東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第67号(平成27年8月31日発行)

コラム

ここから本文です

個人が尊重される社会を自分たちでつくる 不登校経験者が起業した、生き方を創造する企業

さまざまな理由で既存の学校に通えない子供たちのためのフリースクールは全国に400ほど存在します。しかし、学校教育法に基づく“公的な学校”ではないため学歴としては認められていません。このため子供たちの進路の選択肢は著しく狭められています。自分らしく生きていける社会を模索するために、元・不登校の若者たちが自ら起業した社会的企業を取材しました。

顔写真

石本恵美さん

 文部科学省の調査によれば、2013年度の不登校の児童・生徒数は、全国で約12万人でした。こうした子供たちは成人して社会へ出るときにもさまざまな困難があります。日本では“公的な学校”に通うことがあたりまえとされているので、不登校者はとても孤独で、自分を劣った存在のように感じてしまいがちだといいます。

 「株式会社創造集団440Hz(ヘルツ)」は、フリースクール東京シューレが母体のシューレ大学で意気投合した若者たちが立ち上げた企業です。代表取締役の石本恵美(いしもとめぐみ)さんは中学2年生から不登校になりました。その後、映像制作を学び、在学中からそれを生かした仕事もしてきました。そこで得た経験と技術をもとに、2010年、4人の仲間たちと会社を設立しました。進路に、さまざまな社会問題を解決するための営利企業=“社会的企業”の設立を選んだことについてこう話します。

 「不登校は世の中からはじき出される経験でした。それで、誰もが人間らしく生きられる社会だったらいいのにと思うようになったんです。シューレ大学では、授業のカリキュラムでもなんでも、学生の意見が尊重され、誰もが対等な立場で互いに納得いくまで話し合ってものごとを決めます。だから働き口もそうだといいと思ったのですが、一般企業は、働く人よりも利益優先のところが多いです。自分に合う就職先を探して、合わないと辞めて…その繰り返しはしたくなかった。それならば、望むような仕事場を自分たちで作った方が、むしろ、一番の近道じゃないかと考えたんです」(石本さん)。

 社名の「440Hz」とは赤ちゃんの産声の周波数で、「社会に向けて声をあげる」という意味を込め、また、「創造集団」は、いろいろな背景をもっている人たちが、社会に合わせるのではなく、一人ひとりが尊重される社会をつくる、そういう人々の集まりでありたい、そんな思いからつけられています。

DVDパッケージ

制作・販売しているDVD の一部

 現在の事業の中心は映像制作で、海外のフリースクール等さまざまな教育の取り組みを取材した意欲的なドキュメンタリー作品を多数リリースしています。この他、グラフィックデザイン、WEBページの制作などもおこなっていますが、特に映像作品の評判が良く、経営は楽ではないものの、社員が生活できるだけの収益をあげることができています。

 取引先の仕事の進め方が働く人を必ずしも大事にしていないように感じ、不登校のときと同じようなつらさを感じることもあるという石本さん。しかし、一方でやりがいを感じてもいるといいます。

 「私たちが目指しているのは“お互いの思いを尊重する”ということ。だから、コミュニケーションを積み重ねて、より良いものをつくることができたときには、本当に嬉しいです」(石本さん)。

 最後に、今後の展望についてお聞きしました。

 「各種グラフィックデザインやWEB制作の仕事にも力を入れていきたいです。それと同時に、『こんな生き方もあるんじゃない?』と、社会に身をもって示せていけたらと思っています」(石本さん)。

 人生において働くこととは?人にとっての幸せとは? そうしたことを追求する、型にはまらない企業活動がさらに広がっていくことを期待しましょう。

インタビュー/鎌田晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/脇田真也

もっと知りたい!

冊子表紙

『僕は僕でよかったんだ 学校に行かなかった32人との再会』
奥地圭子ほか 著/東京シューレ 編
東京シューレ出版 刊
32人の不登校経験者は、“フリースクール後”の人生をどう生きてきたか。
こんな道もあるのだ!と気付かされる一冊。

取材先情報
(株)創造集団440Hz
外部サイトへ移動します http://creators440.org/

このページの先頭に戻る