東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第67号(平成27年8月31日発行)

特集

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被害者と加害者の対話がもたらすもの 「修復的司法」で犯罪被害からの回復をめざす

「被害者加害者対話」は、犯罪の被害者と加害者が対面し、事件について話し合う取り組みです。現行の司法制度だけでは解決できないさまざまな葛藤を、当事者同士が気持ちを伝え合うことで互いの精神的な回復や立ち直りを図り、償いの方法などを模索します。米ミネソタ大学の調査では、こうした対話を経験した被害者の8割以上が満足し、加害者の再犯率が約3割減少したといいます。修復的司法を日本で実践している団体に取材しました。

世界で注目される「修復的司法」とは

 これまで日本では幾度となく、犯罪被害者の権利向上の必要性が訴えられてきました。と同時に、加害者に対する厳罰化を要求する世論の高まりもあり、1990年代以降、政府は被害者支援を目的とする法律や制度の整備、少年法の改正などをおこなってきました。

 この状況について、弁護士で「NPO法人 対話の会」理事長の山田由紀子(やまだゆきこ)さんは次のように話します。

 「政府も法曹関係者も、被害者支援に十分取り組んでこなかったことをもっと反省すべきです。他方で、被害者の権利を相対的に向上させるために、加害者の人権を引き下げるという風潮には疑問を感じました」。

 山田さんは被害者にも加害者にもプラスになるような新たな方法を求め、1998年、日本よりも厳罰化が進んでいたアメリカへ留学しました。そこで出会ったのが「修復的司法」でした。国法を破ったことについて国家が違反者を処罰するという、これまで通常採られてきた制度である「刑事司法」に対し、「修復的司法」は、被害者と加害者、犯罪の影響を受けた周囲の人々など、事件の当事者が主体的に集まり話し合うことで、事件によって引き起こされた害悪の解決をともに模索する取り組みです。具体的には、被害者と加害者が第三者の仲介で直接顔を合わせ、事件にまつわる体験や心境を伝え合い、疑問や不安を解消して、罪の償い方などを話し合います。

 欧米では20年以上前から実践されており、公的に制度化されているケースも多くあります。たとえば、ニュージーランドでは、法律によって、殺人・致死事件を除くすべての少年犯罪に修復的司法が適用されており、まず対話をおこなって解決策を探り、それが不調に終わった場合に通常の裁判が開かれます。また、アメリカでは州や地域、対話を取り持つ団体によって多少の違いはあるものの、方法の基本は共通しており、被害からの回復と、再犯率の低下を図っています。

山田由紀子さん顔写真

NPO法人 対話の会 理事長
山田由紀子さん

 「アメリカは厳罰化傾向にありながら、草の根では加害者の背景や内面を分析し、教育や福祉を施す必要があるという考え方が根付いており、それも修復的司法につながっているのだと思います」(山田さん)。

 現在日本では、刑事訴訟で被害者が被告人質問等ができる被害者参加制度が設けられています。しかし、殺人などの重罪以外の、軽微な犯罪の被害者は制度を利用することができないなど、参加の条件はとても限定されています。また、加害者が被害者に対して謝罪したい気持ちがあったとしても、その機会がなかなか持ちにくい状況にあります。修復的司法はこうしたニーズを満たすものです。これこそ日本に必要なものだと考えた山田さんは、2001年、修復的司法の主要な方法の一つである被害者加害者対話(VOM =Victim Offender Mediation)を執りおこなう日本で初めてのNPO法人を協力者とともに設立しました。

慎重に判断される被害者加害者対話の開催

 加害者が収監されているときや、裁判が進行しているときに対話の会を開催することは困難ですが、それ以外なら、たとえ事件後何年経っていても開催することが可能ですし、裁判が終わり、既に賠償が済んでいても開催する場合もあります。被害者加害者対話では、金銭的な賠償以外の犯罪被害からの回復の道もありうるとしているからです。

 被害者や加害者だけでなく、家族や友人など、事件の関係者なら誰もが、開催を申し込むことができ、会への参加も可能です。費用は一切発生しません。犯行の認否を争う場ではないため、加害者が自らの犯行を認めていることが開催の前提条件となります。その上で、進行役が被害者と加害者に意思を確認します。双方から対話への参加に同意が得られた後、個別に事情や心境を十分にヒヤリングします。

 こうした準備・実施にあたり、進行役は重要な役割を果たします。NPO法人 対話の会では、特別な資格を持たない一般市民のボランティアを起用し、進行役として育成しています。これは、犯罪によって起こった問題を地域の人々自身の手で解決していこうという、修復的司法の考え方に基づいています。進行役には、被害者側/加害者側いずれの関係者でもないことによる公平性、専門家ではないからこそ可能な当事者の主体性を尊重した控え目なサポート、誰もが安心して参加できる場をつくることなどが期待されています。

 進行役のもう一つの重要な役割が、実際に対話を開催しても大丈夫かどうかの判断です。NPO法人 対話の会が活動を始めてからこれまでの14年間に受けた申し込み数は、被害者側から25件、加害者側から44件で、実際に対話が成立したのは27件です。

 「成立数が3分の1であるのは、アメリカのミネソタ大学にある修復的司法調停センターの基準を厳格に適用しているためです。参加者が互いの人格を尊重しながら話ができそうか、対話による二次被害の恐れはないかなど、双方に有益な会にできるかを厳しく見極めて開催しています」(山田さん)。

 被害者加害者対話は、相互の理解と関係修復が一番の目的であるので、実は、必ずしも当事者同士が直接会うこと自体を目的とはしていません。実際には対話の会が成立しない場合でも、その開催を準備する過程で、進行役が仲介することで、相互理解がなされ被害からの回復が進むことがあるといいます。合意文書を作成することよりも、そのプロセスに力を注ぐのは、被害者加害者対話の大きな特長です。

 「対話の会を“和解”の場としているわけではないんです。被害者が加害者を簡単に許せないのは当然ですから、被害者に許しを強要するようなことはありません。この点は誤解されやすいので、参加する方には丁寧に説明しています」(山田さん)。

 また、被害者の法律的な権利を侵害しないように、NPO法人 対話の会では、賠償額などについては弁護士に相談するよう勧めています。互いの実情を知った上で、それでも「加害者が精いっぱい償おうとしているなら」と被害者自身が心から納得できたときに初めて、合意内容を調整します。精神的な隔たりを埋め合わせ、そこから現実的に履行が可能な償いの方法を探っていくのです。こうした配慮とさまざまな準備の上に、対話の会はおこなわれています。

対話の会の進め方

(1)参加者全員が、事件の体験や心境を、自分を主語とした「私メッセージ」で語る
他者を主語とした非難や追及をせず、まずは自分自身について話します。
(2)お互いの質問と答え
被害者は、なぜ自分を狙ったのか、逆恨みしていないかなどの疑問や不安を、加害者はどんなことをすれば償いになるのか等を互いに直接尋ね、それに答えます。
(3)被害の回復や加害者の更生について話し合う
償いの内容、加害者の立ち直りや再犯防止のために何ができるか等を話し合います。
(4)話し合いの内容をまとめる
合意に至った場合は文書にまとめます。話し合った内容を全員で確認し、対話を終了します。

対話による被害の回復と犯罪者更生の可能性

 山田さんは、対話によって被害者が苦しみから回復し、加害者もまた更生していく姿を何度も見てきたといいます。

 「多くの方が『対話してよかった』と言ってくださいます。また、加害者も被害者の被害の実情を知って心からの反省に至るのでしょう。そうして立ち直ろうとするときは、表情が違うのです。そんなとき、対話を開催して本当に良かったと思いますね」(山田さん)。

 マスコミの報道などから想像される被害者は、加害者との対話など一切望んではいないかのように見えます。しかし、実際の被害者すべてがテレビの中の被害者像のようであるとは限りません。

 「加害者の顔など二度と見たくないと思っていても、なぜあんなことをしたのか、今、何を考えているのかを直接問いたいと感じるときが来ることがあります。家族を殺された被害者が10年後に加害者と対話し、許すことはできないながらも心の一区切りがつき、再び人生の一歩を踏み出すことができた例もあります。対話の会は、当事者が主体的に関わることのできる、犯罪被害からの回復のための数少ない方法の一つです。私たちは、当事者が必要だと感じた時にいつでもお手伝いできる会でありたいと思っています」(山田さん)。

 被害者加害者対話は、行政に任せるのではなく、あくまで市民が主体となって取り組むべきものです。しかし、よりいっそうこの取り組みを活かすためには、警察や裁判所等の協力も不可欠なのだといいます。NPO法人 対話の会では、将来的にはこうした公的機関との連携も図っていきたいと考えています。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子

冊子表紙

修復的対話の進行役養成セミナー(3日間)

『対話の会の進め方』(DVD付き)

(注)お問い合わせは、NPO法人 対話の会へ

『被害者と加害者の対話による回復を求めて』

(誠信書房 刊 藤岡順子 編著)

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