東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第64号(平成26年11月20日発行)

特集

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差別根絶に向けたJリーグの取組み「JAPANESE ONLY」が投げかけたもの

1993年に産声をあげたJリーグは、今や年間の総入場者数が800万から900万人にのぼります。サッカーを通して日本のスポーツ文化創造の一翼を担うそのJリーグの試合で、一部の観客が外国人選手に対する差別的行為を行ったことが問題となりました。この事態に厳しい措置を取り、社会に差別根絶の意志を示したJリーグの取組みをご紹介します。

差別行為の制裁として国内初の「無観客試合」を決定

 Jリーグには、一部リーグのJ1から三部リーグのJ3まで、現在51のクラブが所属しています。中でも、J1浦和レッズの平均入場者数は年間60万人以上とリーグ随一です。しかし、2014年3月のサガン鳥栖戦において、浦和レッズの一部のサポーターが「JAPANESE ONLY」と書いた横断幕を観客入場口に掲出し、社会で大きな議論となりました。

 Jリーグでは、この横断幕は「日本人以外お断り」との意味にとれ、“差別的な内容”であると判断し、浦和レッズに、一試合を「無観客試合」とするというJリーグ史上最も重い処分を下しました。

 無観客試合によって浦和レッズは、数万人規模でチケット代を払い戻すなど、莫大な損害を出しました。さらに、サポーターの声援を力にしてプレーをしている選手たちにとっても、静まり返ったスタジアムでの試合は本意であるはずがありません。差別行為の代償は極めて大きなものとなりました。

 この一件では、問題発生からわずか5日後に処分を決定したJリーグの迅速な対応にも注目が集まりました。これには、FIFA(国際サッカー連盟)が2013年5月に採択した「人種差別主義及び人種差別撲滅に関する決議」が背景にあります。

反人種差別に関する世界の潮流

顔写真

Jリーグ常務理事 大河正明さん

 Jリーグ常務理事の大河正明(おおかわまさあき)さんはその背景を次のように言います。「FIFAに加盟する国・地域は209に及びます。中でもイタリアのセリエA、ドイツのブンデスリーガといった欧州のトップリーグには世界各国から選手が集まり試合を繰り広げています。サッカーは最もインターナショナルなスポーツといえます。しかしその試合で、“バナナを投げ込む”“モンキージェスチャー”といった特定の人種を差別する行為が繰り返されてきました。FIFAはこの決議のもと、加盟する各国の協会に対して差別禁止に関わる規定の整備を求めました」。

 これを受けて、JFA(日本サッカー協会)は2013年11月、規定を整備し、それに合わせてJリーグにおいても差別行為に対する新たな懲罰規定を決定しました。今回の横断幕掲出は、新たな懲罰規定の施行直前に起こりましたが、施行前であろうと差別行為には断固として対処すべきとし、FIFAの規定に従い無観客試合を科したのです。

 処分の判断にあたっては、次の二点が特に問題視されたと言います。「一つは、浦和レッズは過去にも類似のトラブルによる制裁を受けており、いわば累犯だったこと。もう一つは、横断幕の掲出を試合開始前に把握していながら、クラブのトップまで情報が伝達されるのが遅く、終了後まで撤去しなかったことです。クラブの体制に問題があると判断され、重い処分に至りました」(大河さん)。

「ソーシャル・フェアプレー」で安全、安心なスタジアムへ

 スタジアムの内外に向けて、差別撲滅への毅然とした態度を示したJリーグですが、大河さんは次のように話します。「懲罰を強化すれば抑止力にはなります。しかし、罰則があるから差別はやめるとの考え方は、好ましいものではありません。差別をしないことは、社会の中で自発的に身に付けるべき精神であるはずです。Jリーグはサッカーを通してそうした社会づくりに関わりたいと思っています」。

 Jリーグでは世界に誇れるプロリーグを目指そうと、2014年4月に「3つのフェアプレー宣言」を発表しました。ルール遵守を求める「ピッチ上のフェアプレー」、健全な経営を求める「ファイナンシャル・フェアプレー」、そして、差別の根絶や反社会的勢力との関係遮断、社会的責任を果たす「ソーシャル・フェアプレー」の三つを掲げ、活動に取組んでいます。

 大河さんは「Jリーグに関わる全ての人々が取り組むべき指針として、ソーシャル・フェアプレーが特に重要」と力を込めます。「Jリーグは日本の頂点を目指すクラブの戦いですからサポーターにも活気があります。しかし、差別行為がたびたび取りざたされるようでは、お客様に不安を与えます。それは、これまでサッカーに関心のなかった人にもスタジアムに来てもらいたいというJリーグが目指す姿とは相容れません。私たちは、年齢、性別、国籍などの区別なく、誰もが夢を見て、楽しめるJリーグでありたいと思っています」。

 サポーターによる対戦クラブへのブーイングなどの挑発行為は、一部では“サッカー観戦のスパイス”との風潮もあります。しかし、大河さんは違った見解を示します。「中指を立てる行為は世界では挑発ではなく明らかな侮辱行為です。過剰なブーイングもフェアとはいえません。そういう行為を不快に感じるファンはスタジアムから離れていくでしょう。入場者数が減れば経営は縮小し、クラブは弱くなる。それはサポーターが望むことでしょうか。また、フェアでないその精神が、差別行為に転じる危険性もあります」。

再発防止に向けた取組み

 Jリーグは「ソーシャル・フェアプレー」に基づき、差別行為の再発防止へと大きく動き出しました。

 クラブの危機管理態勢として「試合中、スタジアムの状況をチェックし、万が一、問題が生じた際には、速やかにJリーグに報告することを徹底しています」(大河さん)。しかし、「安全で安心なスタジアムを目指すためとはいえ、ルールを守り楽しんでいる大多数のお客様に、“監視されている”と感じさせるのは本末転倒です。やはり一番大切なのは、一人ひとりの差別根絶に対する意識の向上なのです」(大河さん)。

 Jリーグ事務局内ではコンプライアンス(法令遵守)研修を実施するなど、人権問題や情報管理のあり方を徹底しています。また、法務省人権擁護局の協力のもと、各クラブに対して人権研修の実施を求めています。しかし、組織の規模や体制は様々なため、各クラブをサポートするJリーグの役割と責任は大きいといえそうです。

 今回の一連の問題は、Jリーグにおける人権問題への取組みを加速させることとなりました。「プレーの質の向上や事業規模の拡大はもちろん大切ですが、フェアでオープンなJリーグであってこそ、誰もが試合を心から楽しむことができるのだと思います。発足から20年以上が経ち、さらなる成長を目指すJリーグにとって、活動の土台を見直すよい機会になったのではないでしょうか」(大河さん)。

 FIFAは決議において、社会で起こる人種差別主義がサッカーの世界にも映し出されていることに警鐘を鳴らしています。日本のスポーツ文化に大きな影響力を持つJリーグの取組みは、差別をしないことが当たり前の社会を築きあげていく上で、心強い指針になるのではないでしょうか。

スタジアムと観客の写真

女性や子どもも楽しめるスタジアムは世界に誇れるソーシャル・フェアプレーの証。
© J.LEAGUE PHOTOS

インタビュー/林 勝一(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子

Jリーグロゴ

取材先:公益社団法人日本プロサッカーリーグ
外部サイトへ移動しますhttp://www.j-league.or.jp/

Jリーグチェアマンのメッセージ 村井 満

 フェアプレイのマーク

差別根絶にむけて ソーシャル・フェアプレー

私たちJリーグは、すべての差別を根絶します

  1. 私たちは、フェアでオープン、安心かつ安全で誰もが楽しめるスタジアムづくりを推進します。
  2. 私たちは、あらゆるコンプライアンスリスクに対する予防策を講じ、対応力を高めるための対策を継続的に実施します。
  3. すべての取り組みは、Jリーグを愛するファン・サポーターのみなさまとともに実践していきます。

(注)すべての事項は、Jリーグ規約・規程に基づき、実施してまいります。

Jリーグを愛するファン・サポーターのみなさまへ

みなさまには、スタジアムの内外において、日頃よりJクラブや選手たちの応援・サポートを通じてJリーグを盛り上げていただき誠にありがとうございます。私たちは、安心かつ安全で快適、そして年齢、性別、国籍などの区別なく誰もが夢を見て、楽しめるJリーグでありたいと考えています。このような考えに基づき、Jリーグのスタジアム内外における掲示物等のメッセージは、それに触れる方々が共感し、感動を共有できるものにしましょう。Jリーグを、「世界で一番フェアでオープンなリーグ」にしていきましょう。

外部サイトへ移動しますhttp://www.j-league.or.jp/3fairplay/

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