東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第71号(平成28年8月31日発行)

インタビュー

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他人と違っても、命の価値は変わらない 他人と違うことに、生きる価値がある

日本人の父親とガーナ人の母親の間に生まれ、6歳で日本に移住した矢野デイビットさん。見た目の違いから、さまざまな困難を感じながら幼少期を過ごしましたが、大学時代に他人とは違うことの素晴らしさを知ります。現在では、自身の経験や思いを軸にして、社会問題をテーマとしたトークショーや多様性を楽しむイベント、さらには、ガーナの教育支援にも取り組んでいます。長い時間をかけて自分と向き合い、やがて他人との関わり合いを通して多くの気づきを得たという矢野さんにお話をうかがいました。

PROFILE

顔写真:矢野デイビットさん

矢野デイビット やのでいびっと さん
ミュージシャン、タレント、明星大学客員講師、一般社団法人Enije 代表

1981年生まれ。日本国籍。ミュージシャン、タレント、明星大学客員講師、一般社団法人Enije代表。6歳のときに両親と兄、弟とともにガーナから日本へ移住。18歳まで児童養護施設で育ち、ピアノやサッカーに打ち込む。大学に進学後、20歳からモデルの仕事を始め、「ユニクロ」「リカルデント」「エネループ」「インテル」などのCMに採用され、注目される。その後「すぽると!」「世界ふしぎ発見」などのテレビ番組にも出演。その傍ら、ピアノの弾き語りを始め、2013年には兄弟3人でボーカルユニット「YANO BROTHERS」を結成し、演奏活動をおこなっている。25歳のときに、ガーナでストリートチルドレンと出会ったことを機に、自立支援団体Enijeを設立。これを2012年に一般社団法人化し、日本国内でのイベント収益を基に、ガーナの教育支援に取り組む。コミュニティ全体の経済支援の他、教員養成施設、児童養護施設の設立も目指している。また、トークイベント「箱舟に積むモノ」を開催し、当事者を招いて社会問題をシェアする活動などもおこなっている。学校や企業な等での講演多数。

ガーナから日本に移住した後、どんな困難がありましたか?

 最初はインターナショナルスクールに通っていたのですが、家庭の事情で8歳のときから児童養護施設で生活することになりました。そこから公立の小学校に通い始めましたが、見た目の違いからいじめを受けるようになりました。でも、他人と違う自分が悪いのだと思い、何もできませんでした。「みんなと同じになりたい」とずっと思っていました。5年生のあるとき、いじめられて泣いていると、担任の先生に「闘いなさい。自分で自分を守りなさい!」と言われたんです。そのとき初めて、僕もみんなと同じ人間なのだから、嫌なことには抵抗していいんだと気づきました。

 ある日、級友に肌の色をからかわれて、それがあまりにもひどかったので、とうとう我慢できず殴りかかったんです。そうしたら、ちょうどその瞬間に先生が教室に入ってきて、僕の方が悪いことにされてしまった。僕は学校で問題を起こしたことを、児童養護施設の職員に厳しく叱られました。しばらくすると、けんかした相手の子とその母親が施設を訪ねてきて、「息子があなたに謝りたいと言ってるの」と。それを聞いたとき、泣きたいくらいうれしかったのを鮮明に覚えています。「自分が悪かった」と謝る勇気と心を持った人が、この世にいるんだと初めて知ったんです。それをきっかけに、彼やほかのクラスメイトと仲良くなり、あれほどつらかった小学校生活が一変しました。

 しかし、小学5、6年生はうまく過ごせたのですが、中学、高校生活は順調にはいきませんでした。見た目が違うから、どこへ行っても知らない人達からジロジロと見られ続ける毎日です。それは本当につらいことで、いつもイライラして攻撃的になり、周囲となじめませんでした。高校を卒業するとき、連絡できる同級生が1人か2人しかいなかった。何て寂しいんだろう…と思いました。

その後、他人との関わり方が変わったきっかけは?

写真:矢野デイビットさん、インタビュー風景

 大学に入ってからは積極的に他人と関わることを意識しました。最初、どういうふうに関係をつくればいいのか分からなかったけど、とりあえず近くの席に座った人達に「デイビットっていうんだ。よろしくね」と話しかけてみました。そうしたら、「日本語を話してる!」と、とても驚かれました。当時は、僕のような見た目で日本語を話す人は珍しかったのでしょう。すぐに「どうして日本語を話せるの?」「どうして名字が『矢野』なの?」と話が盛り上がり、その様子に興味を持った人達も集まってきて、あっという間にたくさんの友達ができたんです。高校生までは他人と違うことがとても嫌でしたが、他人と違って良いんだと初めて気づきました。大切なのは他人と違うということを自分自身がどう生かすかだ、と知ったのです。

 子供の時分は、みんなと違うことはいけないことだと思ってしまいがちです。それを理由に冷やかされたりいじめられたりしますから。そういう境遇にいる子供達にとっては、きれいごとにしか聞こえないかもしれませんが、僕は講演の最後に必ずこう話します。「どれだけ他人と違っていても、自分には価値があると信じてほしい」と。同じ苦しみを感じて育ちながら、でも、そう信じて生きている大人がいることを覚えていてほしいのです。

 周囲とうまくなじめなかったころ、みんなが僕を嫌っていて、僕はこの世に必要とされていないんだと思って生きていました。そういう考えを、僕自身が変えることは大事なのですが、そう思わせてしまう社会の側により大きな問題があると思います。子供は大人を見て学ぶものです。僕ら大人が、マイノリティを否定する気持ちを持っていると、それが子供達にはちゃんと伝わってしまうのです。

 人は「こうでなければならない」という思い込みを持てば持つほど、それに合っていない人を許せなくなってしまいます。他人と違うということを嫌う人達は、どこかで自分の価値観が絶対的に正しいと信じているのではないでしょうか。でも僕は、「あなた達の考えこそ間違っていると思っている人達も世の中には大勢いるんだよ」と、そんな人達に問いかけてみたいのです。

いろんな人が参加する運動会(注・参照)を企画しているそうですが、なぜですか?

 「運動会」は、他の国には無い日本独自の文化で、技術的なスキルを問われない、アスリートではない“普通”の人達誰もが参加できる素晴らしいスポーツイベントなんですよ。そこでは国籍とか障害の有無とかも関係ありません。競技に参加することで他人と関わり合い、チームになって力を合わせることができる。そうすると、偏見や固定観念みたいな変なこだわりを取り払うことができて自由になり、心の底から今を楽しむことができるんです。人は、堅苦しく考えて、知らず知らず自分をがんじがらめにしてしまうと、他人も自分も幸せにはできないし、豊かにすることもできない。心を解放して楽しむことができたら、みんながハッピーになれると思うんです。

 僕は自分のもう一つのルーツである、西アフリカのガーナ共和国での教育支援活動に力を入れています。一方で、日本には、みんなが生きる喜びを感じられるような“支援”が必要だと思っています。僕は日本の人達にはもっと笑顔が必要だ思う。ガーナの人達は貧乏ですが、でもみんな笑顔が輝いています。お金やモノは無くても、みんな生きる喜びにあふれているんです。でも、日本は経済的・物質的に恵まれているのに、年間の自殺者が何万人もいて、なんとなくみんな疲れた顔をしている。それはとてもおかしなことだと思いませんか?

 社会には、さまざまな理由で疎外感を感じながら生きている人達がたくさんいます。僕らはどうしても、見た目だけで他人を判断してしまいます。でも実は、どんな人でも皆、他人と共有できない部分、生きる上での困難さ、“障害”みたいなものを何かしら持っています。たまたまそれが他人には見えない、見せないだけで、一人ひとりが自分の中で、そうした困難と折り合いをつけて生きている。僕らはまずその事実を意識しなければいけないと思うんです。

写真:矢野デイビットさん、インタビュー風景

 言葉で伝えて理解してもらうのはなかなか難しい。けれど、それを可能にするのが運動会なんです。スポーツを通してなら、言葉が話せなくても他人と通じ合えるし、日常では出会えないような人達とも友達になれる。多様な関わり合いを通して、「何よりも大事なのは、心のあり方なんだ」と気づいてもらえたらうれしいです。そうすれば、気づきを得た人が知り合いを連れて二度三度と参加してくれるかもしれませんよね。こうして、多様性を楽しむ遺伝子を、人々の心の中で次々に目覚めさせられたらいいなと思っています。

 イベントをするときに心を配っているのは、参加するときのハードルを低くすることですね。社会は、問題意識の高い一部の人だけでは変わりません。だから、この運動会では堅苦しい理念や厳しいルールは設けず、社会問題に興味を持っていない人でも気軽に参加できるようにしたいと思っています。

 できれば、今年2016年の秋以降に第1回を開催したいです。年1回のペースでこうおこない、東京オリンピック開催の年には、競技に出場してくれる人達だけではなく、スタジアムで盛り上げてくれる観客も含め、“普通”の人達5万人が参加する大運動会にしたいと思っています。マイノリティの人達、外国人と障害者の人達には特にたくさん参加してほしいな。初めての試みで大変なこともあるかもしれませんが、絶対にみんなが楽しめるイベントになると思います。ボランティアの人達や協賛していただける企業の方々を大募集しています。それから、外国籍や障害者のコミュニティとつながりのある方にも、ぜひ協力してもらいたい。

 そのためにも、僕自身が「力を貸してあげたい」と思ってもらえる人間になれるよう、自分を育てていく必要があると感じています。

今後の活動について、展望を聞かせてください。

 ガーナでの教育支援をおこなうために、一般社団法人Enije(エニジェ)を立ち上げ、日本でおこなったフットサルイベントなどで集めた資金を基に、2010年に、つぶれかかっていた幼稚園を再建しました。それから2014年には中学校を新たに開校しました。校舎がまだ足りないので、もっと資金を集めたいと思っています。

 実際に学校運営に携わってみると、施設を作るだけでは十分ではないことが分かってきました。教員の養成も必要ですし、学校に通いたくても通えない貧困層の子供たちへの経済支援も必要です。こうした中で気づいたのは、「教育はまちづくり」でもあるということです。子供達が学校に通うには、その親が働いてお金を稼ぐことが必要で、そのためには雇用が充実していなければなりません。そしてもちろん、学校を卒業した子供達にも働き口が必要です。そこで、現在は町に雇用を生み出す取り組みも進めています。

 さまざまな活動をする中で、僕が一番うれしいと感じるのは、自分の経験が次の世代に必要なものとなった瞬間です。子供達に生きるヒントを伝えられたり、役立つものを形にできたりすることは、僕にとってとても幸せなことです。いろいろと苦しい思いをしたけれど、あの経験があったからこそ今の自分があるし、次の世代のためにできることがある。経験したことすべてを本当に良かったと、今は思えます。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子
撮影/加藤 雄生

(注)計画中の運動会について

その名も「地球大運動会」。ただ今、2016年秋以降、都内での実現に向けプロジェクト進行中。関心のある方はぜひともご連絡ください。

地球大運動会実行委員会
「地球大運動会」に関するお問合せ
info@enijeproject.com(担当:ワニベ)
「地球大運動会」ボランティア参加希望はこちら
b@enijeproject.com(担当:ワニベ)

矢野デイビット オフィシャルサイト
外部サイトへ移動しますhttp://davidyano.com/
一般社団法人Enije
外部サイトへ移動しますhttp://enijeproject.com/

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