東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第62号(平成26年5月30日発行)

特集

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図書館が支えている私たちの「知る権利」 「図書館の自由に関する宣言」を知っていますか?

図書館は、私たちにとって、とても身近な施設です。しかし、その役割や存在意義について、私たちは十分に知っているでしょうか。図書館が、私たちの人権を守るために、どのような役割を果たしているのかについて、取材しました。

図書館が“みんなのもの”になるまで

 図書館の歴史は、紀元前2500年にまでさかのぼります。シリアの都市国家エブラの遺跡で、粘土板に書かれた文書が大量に見つかり、この文書庫が最古の“図書館”だとされています。古代ギリシア・ローマを経て、図書館という仕組みは中世ヨーロッパのキリスト教修道院や貴族、王族の私設文庫に受け継がれますが、それらは為政者や権力者など、限られた人だけが利用できるものでした。だれもが自由に利用できる公共図書館の成立は、ずっと時代がくだって1848年に米国マサチューセッツ州に作られた「ボストン公共図書館」まで待たねばなりません。

 一方、日本にも古くから貴族や武士、仏教寺院の私設文庫はありましたが、欧米的な近代図書館ができたのは1872年のことです。富国強兵のために、欧米の先進的な施設として東京・湯島に設立された「文部省書籍館(もんぶしょうしょじゃくかん)」がそれにあたります。その後、日本の図書館は紆余曲折を経て、時代は昭和へ。第二次世界大戦以前は、図書館は政府の見解に適う本だけしか公開を許されず、言論統制をおこなう“思想善導”機関としての役割を担いました。1945年に戦争が終結し、日本は民主化を目指すようになります。1950年には、新憲法の民主的な考えに基づいた図書館法が制定され、日本の図書館は、戦前とは異なる理念を背負って、新たに出発しました。

 しかし、同年、朝鮮戦争が勃発し、我が国は再軍備など、意見が対立する困難な政治的課題に直面し、図書館の中立性をいかに保つかが、大きなテーマとなりました。こうした中、図書館法には明確に書かれなかった、すべての図書館が本来果たすべき使命を改めて確認するために、1954年の全国図書館大会と日本図書館協会総会で「図書館の自由に関する宣言」が採択されました。

図書館の自由に関する宣言

1954年採択 1979年改訂(主文)

図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設提供することを、もっとも重要な任務とする。

この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。

図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。

公益社団法人 日本図書館協会

「知る自由」を保障するための『宣言』

顔写真

公益社団法人 日本図書館協会
副理事長 山本宏義さん

 多くの図書館にこの宣言文が掲出され、その精神を尊重した運営がおこなわれています。けれども、普段、私たちがそれを意識することはありません。むしろ、図書館を利用するほとんどの人は、この宣言の存在すら知らないでしょう。

 しかし、2013年に映画にもなった小説『図書館戦争』(有川 浩・作)が、この宣言をモチーフにして描かれていたため、同宣言はにわかに脚光を浴びることになりました。架空の武装自衛組織「図書隊」が、不当な検閲から、知る自由や本を読む自由を守るために戦うという筋立てのSFで、登場する図書隊員たちがその活動の拠り所としているのが、実在する「図書館の自由に関する宣言」なのです。

 公益社団法人 日本図書館協会の副理事長を務める山本宏義(やまもとひろよし)さんは、次のように話します。「日本国憲法では『表現の自由』が保障されていますが、これと切り離せない表裏一体の関係にある権利として『知る自由』があります。情報を発信する側の表現の自由だけが保障されていても、それを受け取る側の知る自由が無ければ意味がないですよね。図書館には、そうした“知る自由を保障する機関”としての役割があります。このことが宣言にうたわれているんです」。

 「図書館の自由」とは、図書館が好き勝手なことをしていいという意味ではありません。図書館はいつでも、どんな本に対しても、政治的中立を保ちます。それが「図書館を利用する人の自由」につながるのです。

 宣言文には、先に掲載した主文の他に、詳細を述べた副文があります。この中では、時流によって不要と判断された本であっても、それが将来において必要とされる場合を考え、図書館には本を保存する責任があるということや、人権やプライバシーを侵害する恐れのある本の扱い方についてなども言及されています。

 宣言の採択後、今日までに、資料収集への不当介入、非合理な閲覧制限や、利用者がどんな本を読んだのかという履歴の開示要求など、幾度となく、知る自由を危うくする出来事が起きました。しかし、そのたびに図書館員や図書館協会、あるいは心ある一般の人々は宣言の原則に立ち返り、これらの問題にどのように対応するべきかを模索してきたのです。

 山本さんは、「日本図書館協会という一民間団体による宣言ですから、法的な効力はありませんし、ましてや小説のように武装した組織が守ってくれるわけでもない。でも、そこにこそ意義があるんです。法律はその時代の政治の影響を受けるものです。そうではなく、あくまでも自主的な行動として、図書館員が宣言の理念を実践し、またその理念を利用者がともに共有していくことで、民主的な社会における図書館の在り方を守っていけると思うのです」と話します。

 私たちが普段、自由に安心して、図書館を利用できる背景には、この宣言の存在と、それを実践する大勢の人々の取り組みがあるのです。

図書館の存在意義

 今日の公共図書館の先駆けとなった「ボストン公共図書館」は、学校以外の場所でも、無料で勉強できる場が必要だという考えを基に、設立されました。

 また、図書館法の第二条には、「『図書館』とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨンなどに資することを目的とする施設(中略)をいう」とあります。「一般公衆」とは「すべての人」のことで、これは裏を返せば、図書館で本を読む自由は、住民票の有無や国籍などに一切関係なく、必要とする人にはだれにでも平等に与えられているということを意味します。

 だれでも、図書館で読みたい本を、いつでも自由に、しかも無料で読めることを、今日の私たちは“当然”のように思っていますが、ここに至るまでには、長い歴史の積み重ねがあったといえるでしょう。

 山本さんは、図書館の役割について、こう説明します。「図書館は、人類が生み出したあらゆる文化的遺産を収集し、それを同時代の人に広く活用してもらい、且つ、次の世代にも伝えていく働きをしています。その結果として、人権を守ったり、民主主義を支えたりすることに、大きく寄与しているのです。例えば、人はより良い生活を送るために、生涯にわたり、自分にとって必要な教育を受けることが保障されています。図書館は、貧富の差に関係なく、それを可能にする場なんです」。

 図書館=無料で本を貸してくれる場所。これは決して間違いではありませんが、図書館の存在理由は、それ以上に意義深いものなのです。

 2014年は、「図書館の自由に関する宣言」が採択されて60周年にあたります。図書館という仕組みが、実は、民主主義を実現するために重要な役割を果たし、私たちの人権を下支えしているのだということに、思いを馳せてみませんか。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/那須 桂

冊子表紙

『「図書館の自由に関する宣言 1979年改訂」解説』(第2版)
日本図書館協会図書館の自由委員会・編
日本図書館協会・刊

第100回 全国図書館大会

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