東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第75号(平成29年8月31日発行)

特集

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子どもに「当たり前」の成長を

貧困の連鎖を断ち、子どもの人権が守られる社会へ

 日本では、17歳以下の子どもの13.9パーセントが貧困の状態に置かれています。これは、経済的な理由から満足な食事が取れなかったり、進学を断念したりする子どもの割合です。しかし、本来子どもには、十分な栄養を取り、健康的に成長する権利や、教育を受ける権利があります。私たちは、子どもの権利を守るために何をすべきでしょうか。

子どもの貧困と人権とのかかわり

 貧困とは、水や食料、教育、仕事、住居など、生きていくうえで必要な基本的な物が欠けている状態ですが、その定義は様々あります。特に、先進国では、国民一人ひとりの手取り収入を試算して順番に並べたとき、中央値の半分に満たない人を「貧困」と定義しており、これを「相対的貧困」といいます(注1)。例えば、毎食、温かい食事を取り、友人と遊び、勉強をし、希望する高校や大学に進学するといった、先進国では当たり前とされる生活ができない状態を指しています。

 厚生労働省の最新の調査結果(注2)によると、2015年時点で、日本の子どもの13.9パーセント、およそ7人に1人が、この相対的貧困の状態にあります。この割合は先進国の中では高い数値ですが、社会の理解はそれほど進んでいるとはいえません。原因の一つは、多くの人が「貧困」を「衣食住に事欠き、命すら危うい状態」とイメージするからです。しかし、これは「絶対的貧困」といわれ、先進国ではほとんど見られません。このため、日本では貧困が認識されにくく、社会でも活発な議論が交わされてきませんでした。

 しかし、実際に貧困状態にある子どもは、1日の食事が給食のみであったり、具合が悪くても病院に行けなかったりと、本来、子どもなら当然保障されるべき生活ができない環境に置かれています。この現状は、子どもの権利にかかわる深刻な問題です。

 子どもの権利は、1989年に国連で採択され、翌年、国際条約として発効された「児童の権利条約」に定められています。主な権利として、十分な食事や社会的保障が得られる「生きる権利」、教育や余暇の機会が得られる「育つ権利」、差別や虐待を受けない「守られる権利」、グループ活動などに参加できる「参加する権利」があります。この条約は、国際情勢に合わせて改善が重ねられており、現在、人権条約としては史上最多の締約国を得ています。日本は1994年に批准、発効し、国が施策を進めているところです。

子どもの貧困が解消されない理由

 しかし、日本で条約が発効されてからも、国内の子どもの相対的貧困率は世界の主要34か国の平均値を上回っています(注3)。そんな中、なかなか貧困状態が解消されない理由として、特に指摘されているのが「貧困の連鎖」です。これは、親から子へと、世代をまたいで貧困が引き継がれてしまうことです。

 例えば、貧困状態にある親は暮らしていくのに精一杯です。なかでもひとり親世帯の貧困率は50.8パーセントに達します。金銭的にも精神的にも、子どもの教育に投資するゆとりがありません。すると、子どもは学習への意欲や機会を失いやすく、低学力や低学歴の傾向が強まります。また、満足な食事を与えられていないために、気力や集中力に欠け、授業に身が入らないケースも少なくありません。このような子どもたちは、成長しても学歴の低さから低賃金の職業に就かざるを得なくなり、やがて子どもを持ったとしても、結局、自らと同じ道をたどらせやすいというわけです。

 この悪循環を重く見た政府は、2014年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を施行、さらに同年、対策の基本方針を示した「子供の貧困対策に関する大綱」を策定しました。この大綱には、子どもの生活支援や教育支援、保護者の就労支援などを推進することで、貧困の連鎖の解消を目指すと明示されています。

 ところが、2016年、NPO法人さいたまユースサポートネットが全国479自治体に調査した結果、貧困状態にある子どもに対し「学習支援の実施を予定していない」と回答した自治体が45.3パーセントに上ったことが分かりました。理由の多くは「人員や団体が確保できない」「財源が確保できない」というもので、貧困状態にある子どもに、行政の十分な支援が届いていない実態が明らかになったのです。

地域住民が貧困家庭をサポート

写真:食事風景

子ども食堂で過ごす子どもたち。皆で遊ぶのも大きな楽しみだ

 こうした中、期待を寄せられるのが貧困家庭やその子どもを支援する地域住民の活動です。特に注目を集めるのが、公民館や個人宅を開放し、無料または安価で食事を提供する「子ども食堂」や、無料の学習支援です。特に子ども食堂は、近年、各地で開設が相次ぎ、全国で少なくとも300カ所以上、そのうち約60カ所は都内で運営されています。

 この取り組みを全国に先駆けておこなってきたのが、東京都豊島区のNPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークです。現在、区内で運営する4つの子ども食堂では、それぞれ月2回、子どもなら無料または100円で、栄養バランスのとれた温かい夕食を食べることができます。そのうちの一つ、「椎名町子ども食堂」では、食事の前に「宿題タイム」を設けており、毎回、ボランティアが子どもたちの学習支援をおこなっています。また、区内3か所で週1回、地域の大人や学生ボランティアが無料の学習会を実施するなど、家庭状況に左右されることなく学べる場を地域に点在させることを目指しています。

 事務局長の天野敬子(あまのけいこ)さんは、これらの取り組みで大切にしていることを次のように話します。「子どもが安心して過ごせる居場所にしたいと考えています。その子どもが貧困かどうかは、見た目ではわからないので、ここは誰が来てもいいのです。多いときで100食分がなくなるときもあります。子どもは自分から相談窓口に行くことはできません。ここで一人の子どもが信頼できる大人とつながり、困っていることの一端でも言葉にできることが大切です」。

他人事ではなく、社会全体の問題として

 一方で、貧困状態にある子どもの親にとっても、こうした地域の居場所が必要です。子ども食堂の多くは、大人も300円程度で食事をすることができるため、親子連れで利用するケースが少なくありません。すると、子どもが食事をしたり遊んだりしている間に、親が運営スタッフに悩み事を相談する姿も見られるといいます。特にひとり親は、「金銭的余裕がなくなれば人付き合いも減っていき、孤立しがちなので、子ども食堂が数少ない相談や息抜きの場になっている」といいます。“子どもの貧困は親の責任だ”と非難されがちですが、「本当に問題なのは、非正規雇用が増え、格差を拡大させている社会の仕組みではないでしょうか。とはいえ、景気回復を待ってもいられません。人と人がつながり助けあうことで笑顔になれる地域の居場所づくりが必要です」(天野さん)。

 しかしながら、貧困状態にある子どもとの接点が少ない人たちにとって、この課題を身近に感じるのは難しいことかもしれません。そこで、日本財団が2015年に発表したのが「子どもの貧困の社会的損失推計」です。このまま貧困対策がおこなわれなかった場合、日本の社会にどれだけの損失を生むのかを推計しています。調査結果によると、仮に15歳の子ども18万人の貧困対策を1学年おこなわないと、彼らの生涯所得の合計額は2.9兆円減り、政府の財政負担が1.1兆円増加するというのです。こうした面からも、子どもの貧困が私たちと無関係ではないことが分かります。

 多くの子どもは、貧困状態が長引くと将来への希望も自尊感情も失ってしまうといいます。子どもが生きる気力を失わず、当たり前に成長できる権利を保障する必要があります。そのためには、私たち一人ひとりがこの課題に関心をもつと同時に、行政による根本的な対策が急がれます。

インタビュー/林 勝一(東京都人権啓発センター専門員)
編集/小松 亜子

(注1)、(注2) 厚生労働省『平成28年 国民生活基礎調査の概況』
(注3) 内閣府『平成26年版 子ども・若者白書』

はじめの一歩!

貧困状態の子どもを支援したいと思ったら

地域の子ども食堂や、学習支援のボランティアをしてみてはいかがでしょうか。

映画『さとにきたらええやん』の鑑賞もお勧め。貧困対策の関係者がこぞって推奨するドキュメンタリーです。

『子ども食堂をつくろう!』

冊子表紙

豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 編
明石書店 刊 2016年7月

NPO法人 豊島子どもWAKUWAKUネットワーク

写真:笑顔の天野さん

豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 事務局長 天野敬子さん

外部サイトへ移動しますhttp://toshimawakuwaku.com/
電話:090-3519-374
Eメール:info@toshimawakuwaku.com

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