軽に参加してもらえるといいですね」(GCJN事務局次長 榎本裕子(えのもとひろこ)さん)。
GCはCSRの範囲を超えるものではないので、何か特別なことをする必要はありません。それぞれの事情に合わせて、とりあえず手近なところから始め、取り組みが不十分な分野については段階を追って取り組んでいけばいいとのこと。人権研修をおこなう、省エネにつとめる、グリーン調達をするなど、なんらかのCSR活動に取り組むことができていれば、GCが要請していることに十分応えていることになります。
さらにもう一点だけGCが求めていることがあります。それは、その団体がGCに署名しそれに取り組んでいるということを、全てのステークホルダーに対して周知するということ。そのことが顧客の安心や、取引先の人権意識を喚起することにもつながります。また特に、実際の活動に携わる従業員の人たちにそれを広報することは非常に重要だといいます。そのようにすることで、なるべく多くのステークホルダーを巻き込み、全体の意識の底上げをすることができるわけです。
GCは、全てのステークホルダーが関わるべきであることをうたっているので、必ずしも営利企業だけではなく、自治体や非営利団体なども参加することができます(図3)。残念ながら、日本では例が少ないのですが、自治体では川崎市が唯一参加しています。それらの団体には、営利企業のGCの取り組みを後押しするという、特別な役割が期待されています。
現在の日本の参加団体の数は107団体。実は日本は他の国に比べるとまだまだ参加数が少ないのだといいます。それでも、2008年に専従の事務局を設置してからは、それ以前の約2倍にまで増えてきています。今後さらに、GCの取り組みが広がることが期待されています。
「パーフェクトでなくともかまいません。少しずつでも前進していくということを宣言して、実践してほしいのです。世界を少しでも良くするために、ぜひ多くの方に加わってほしいですね」(GC-JN事務局長 奥村秀策(おくむらしゅうさく)さん)。
あなたの会社もGCに参加して、世界の“ちょっと幸せ”に協力してみませんか?
電話:03-5412-7235
ファックス:03-5412-5931
「あなたの会社や街や学校や協会のおかげで 世界は、ちょっとだけ幸せです」というコピーが添えられています。
図1 グローバル・コンパクトの10原則
人権
労働基準
環境
腐敗防止