東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第68号(平成27年11月20日発行)

特集

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誰もが尊重される人権都市・東京を目指して 15年ぶりに改訂された「東京都人権施策推進指針」

東京都がさまざまな施策をおこなう時に、人権に関わる考え方や方向性のよりどころとするのが「東京都人権施策推進指針」です。今年2015年8月、この指針が15年ぶりに改訂されました。指針の内容と東京都が目指す方向、そして、それが私たち都民の生活にどう関わってくるのかについて取材しました。

「東京都人権施策推進指針」改訂の経緯

 1994年に国連は「人権教育のための国連10年行動計画」を採択しました。これを受け、1997年に国が地方公共団体に、自主的な人権教育の推進を期待し「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」を策定。さらに東京都がこれを受けて、2000年に策定したのが「東京都人権施策推進指針」(以下、指針)です。

 この指針は、東京都の人権施策の基本的な考え方や方向性などについて示したものです。策定から15年が経った2015年現在、社会状況は当時とは大きく変化しました。最初に策定したときは、9項目を人権課題として取り上げました(表参照)。しかし今日では、インターネット上での誹ひ 謗ぼう中傷やプライバシーの侵害、北朝鮮による日本人拉致問題、東日本大震災被災者の人権問題、特定の民族や国籍の人に対し差別的な言動をおこなうヘイトスピーチなど、さまざまな人権問題が顕在化してきています。

 さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定したことで、日本はこれまで以上に国際社会から人権への取り組みを求められることになりました。こうした状況を受け、東京都は指針を15年ぶりに改訂することを決定しました。

 新たな指針に、さまざまな意見を反映するため、改訂の過程は常に公開されました。東京都のホームページでは現在も、世論調査の結果や寄せられたパブリックコメントなど、指針策定の経過を全て見ることができます。東京都がまず取り組んだのは、都民への世論調査でした。この調査結果をもとに、有識者懇談会で新しい指針をどうするべきか話し合われました。個別の人権課題の専門家に講師を依頼しての勉強会や、さまざまな人権問題の当事者の人たちからの意見聴取等を盛り込んだ7回の会合の後、懇談会から東京都に対し、最終的な提言がおこなわれました。

2000年に策定した際に設定した課題9項目

2015年に新たに加わえられた課題7項目

改訂された指針の内容

 東京都はこの提言を受け、新たな指針を策定しました。主なポイントは3つです。1つ目は「基本理念」の具体化、2つ目は「人権課題」の項目の追加、3つ目は「重点プロジェクト」の新たな策定です。

 1つ目の「基本理念」では、人権の保障された国際都市を目指し、次のような「目指すべき東京の姿」を掲げました。

  1. 人間としての存在や尊厳が尊重され、思いやりに満ちた東京
  2. あらゆる差別を許さないという人権意識が広く社会に浸透した東京
  3. 多様性を尊重し、そこから生じる様々な違いに寛容な東京

 さらに指針では、この基本理念を具体化するために次の5つの考え方を尊重し、公平・公正な人権施策を展開することとしています。

  1. 助け合い・思いやりの心の醸成
  2. 多様性への理解
  3. 自己実現の支援
  4. 公共性の視点
  5. 公平な機会の確保

 2つ目の「人権課題」には、2000年の指針で取り上げた9項目に、新たに7項目が追加されました(表参照)。

 そして3つ目の「重点プロジェクト」は、人権尊重の理念を広く社会に発信し浸透させるため、重点的に取り組むこととして新たに掲げられたものです。

  1. オリンピック開催に向け、人権尊重都市「東京」を内外に向け発信
  2. 幅広い都民に訴えかける大型啓発キャンペーンにより都民の人権意識を醸成
  3. 人権施策を推進するための第三者機関の設置
  4. 人権啓発拠点の機能強化

 なお、東京都は、指針に示したこれらの理念や課題、プロジェクトに対し、人権施策を推進していくため、「啓発・教育」「救済・相談」「支援・連携」の3つの観点から取り組んでいくこととしています。

行政と都民、それぞれにとっての指針の意義

顔写真

戸松 秀典さん

 「改訂された指針には、現在の人権課題を網羅するようつとめました」と語るのは、2000年の指針策定と今回の改訂で、2度にわたり有識者懇談会の座長を務めた、学習院大学名誉教授で憲法学者の戸松秀典(とまつひでのり)さんです。今回の有識者懇談会には、戸松さんの他に、人権問題や社会保障、精神保健の各専門家、弁護士など、幅広い分野から6名が委員を務めました。戸松さんは、人権課題の現状をあらゆる観点から分析し、7回の懇談会で意見交換をし、可能な限り最善の提言をしたと言います。

 「人権課題に取り組む具体的な活動は、本来、地方自治体が先頭に立っておこなうべきものではないと思うのです。なぜなら、行政がいつも正しい方向に人々を導けるとは限らないからです。むしろ、地方自治体に求められるのは、中立で公正な姿勢と、一歩引いた立場で人権課題の解決をバックアップするような施策を打つことなのです。そうしたことの基となる指針ですから、都民のみなさんのためになるよう、より良いものにできるよう心がけました」(戸松さん)。

 しかし、日常的に人権を身近な問題として捉える機会はそれほどあるわけではありませんから、多くの人たちにとっては、この指針の意義を具体的に感じることは難しいかもしれません。

 「都のさまざまな施策、例えば、学校や公共施設等を作り運営すること一つをとっても、この指針の考え方が反映されることを想像してみてください。都民の人権を守るための確かな指針が、自分や家族が身を置く環境をより良いものにすると想像すると、指針の意義が理解できるのではないでしょうか」(戸松さん)。

 指針は東京都が区市町村や民間団体など、さまざまな組織と連携して何かをおこなおうとする時にも、方向性を共有するのに役立ちます。また、東京都が指針に基づいて人権啓発をおこなうことで、無意識に差別や人権侵害をしている人たちに気づきを促すことができ、これまで人権問題で苦しんできた人たちを間接的に支援することもできるのです。

未来の東京のためにできること

 東京都では今後、指針に基づき、さまざまな方法で人権啓発や人権教育を進めていくことになります。例えば、テレビやインターネットなどマスメディアを活用することや、スポーツや文化団体との連携など、幅広い世代に関心を持ってもらえるよう、模索していくことになるでしょう。人権尊重の意識を押し付けるのではなく、都民がそれを自然に受け入れ実践できるように、創意工夫をこらした施策が期待されます。

 「行政は、さまざまな人権課題の変化を敏感に受け止め、常に柔軟に対応していってほしいですね」と、東京都の今後について、戸松さんは理想を語りました。その一方で、本当は施策など無くとも、人権を尊重し合える社会になると良いとも言います。

 「指針のテーマは煎じ詰めて言えば『人を大切にしましょう』ということにつきます。家庭や学校で、人権という言葉を試験勉強のように知識として植えつけるだけでは、本当の意味での人権啓発にはなりません。人の痛みを感じること、困っている人を助けること、国籍や宗教、文化の異なる相手を受け入れることなどを、日常生活で当たり前にできるよう、大人が子どもの心に寄り添い、実践的に教えることが大切です。知識だけでなく、豊かで寛容な心を育むことこそ、人権の尊重された社会の実現に、まず必要なことだと思います」(戸松さん)。

 今後、東京が国際都市としてますます発展していくためには、私たちの一人ひとりの、人権を尊重する心が、まさに欠かせないのです。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子

「じんけんのとびら」(東京都総務局人権部)
外部サイトへ移動しますhttp://www.soumu.metro.tokyo.jp/10jinken/tobira/index.html
「東京都の人権施策」に関するWEBページ
外部サイトへ移動しますhttp://www.soumu.metro.tokyo.jp/10jinken/tobira/sesaku01.html
(注)指針の概要、本文、有識者懇談会の内容、都民からの意見と東京都の回答が見られる。
「人権に関する世論調査」結果
外部サイトへ移動しますhttp://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2014/04/60o48100.htm

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