東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第63号(平成26年8月29日発行)

コラム

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生きづらさを笑いで共有するステージイベント 「こわれ者の祭典」が面白い!

さまざまな病気や障害を持つ人たちが、詩の朗読やパフォーマンスで、リアルな思いを発信するイベント「こわれ者の祭典」。率直な気持ちを表現するステージが評判を呼んで、これまでに50回以上の公演を催しています。代表の月乃光司さんに、発足のきっかけや公演に込める思いをうかがいました。

顔写真

月乃光司さん
プライドを捨てて内面をさらけ出したら生きやすくなりました。人生は情けなくてもいいんです

 「こわれ者の祭典」という特徴ある名前は、「所詮、人は必ず死ぬものだし、形あるものはいつか壊れてなくなる。けれども…」という思いから付けられました。2002年に代表の月乃光司(つきのこうじ)さんの出身地である新潟で立ち上げられ、2004年には東京へも進出。現在は、精神障害などを持つメンバー6名を中心に活動しています。

 多彩なゲストとメンバーとのトークから始まり、自作詩の朗読、歌やコントなどのパフォーマンスが、2時間ほどの公演の中で繰り広げられ、会場は終始笑いに包まれています。深刻なテーマを、ユーモアを交えて、重すぎず軽すぎない絶妙なバランスで表現するその様は、とても魅力的です。時に、表現の直截さに戸惑わされることもありますが、見ている側が、なぜか解放されたような気持ちになる、不思議な爽快感がそこにはあります。

 月乃さんがこのイベントを発案したきっかけには、当事者同士で支え合う「自助グループ」での体験がありました。月乃さんはかつて、周囲の過大な期待から精神のバランスを失って引きこもり、アルコール依存症から自殺未遂にまで至りました。身近な家族にさえ理解してもらえない生きづらさを、断酒のための自助グループでは吐き出すことができ、「人に話しにくい経験やデリケートな問題を、包み隠さずに語る人たちと接し衝撃を受けました!」と言います。同じような悩みを持つ仲間がいることを心強く思うだけでなく、心の内をさらけ出しても許されることを知り、こんなダメな自分でもいいんだ、と自分を受け入れられるようになりました。自助グループによって“生きられる”ようになった月乃さんは、いつしか、当事者同士がつながることの大切さを、笑いという手法を使って、もっと大勢の人たちに知らせたいと思うようになっていました。

写真:パジャマ姿でパフォーマンスする月乃さんと出演者

ステージの様子。
月乃さんは引きこもり時代のパジャマが“ユニフォーム”。

 「こわれ者の祭典」の観客は8割が当事者で、3割くらいがリピーターです。「公演後に催す交流会で、前に会ったとき具合の悪かったお客さんが良くなっていると、うれしくなります。人付き合いが苦手な当事者同士が友達になるのを目撃すると、やっていて本当に良かったなって思います」(月乃さん)。しかし、さまざまな事情で会場に来られない当事者がほとんどなのではないかと、月乃さんは考えています。そういう人たちにもメッセージが届くよう、公演はインターネットでも中継されています。

 月乃さんは、ある定時制高校へ出張した際のことを振り返り、こう言います。「『こんな人でも社会復帰できたんですね。とても安心しました』と生徒のアンケートに書かれていて、涙が出るほどうれしかった。百人いれば百通りの生き方があり、そのすべてが正しいと伝えたい。自分の人生が理想から外れたことで苦しむ当事者が多いですが、いろいろあってもそれなりに正しい人生を歩んでいると感じてもらえる公演にしたいんですよね」(月乃さん)。

 出演者と観客が生きづらさを共有し、人それぞれの歩み方があることを知る。それが、多様性を認め合い、差別や偏見のない社会をつくることにつながっていくのでしょう。皆さんもイベントに足を運び、色とりどりの生き方に触れてみませんか。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子

こわれ者の祭典 公式ホームページ

東京公演〜生きづらさを生き抜こう!〜

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