東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第61号(平成26年2月28日発行)

コラム

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「学校に行くか、死ぬか」という社会を変えたい 不登校新聞『Fonte』が伝える当事者の声

「学校に行くか、死ぬか」。そんな自問自答を繰り返した結果、死を選ぶ子どもが後を絶ちません。文部科学省の調査(2012年度)によれば、不登校児童生徒の数は全国で11万人以上いるといわれる中、不登校と真摯に向き合う専門紙『Fonte』は、当事者の生の声を発信し続けています。

写真:新聞の記事

不登校当事者らの生の声が載る紙面

 不登校やひきこもりをテーマにした日本で唯一の新聞『Fonte』。1998年5月から月2回、NPO法人全国不登校新聞社が発行している専門紙です。

 創刊のきっかけは、1997年に起こった中学生焼身自殺と体育館放火事件という二つの悲劇。いずれも夏休みの最終日に登校を苦にして起きたとみられるこの二つの事件に衝撃を受けた不登校当事者の親らが、「学校に行かずに生きていく」という選択肢を伝えたいと、この新聞を誕生させました。

顔写真

石井 志昂さん

 紙面8ページのうち1ページを企画・取材・執筆するのが「こども若者編集部」というユニークな取り組みです。15~35歳の不登校当事者・経験者が月1回の編集会議に出席、記事を担当します。自らも不登校の経験があり、同編集部の一期生である石井志昂(いしいしこう)『Fonte』編集長は「企画や取材とは、何を知りたいのかを自分自身に問う作業です。その過程で自分の傷に向き合い、悩みを否定せず、お互いの痛みに共感しながら、自分自身の問いを見つけ出すことに価値があります。こども若者編集部は、当事者が自分を取り戻すための居場所になっている」と言います。

 こうして制作される紙面には、次のような当事者の手記が多く掲載されています。

 「あるとき、教室の扉の前で足が止まって動かなくなった。(中略)なんとなく、そこに入ったらもう後もどりできないと思った。」(2014年1月15日号)

 「ひきこもるのは、逃げ場がないからだ。(中略)人は、ひきこもりに『逃げてる』と言う。でもそうじゃない。部屋は(中略)『この世で一番マシな場所』なだけ。だから部屋で独(ひと)り、逃げようと走り続けている。」(2013年12月15日号)

 一般のメディアには載らないこうした生の声を歪めることなく伝えることで、読者が「同じだ」と思える共感の母体になりたいと石井さんは考えています。

写真:会議出席者

こども若者編集部の編集会議の様子

 しかし発行部数は創刊当時の6,000部から800部まで落ち込み、2012年4月、休刊の危機に陥りました。石井さんらは継続のために奔走。助成金を得て経営やマーケティングを学び、購読者層の分析をしたり、インターネットでも読めるようにしたりした結果、徐々に部数が回復。さらに大津いじめ事件をきっかけに社会の関心が再び高まったことが相まって、休刊の危機を回避しました。「部数が落ちたのは少子化や活字離れだけが原因ではありません。私たちの努力が足りなかったんです。『読者が求めているもの』『私たちが伝えたいこと』をこれまで以上に考えています」。(石井さん)

 購読者の多くは当事者の親だといいます。子どもをとにかく学校に行かせようと試行錯誤してもうまくいかない。それで「この子は一体何を考えているんだろう」と悩んだ末に、この新聞に出合うことが多いそうです。「『行かなくていい』とか『行くべき』という答えではなく、『行きたい』という声も含めて、当事者の生の声から考えることが大切なのです」。(石井さん)

 いじめや自殺問題が後をたたず、“学校に行くか、行かないか”が、子どもに生死の選択をせまるような状況は、創刊時と大きく変わってはいません。この状況を変えるには、社会全体が当事者の声に根気よく耳を傾けることが必要ではないでしょうか。

インタビュー/林 勝一(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/脇田 真也

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NPO法人 全国不登校新聞社

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