東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第66号(平成27年5月27日発行)

コラム

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ピクトグラムで誰もが意思を伝えられる社会に 絵文字で会話する、もう一つの言葉“PIC”

非常口やトイレなど、注意や情報を示す記号のことを「ピクトグラム」といいます。PIC(ピック Pictogram Ideogram Communication)は、話し言葉や文字の使用が困難な人が、複数のピクトグラムによってコミュニケーションするための手法です。ここに示した4つのピクトグラムは、左から読むとどんな文章になっているか分かりますか?

ピクトグラム1:人物が笑顔で右手を振っている ピクトグラム2:人物がこちらを指差している ピクトグラム3:人物が読み物をしている ピクトグラム4:クエスチョンマーク

(注)正解はページ最下部

 PICに用いるピクトグラムには、人や物だけでなく感情や動作など、さまざまな意味を表すものがあります。これらを「PICシンボル」と呼び、組み合わせることで簡単な文章をつくることができます。1980年にカナダで開発され、現在は20数か国に広まっています。日本には1995年に導入され、主に特別支援学校や病院などで、知的障害者のコミュニケーションや言語の指導に利用されてきました。

 PICは黒地に白のシルエットのデザインが原則です。これは、視覚に障害のある人にも見やすくするためと、知的障害のある人が、複数の色によって混乱しないようにするための配慮によります。

図記号の例6点

よく見かける標準案内用図記号の例

 最近は、ピクトグラムを用いた意思疎通の方法として、「標準案内用図記号」を応用した「コミュニケーション支援ボード」が公共交通機関で使われています。これは、駅や空港等でよくある問い合わせ内容に特化しており、障害者だけでなく外国人との会話にも利用されています。しかし、文章を組み立てることはできません。これに対し、PICには動詞や形容詞などもあり、複数のシンボルを連ねることができるので、さまざまな日常会話に展開できます。

また、一つの語彙にデザインの異なるシンボルが複数あるのもPICの特長です。その理由を、PICシンボルの開発や普及をおこなう「日本PIC研究会」理事長の藤澤和子(ふじさわかずこ)さんは次のように話します。

 「障害の状態もその程度も人それぞれなので、皆が同じシンボルを使えるとは限りません。PICは、理解度に応じたデザインを選べるだけでなく、文化に合わせてデザインしなおしたり、その国独自の語彙を増やしたりすることもできるんです」。

藤澤さん顔写真

日本PIC研究会理事長で大和大学教授の藤澤和子さん

 PICに頼っていると発話できなくなるのではないかと、障害児の親御さんが心配することがあるといいますが、藤澤さんはその問題はないと言います。

 「PICのせいで発話能力が衰弱することはないと、多くの研究が立証しています。むしろ、意思がうまく伝わる経験によって『もっと伝えたい』と積極的になります。『PICが話し言葉を育てる』とまでは言えませんが、今までほとんど発話の無かった障害者が頻繁に声を発するようになった例を、私もたくさん見てきましたよ」(藤澤さん)。

 今後、日本PIC研究会では、手軽にPICを利用できるよう、使用頻度の高いシンボルを収録したCD-ROM付きの書籍を新たに出版する予定です。藤澤さんはPICの展望について次のように話します。

 「今日、多くの人たちが手話や点字を、使えなくともその存在を知っているように、PICが“もう一つの言葉”として広く知られるようになれば、PICを必要とする人たちは今よりも格段に生活しやすくなります。本人が意思を表明するのが難しい事情ゆえに、知的障害者のための施策は他に比べ遅れがちです。PICを社会全体で推進してもらえるよう、行政にも働きかけていきたいですね」(藤澤さん)。

 PICが秘める、言葉の世界を広げる可能性と力を知ることで、あなたも、コミュニケーションのバリアフリー化に、ほんの少し貢献してみませんか。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子

もっと知りたい!

冊子表紙

『あそんで つくって コミュニケーション!
PICシンボルとJIS絵記号を活用した特別支援教育のための教材集』
藤澤和子ほか 著
エンパワメント研究所 刊
PICの使い方をやさしく解説した入門書。
『PICシンボル1500:シンボルを使ったコミュニケーション指導』(仮)
エンパワメント研究所 刊
2015年8月出版予定
付録CD-ROMに日常会話に必要な1,500点のPIC シンボルを収録!

取材先情報
日本PIC研究会 外部サイトへ移動しますhttp://j-pic.net/

PICの読み方クイズの答え

左から「こんにちは」「あなた」「読む」「質問」を表わす。つなげると「こんにちは。あなたは読みますか?」という意味になる。

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