東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第71号(平成28年8月31日発行)

コラム

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「スペシャル」な才能を芸能界に送り出す 磨けば光る原石、知的障害者のタレント事務所

欧米では、テレビドラマや映画の中に多くの障害者が登場し、またその役を、多くの障害者達自身が演じています。「知的障害者に演技はできない」という誤解を解き、当事者がメディアに登場する機会を増やして、障害への理解を広めようと挑戦する社会的企業を取材しました。

顔写真

国枝秀美さん

 7月の昼下がり、西新宿のとあるスタジオの一室で20人ほどの若者たちが演劇の稽古に打ち込んでいました。このとき練習していたのは、障害の有る女性が、同じく障害の有るパートナーの男性に妊娠を告げる場面。男性が女性を抱きかかえて飛び跳ね、子どもを授かったことの喜びを表現し、それを仲間たちが一緒になって祝う??。つい先日上演された、知的障害者同士の恋愛と自立をテーマにしたミュージカルに出演したのは、障害児・者の芸能事務所、(株)ケイプランニング芸能部SPクラスの所属タレントたちです。SPとは「スペシャル」の略で、現在50人ほどのメンバーは皆、知的障害者です。

 欧米では、テレビドラマや映画で、障害者自身が障害者を演じることは珍しくありませんが、日本では同事務所設立まで、あまり例がありませんでした。代表の国枝秀美さんが社内に芸能部を立ち上げたのは2008年。きっかけは、自身がプロデューサーを務めた映画の監督が、障害児の役に、多くの障害児を起用したことでした。

 「知的障害の有る人たちと触れ合ったことが全く無かったので、最初は不安でした。でも実際に会ってみて、ちゃんと演技もできるし『大丈夫だ』と安心しました。それどころか、場の空気を優しくするような、特別な才能を感じましたね」(国枝さん)。

 国枝さんは、その映画の撮影現場で障害児の保護者から欧米でのドラマや映画への出演状況を聞かされ、その後、自身の目で確かめようと米ロサンゼルスの専門事務所を視察しました。

 「仕事として年間150もの出演が有るとの事実は衝撃的でした。すごい、日本でもやりたい!と希望を胸に帰国して、日本で初めて専門の芸能事務所を、社内の芸能部としてスタートすることを決意しました」と、国枝さんは当時を振り返ります。

写真:稽古風景

楽しそうだけど真剣な稽古場
その姿は、さすがプロ!

 当然ながら所属メンバーは芸能界の厳しい競争に容赦なくさらされます。仕事は均等に分配されるわけではありません。努力は必ずしも報われず、役がもらえる人とそうでない人の差は明らかに生じます。それでも、と国枝さんは期待を込めて言います。

 「私は“福祉”ではない場で彼らを活躍させてあげたい。一人前のタレントとして舞台に立ち、自分自身の力で社会に訴えてみろ!と背中を押したいのです。彼らにはそれができる才能が十分あるし、理想に近づくよう励むことが、彼ら自身が社会で生きていくための力につながるはずです」(国枝さん)。

 事務所開設から8年がたち、幼かったメンバーたちは日々立派に成長しています。数人は成人して今でもメンバーとして活動しています。そして、映画やテレビに多数出演して頭角を現すようになってきたメンバーも出てきて、少しずつその想いが形になってきました。

 国枝さんは、障害者として生まれてくること自体が不幸なことだと、世の中の大勢の人たちが誤解していることが、とても気になっていると言います。

 「実際の障害者を知らないからでしょう。人は知らないものに恐れを感じるもの。その一つの原因は、当事者自身がメディアに出ることが少ないからでしょう。才能にあふれた輝く姿を大勢の人たちに知ってもらえれば、世の中はきっと変わる。障害者の芸能事務所は、そのための仕事です」(国枝さん)。

 障害者タレントの活躍をスクリーンで見ない日は無い。そんな日が来るのが、とても楽しみです。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/脇田 真也

もっと知りたい!

冊子表紙

『子育て手記 障がいだってスペシャル』
内海那一&ケイプランニング 編
雲母書房 刊
障害児/者とその家族たち。その底抜けの笑顔をつくるものは?
子育てをする人たちすべてを元気にさせる一冊。

<取材先情報>
(株)ケイプランニング 芸能部SPクラス
外部サイトへ移動しますhttp://www.9292.co.jp/

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