東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第65号(平成27年2月27日発行)

特集

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競争力向上の鍵を握るLGBT 企業にとって社員の多様性を活かすメリットとは

LGBT(注1)の当事者は、企業の理解が進んでいないために、就労の場面で偏見や差別を受けることが少なくありません。しかし、2014年7月に施行された男女雇用機会均等法の改正施行規則では、LGBTに対する差別的な言動もセクシュアル・ハラスメントであるとされ、職場の人権問題として取り組むことが、すべての事業者に義務づけられました。先駆的な取り組みをおこなう企業と、LGBTの就労支援をおこなうNPOにお話をうかがいました。

就労におけるLGBTの現状

 日本におけるLGBTは人口の約5%=20人に1人存在するといわれています。最近はメディアに登場する当事者が増えてきたことから、認知度も上がってきましたが、多くの就労の現場では、いまだ理解が進んでおらず、当事者が就職活動で困難を感じたり、職場でセクハラを受けたりするケースが少なくありません。

 「たとえば、トランスジェンダーは、履歴書を書く段階ですでにハードルがあります。心と身体の性が一致していないため、性別欄の記述をどうすべきか悩むのです。さらに、性差が明確なリクルートスーツが求められる風潮も当事者にとってつらいものです」と、LGBTの就労支援に取り組むNPO法人ReBit(リビット)の代表理事、藥師実芳(やくしみか)さんは言います。

 また、就職できたとしても、職場に理解がない場合は長く勤めることが難しくなるといいます。

 「たとえば、ゲイ男性は恋愛対象が女性でないため、『彼女いるの?結婚しないの?』など『異性愛であるのが当たり前』という前提での質問にプレッシャーを感じやすいです。異性愛者として振る舞うためにうそをつかなくてはならず、うわさをたてられ、それがセクハラにつながることもあります」(藥師さん)。

 ReBitでは、LGBTの就活・就労の現状を改善しようと、企業の採用担当者や就労支援者に向けた研修を実施してきましたが、2013年からは当事者向けの「LGBT就活セミナー」も始めました。セミナーでは「自分にとって働くとはどういうことか」について参加者同士で意見交換をしたり、就活・就労の際の不安について、社会人のLGBTがアドバイスをするなどして、それぞれの進路について、考えるきっかけをつくります。

 「社会に出て働くLGBTの大人が可視化されにくいことや、企業の無理解などから『自分は就労できないのでは』と感じるLGBTは少なくありません。そのため、セクシュアリティも含めて、自身の就活・就労について考えることができる場が必要なんです。社会や企業、自立就労支援機関の理解の向上も必須ですが、同様にLGBT自身も活き活きと働くことで、次世代を変えていくことができると思います」(藥師さん)。

多様性を尊重する企業の取り組み

顔写真

NPO法人ReBit 代表理事
薬師実芳さん

 なかなか理解の進まない職場がある一方で、当事者への対応の改善に着実に取り組んでいこうとする企業も見られるようになってきました。背景には、社員のさまざまな属性や多様性を認め、貴重な戦力として活かしていく“ダイバーシティ・マネジメント”の広がりがあります。

 証券会社大手の野村ホールディングス(株)は、2008年に投資銀行のリーマン・ブラザーズ社から事業を継承した際、ダイバーシティ・マネジメントのコンセプトも引き継ぎました。社内の国際化が一気に高まったことから、この考え方を導入しなければ、さまざまな国籍や価値観を持つ社員同士の円滑な協働と、グローバルな成長はできないと判断したためです。

 野村證券で「ダイバーシティ&インクルージョン」のジャパン・ヘッドを務める東由紀(ひがしゆき)さんは、LGBTに関する取り組みについて次のように話します。

 「LGBTへの偏見が少ない外国での生活が長かったので、友人や会社の同僚に当事者がいるのをごく自然なことだと思っていました。社員の多様性が尊重されている企業は競争力も高いので、LGBT当事者が働きやすい職場にしていくことは、他の社員にとっても、会社全体にとっても有益だと考えました」。

顔写真

野村證券(株) 人材開発部
東由紀さん

 2010年、最初に具体的な活動として取り組んだのは、野村グループ全体の倫理規定を改訂することでした。「人権尊重」の項目に「性的指向」「性同一性」を追加し、当事者に差別をおこなわないことを明文化しました。さらに2014年には、同社の新任管理職向けのダイバーシティ研修に、LGBTを理解するための内容を組み込みました。

 「研修では、次のような事例を紹介しています。ある営業担当者がお客様を訪問しました。“ホモネタ”(注2)でお客様のウケを狙おうとしたところ、実はお客様自身がLGBTの当事者だったため、営業担当者の非常識な発言から顧客を失うことになってしまった…。このようなリアルなビジネスシーンに結びつけると、とても理解しやすいのではないでしょうか」(東さん)。

「アライ(注3)」=LGBTの理解者を社内に増やす

写真:社内風景

野村証券の社員食堂に置かれたパンフレット。
写真右は自分がアライであることを示すレインボー (注4)カラーのステッカーをパソコンに貼った様子

 野村グループでは、ダイバーシティ・マネジメントのコンセプトの中核ともいえる「社員ネットワーク」の仕組みも取り入れました。社員ネットワークとは、さまざまな問題を解決するために、希望する社員がボランティアで活動する組織で、社内における“NGO・NPO”のようなものです。“政府”にあたる会社が、費用を負担するなどしてその活動を支援します。野村ではテーマ別にチームを設けており、そのうち、LGBTを含む多様性の理解を進めるのが「マルチカルチャーバリュー」(以下、MCV)です。

 MCVでは、外部から当事者を招いての講演会や、LGBTに関わるイベントへの参加・協賛などにも取り組んでいますが、当事者には活動への参加をあえて求めていません。社としてダイバーシティに取り組んではいても、各々の部署にそれが浸透するには時間がかかります。そのためLGBTであることを公表することは、当事者にとっては依然大きなリスクです。当事者に活動を担うことを求めないのは、社としてダイバーシティをさらに推進していくためでもあるのです。

 MCVは、活動を通して社内に「アライ」=LGBTの理解者を増やすことを現在の目標にしています。2014年には「アライになろう!」と呼びかけるパンフレットを作成し、社員食堂に設置しました。

 「アライになろうと思った人には、自席のパソコンにステッカーを貼ってもらいます。すると、当事者が社内に“味方”を見つけることができ、職場全体に安心感が生まれると思うんです」(東さん)。

将来的な企業のメリット

 東さんは、これからLGBTへの対応に取り組む企業に対し、次のようにアドバイスします。

 「ダイバーシティの推進が当事者の働きやすさにつながれば、優秀な人材がセクシュアリティを理由に流出するのを防ぐことができ、さらに、多様性を認める社風への期待から人材の獲得にもつながります。まずは人事部が研修会などに参加し、正しい知識を得ることが先決です。すると、それぞれの企業でさまざまなニーズが見つかります。それを踏まえた上で、意識の高い人から順に啓発していく。セミナーを企画したり、ランチミーティングで意見交換をしたり、できることから少しずつ始めるのがよいと思います」。

 これらの取り組みが即座に収益に反映するわけではありません。しかし、多様な価値観と人材を尊重することが企業の価値を向上させ、それが顧客の信用を得て、やがて利益につながっていきます。国際的な競争力が求められている今だからこそ、LGBTダイバーシティに取り組む意義があるのではないでしょうか。

インタビュー/鎌田晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子

用語解説

NPO法人 虹色ダイバーシティによる『LGBT基礎用語』を基に一部加筆修正しました。

(注1)【LGBT】
レズビアン[lesbian](女性同性愛者)、ゲイ[gay](男性同性愛者)、バイセクシュアル[bisexual](両性愛者)、トランスジェンダー[transgender](身体の性と性自認が一致しない人。性同一性障害を含む)の頭文字。性的マイノリティのこと。
(注2)【ホモネタ】
性的マイノリティを揶揄する悪質な冗談等のこと。また、「ホモ」や「レズ」は短縮形で、短縮形の呼称は一般的に侮蔑的な意味合いを含む。
(注3)【アライ[ally, allies]】
英語で盟友や味方の意。性的マイノリティを支援する当事者ではない人のこと。
(注4)【レインボー】
性の多様性を表わす虹色はLGBTのシンボル。赤、橙、黄、緑、青、紫の6色で構成される。
冊子表紙

『LGBTってなんだろう?』
藥師実芳ほか 著 合同出版 刊

NPO法人 ReBit
外部サイトへ移動しますhttp://rebitlgbt.org/
野村グループ ダイバーシティ&インクルージョン
外部サイトへ移動しますhttp://www.nomuraholdings.com/jp/csr/employee/di.html
野村グループの最大の財産は、人材です。> 職場×多様性
外部サイトへ移動しますhttp://www.nomuraholdings.com/jp/di/diversity_hr.html

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