東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第86号(令和2年7月31日発行)

コラム

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障害者が“働く姿”を通して“生きるよろこび”を伝えたい

雑誌『コトノネ』が紡ぐ社会のカタチ

書店に並ぶ雑誌のなかで障害者福祉をテーマとする異色の雑誌『コトノネ』。誌面には、生き生きと働き、地域で暮らす全国各地の障害者の姿が満載です。創刊から9年目を迎え、障害者福祉の関係者以外にも読者が広がりつつある『コトノネ』について、編集長の里見喜久夫さとみきくおさんにお聞きしました。

写真:3号ならんだ『コトノネ』の表紙

 『コトノネ』は「社会を楽しくする障害者メディア」をキャッチフレーズに、全国各地の働く障害者の姿を伝える雑誌です。誌面は洗練されたデザインとやさしい文章で構成され、読者をひきつけます。

 創刊したのは、大手メーカーの商品プランニングなどを行うデザイン事務所の経営者でもある、里見喜久夫さんです。創刊のきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災でした。里見さんは義援金や絵本などの寄付をしましたが、「自分の日常は何も変わっていないことへの違和感」を感じたそうです。そして、「3.11で変わっていく社会を“当事者”として受け止め、行動したい」と思いました。

 そうしたなか、被災地の障害者福祉施設で働く人と知り合い、障害者が避難先で受け入れを拒否されたことや、実は福祉作業所で素晴らしい商品を作っていることなどを聞きました。そこで里見さんは、障害者の仕事の様子などを紹介する雑誌を発行し、障害者や障害者福祉施設の復興支援の一助となることで“当事者”になろうと決意したのです。

 しかし、それまで一度も障害者福祉に関わったことがなかった里見さんは、取材先で出会う障害者の言動にどう反応してよいか分からず、戸惑ったと言います。里見さんはその心理的なハードルの原因は「自分自身が障害者の存在を認めていなかった」ことにあると思い至りました。そして「障害者を想定していない社会」を変えていくという『コトノネ』が目指す方向性がはっきりしたと言います。

里見喜久夫さん顔写真

里見喜久夫さん

 こうして里見さんが精力的に『コトノネ』を制作する中で、障害者の仕事として創刊時から注目しているのが「農業」です。障害者が施設外就労として農家を手伝ったり、農家が障害者を雇用したりするほか、最近は社会福祉法人や企業が農業に参入する動きも活発になっています。近年、こうした農業側と福祉側が連携して障害者の働く場をつくる取り組みは「農福連携」と呼ばれ、注目を集めています(注)。

 里見さんは、農業の価値を次のように語ります。「農業なら全国どこでも取り組むことができ、地域の活性化にも貢献できます。障害者の仕事で最も大切なのは、仕事を通じて地域とつながること。農業こそ、その仕事としてふさわしい」と強調します。「ある障害者福祉施設で、耕作放棄地の農作業をしたら、地域の高齢者がお茶をごちそうしてくれました。それまで7年間、皆で毎朝、道路や側溝を掃除していても声をかけられたことがなかったのに、農作業を1回しただけで地域とつながることができたのです」(里見さん)。これは里見さんにとって、農業が秘める可能性を強く感じる出来事でした。

 一方で、里見さんは発行を続けるなかで、「生きづらさを抱えているのは障害者だけではない」ことに気付きます。「障害の有無にかかわらず、様々な事情で生活に困窮する人が数多く存在します。格差が拡大するなかで、『コトノネ』を障害者福祉に関わる人にとどまらず、より多くの人に届けたい」と誌面の更なる充実を目指しています。

 『コトノネ』が紹介する暮らしや仕事のあり方は、これからの社会に希望を与えるものになるかもしれません。

インタビュー/林 勝一(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子
※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からリモート取材(WEB)を行いました。

(注)東京都は、様々な要因から就労に困難を抱える方が働く新たな場であるソーシャルファームの促進に向けて「都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例」を2019年12月に制定しました。「農福連携」はソーシャルファームの一例といえます。

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冊子表紙

最新号 Vol.34 
特集「福祉を、しゃべろう」

『コトノネ』

◆次号Vol.35 2020年8月20日発行
 特集「コロナだって、なんとか、なるさ」

●発行 株式会社コトノネ生活
TEL:03-5794-0505 
URL:外部サイトへ移動しますhttp://kotonone.jp/

●全国の書店、障害者福祉施設などで販売。年間購読もあります。東京都人権プラザの図書資料室でもご覧いただけます。

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