東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第70号(平成28年5月31日発行)

特集

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児童養護施設を出た子どもたちへの支援 社会的養護の現状と課題解決に向けて

親の虐待などさまざまな事情で、家庭で生活できず児童養護施設等に暮らす子どもの支援の拡充が求められていますが、特に児童養護施設から退所した子どもたちの自立支援が大きな課題となっています。現状を取材しました。

社会的養護のもとで暮らす子どもたちの背景と現状

写真:インタビュー中の高橋さん

高橋亜美さん

 虐待、貧困、親との死別など、さまざまな事情により、家庭で暮らすことができない子どもを、保護者に代わって社会が養育・保護する仕組みを「社会的養護」といいます。不適切な家庭環境におかれ、社会的養護がおこなわれている子どもの数は現在、約4万6千人(厚生労働省)います。そのおよそ6割が入所する児童養護施設は、全国に595か所あり、約3万人の子どもたちが生活しています。社会的養護をおこなう施設は他にも、1歳未満の乳児を対象とする「乳児院」、義務教育を終えた子どもで児童養護施設を退所した子ども等を対象とする「自立援助ホーム」などがあります。

 国の調査によると、こうした社会的養護施設への入所理由の6割は「虐待」によるものです。しかし、施設退所者の支援に携わる「アフターケア相談所ゆずりは」の所長を務める高橋 亜美(たかはしあみ)さんは、児童養護施設と自立援助ホームを運営する社会福祉法人の職員として働いた経験を踏まえて次のように言います。「『虐待』の定義に該当するかどうかは別として、入所してくる子どもたちの大半が、身体的、精神的に傷つけられています。また、欧米諸国では、里親など、より家庭的な環境で養育される子どもが多いのに対し、日本では、保護された児童の多くが、児童養護施設で暮らしているのが現状です」。

図解:社会的養護の流れ。家庭で生活できない子どもが通報等で保護され、施設への入所、退所するまでの過程を示した図。アフターケア相談所ゆずりはの資料を元に一部改変。

社会的養護の流れと課題

 子ども本人が、児童相談所に助けを求めるケースは稀まれです。大半は、幼稚園や学校、病院などの関係者や警察などからの通報によって保護されます。保護された子どもたちが、緊急回避的に生活をする場所が「一時保護所」です。その後、家庭での養育環境が修復できない場合には、最適な社会的養護施設への入所が決められます。

 2014年度に児童相談所が対応した虐待件数は約8万9千件で、過去最多を記録するなど、子どもをめぐる社会環境が大きく変化するなかで、施設の小規模化やより家庭的な養育環境として里親委託の優先など、様々な課題が指摘されている社会的養護の現状について、高橋さんは次のように言います。「例えば、一時保護所について言えば、東京などの都市部では、定員を超えている所が少なくありません。また、行き先が決まらず、生活が数か月にわたる子どももいます。そうすると、プライベートな空間がなく、学校へ通うことも何か月もの間、制限されてしまうのです。つまり、急増する虐待相談件数に対応できるだけの仕組みが整っていないのです。国は、保護された子どもが『保護されてよかった』と思えるような、子どもの権利がきちんと守られる仕組みを早急につくるべきです」。さらに自立に向けた支援が充分でない点も喫緊の課題だと高橋さんは指摘します。

施設退所者の自立を困難にする数々の障壁

 児童福祉法は、入所対象となる「児童」を18歳未満と規定しており、必要な場合には、20歳になるまで入所の延長が可能としています。しかし、実際に延長されるケースは少なく、児童養護施設や自立援助ホームなどで暮らす子どもたちの多くが、高校卒業と同時に施設を退所します。高校を中退したり、高校へ進学しなければわずか15歳で退所を余儀なくされます。施設の退所は、「自立」を意味しますが、その前途は多難です。「アパートを借りようにも、携帯電話を契約しようにも、保証人になる家族がいないため契約できないことがあります。住み込みで働いたり、非正規の仕事についたりせざるをえないことがほとんどです。ひとたび仕事を失えば、家賃が払えず、住むところを追われます。身を寄せる実家もありませんから、たちまち行き詰まってしまいます。男性の場合はホームレスになったり、罪を犯して刑務所に入ったり。女性の場合は性産業で生活をつないだり、望まない妊娠に悩んだり。いざというときに頼りになる親や家族の存在は、心の支えとなる“見えないセーフティネット”です。しかし、頼るあてもなく自立を余儀なくされる退所者には、少しの失敗も、立ち止まることも許されないのです」(高橋さん)。

 東京都がおこなった退所者へのアンケート調査結果(表参照)からも、退所者の経済的自立の困難が、低学歴ゆえの非正規雇用、非正規雇用ゆえの不安定な収入に起因していることが読みとれます。また、この調査の対象者は、東京都所管の施設を退所して1年から10年が経過した3,920人でしたが、施設などが連絡先を把握していたのは、その5割以下の1,778人でした。高橋さんは、この現状を「施設退所後のアフターケアがいかに不十分であるかの表れです」と話します。

  最終学歴
(一般的な進学率と比較)
正規雇用の割合
施設退所者 中学卒 23.4% 男性 56.5%
高校卒 58.3% 女性 33.9%
大学卒等 15.1%  
非施設退所者 高校進学率 98.0% 男性 75.3%
大学等への進学率 65.4% 女性 64.1%

出典:東京都福祉保健局「児童養護施設等退所者へのアンケート調査結果」(2011年)

アフターケア相談所「ゆずりは」とは

 児童福祉法は、児童養護施設に入所する子どもの養育以外にも、退所者に対する相談や自立のための援助をおこなう役割を求めています。しかし、職員及び資金不足などの理由から、多くの施設は十分なアフターケアができずにいます。そうした現状の改善に向けて2011年に開設されたのが、「アフターケア相談所ゆずりは」です。「家族が一生家族であるように、本来は出身施設が退所者にとって一生頼れる存在でなくてはならないのですが、そうなるのを待っている時間はないと思い、『ゆずりは』をつくりました。ここは、退所者が困りごとに直面したときに、遠慮することなく、いつでも助けを求められる場所です」と高橋さん。

 「ゆずりは」には、年間で1万件を超える相談が全国から寄せられます。相談者は退所者本人以外にも、学校関係者、弁護士、里親などさまざまです。相談内容に応じて、支援機関や医師や弁護士などの専門家の力も借りながら、相談者が抱えている問題を解決に導いていきます。状況によっては、相談者のもとを訪れ、賃貸契約や生活保護の申請などに同行することもあります。ほかにも、退所者が気軽に集えるサロンや、高卒認定資格取得に向けた無料学習会など、退所者のさまざまなニーズに応える活動をしています。また、虐待の加害者である保護者を対象としたプログラムを実施することで、虐待そのものを減らす活動にも積極的に取り組んでいます。

私たちにもできる支援

 2016年、「ゆずりは」は、「ゆずりは工房」を立ち上げました。ここは、「職場での人付き合いに自信をつけたい」「自分の存在意義を感じたい」「社会人として、生活のリズムを整えたい」といった願いを持つ退所者が、社会に出る前に、就労の経験を積む場所です。現在、退所者4名が、オリジナルのジャムづくりに励みながら、社会的自立を目指しています。本格的なレシピのもと、地元産の果物にこだわり、無添加でつくられているジャムは、大人にも子どもにも大人気です。

 多くの課題がある社会的養護の現状に対して、高橋さんは、社会的な支援の必要性を訴えます。「子どもが自分で社会的養護が必要な状況を選んだのではありません。そうした状況をつくった親にも支援が必要です。虐待などの責任を追求することも大切ですが、何よりも早急に、子どもたちが助かるための仕組みづくりが必要です。そのために、自分にできることを一人ひとりが考え、実行することだと思います」。社会的養護の「社会」には、私たち自身も含まれていることを再認識することが大切だといえそうです。

インタビュー/林 勝一(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/那須 桂

冊子表紙

『子どもの未来をあきらめない施設で育った子どもの自立支援 』

高橋亜美・早川悟司・大森信也/明石書店

写真:ジャム瓶

アフターケア相談所 ゆずりは

「ゆずりは工房のジャム」

お問い合わせは「ゆずりは」のfacebookまで。
外部サイトへ移動しますhttps://www.facebook.com/acyuzuriha/

または、お電話にてお問い合わせください。

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