東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第60号(平成25年11月22日発行)

特集

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出所者の社会復帰を支援する「協力雇用主」 居場所をつくり、再犯を防ぐ

刑を終えて出所した人たちは皆「怖い人」「信頼できない人」なのでしょうか。世間の根強い偏見と無理解によって、社会復帰に際して多くの困難に直面する出所者たち。再犯を防止する上でも大きな意味を持つ「就労」という側面から更生保護活動に関わる、ある企業の取り組みを取材しました。

更生保護とは

 犯罪や非行をした人は、何らかの処分を受けた後、地域社会に戻ってその一員として生きていくことになります。更生保護とは、刑を終えて出所した人々の再犯を防ぎ、立ち直りを支える活動です。

 しかし、「怖い」「信頼できない」といった偏見に加えて、対人関係や社会への適応能力の問題などから、出所者は住居の確保や就職が難しく不安定な生活状況に置かれています。その結果、更生意欲があっても円滑に社会復帰できない出所者は少なくないのです。

出所後の就労状況と再犯率

 『犯罪白書』(平成24年版)によれば、刑務所への入所受刑者に占める再入者の比率は近年、上昇傾向にあり、なかでも無職者の再犯率は有職者と比べ約5倍高い(保護観察終了時の再犯率。平成14〜23年累計)といいます。また、入所回数が多くなるほど、無職の比率が高くなる(下図参照)など、再犯を防止するためには、就労の確保が重要だと指摘されています。そうした中で、保護観察を担当する保護司(注)らは、自らが受け持つ対象者について、知り合いの企業に就職の協力を求めてきました。こうした活動が元になり、犯罪や非行の前歴を把握した上で雇用する「協力雇用主」制度がつくられ、徐々に広がってきたのです。

グラフ:受刑者の入所前の就労状況構成比(入所回数別)

(注)保護司とは、保護司法に基づいて法務大臣の委嘱を受け、罪を犯した者や非行のある少年の立ち直りを地域で支える民間のボランティアのこと。

障害者や出所者に働く場所を

顔写真

株式会社キューピットワタナベ
協力雇用主 渡辺道代さん

 現在、協力雇用主を務めている渡辺道代(わたなべみちよ)さんは、1987年に株式会社キューピットワタナベというダイレクトメールの封入・発送を手がける会社を立ち上げました。渡辺さんが起業したのは、障害者と健常者が一緒に働ける場を作り、両者のキューピット役になりたいという思いからでした。もともと社会福祉施設に勤めていた渡辺さんは、ある障害を持つ女性から「私が働ける会社をつくって」と切望されていました。「一生懸命訓練をして社会に出ようとしても、企業が受け入れてくれない。あの一言が私の背中を押しました」と振り返ります。

 起業して数カ月後、ある女性従業員から「夫が犯罪者で服役しているのですが、私はここで働いていても構いませんか」と尋ねられたそうです。彼女は「私が犯罪者の家族だと分かると周囲の視線が冷たくなり、いつも働きづらくなって、辞めてきた」と語りました。仕事熱心な彼女には、今まで通りに働いてもらいましたが、自分にとって遠い存在だった“犯罪者”が、意外と身近な問題だと感じた瞬間だったといいます。

 やがて渡辺さんは保護司になり、担当している少年を自分の会社で雇うようになりました。保護司や少年院の面接員など、入所者や出所者に関わる活動に携わる中で、不幸にして罪を犯した人を“前科者”として特別視する社会の問題に気付きました。

障害者から好影響を受ける出所者

写真:作業風景

機械化せず、手作業で丁寧に封入作業をおこなう。

 キューピットワタナベには現在、社員・パートが15名、障害者が2名、そして出所者が3名働いています。同社に20年以上勤めている知的障害の男性は、相手が誰でも、あいさつを返してくれるまで「○○さん、おはようございます!」と大きな声で繰り返します。最初はとまどう出所者たちもやがて慣れ、あいさつをするようになります。また、障害があっても毎日一生懸命に働く姿に影響され、出所者も熱心に働くようになります。社会人としての基本的な姿勢を障害者から学ぶという、相乗効果が生まれているのです。

 同社の仕事は難しい技術を必要としません。上司や先輩のいうことを素直に聞くことができれば、簡単にできる作業です。機械化することもできましたが、あえてそうしなかったのが良かったと渡辺さんは自負しています。長い刑務所生活をしてきた人や、働いた経験の少ない人でも、すぐにできる仕事を通して社会に慣れながら、自分に向いた仕事を探してもらうようにしています。まさに同社は出所者と社会を結びつける「キューピット」役なのです。

会社全体で取り組んでこそ

 これまで協力雇用主として雇用した人は50人近くになります。犯罪の種類を問わず、初犯の人も再犯の人もいて、働く期間は1カ月から1年くらいまでさまざまです。ここを卒業して、鍼灸院の院長になった人もいますが、なかには残念ながら薬物犯罪を再犯し、再びここへ働きに来る人もいました。しかし、次こそ更生できるよう、出所者が働ける場であり続けることが大切だと渡辺さんは考えています。

 社内では最低限、出所した人であることは、皆に伝えます。「やる気のない出所者を雇うと他の従業員に迷惑」という意見が社内から出たこともあったそうです。それに対して渡辺さんは、協力雇用主の意義を話し、理解を求めました。「協力雇用主を続けられるのは、従業員の理解と協力があるからです。会社全体がお互いを気づかい合う“ファミリー”になって取り組むことが大切」と渡辺さんは話します。

 「怖くないですか」と尋ねられることもありますが、社内で怖い思いをしたことは一度もないと言います。雇うことに躊躇する企業が多い中で、協力雇用主は現在、個人・法人あわせて9千あります。雇用されている人はここ数年は増加しており、800人弱です(平成24年4月)。協力雇用主は建設業が多いのが現状ですが、幅広い職種で雇用に取り組む企業がさらに増えて欲しいと、渡辺さんは言います。

社会の中に安心できる居場所を

 「出所した人でも、障害者でも、健常者でも、誰も特別視せずに働いた分だけ給料がもらえるという意味で平等です。平等に扱われれば誰でもやる気がでます。仕事を覚えれば、どんどん頼られるようになります。それは自分が必要とされているという実感につながります」。キューピットワタナベは家庭に居場所がなくて非行を犯す少年や、社会に居場所がない出所者にとって、大切な居場所になっています。さらに、渡辺さんは住居の確保が難しい出所者のために「今後、会社の近くに寮をつくりたい」と抱負を語ります。

 「なぜ犯罪者の味方をするのか」と言う人に対して渡辺さんは「もし私が逆の立場だったら、たった一人でも声をかけてくれる人がいたら、救われると思う。そんな人に私はなりたい」と話します。「社会は『冷たい人ばかりではない』『あなたを必要としている人がいる』ということを出所者に知らせるのは、再犯を防ぐ一つの方法だと思います。それに刑務所などの矯正施設には毎年膨大な経費が掛かっています。それは全て私たちの税金です。そういう観点からも、出所者の再犯は食い止めないといけないのです」(渡辺さん)。

 現在、関西に拠点を置く企業から始まった、初犯の若い世代を中心に、5年で100名の雇用を目指す「職親(しょくしん)プロジェクト」や、地方自治体や法務省が保護観察中の少年を短期雇用する試みなど、就労をめぐる取り組みは徐々に拡がりつつあります。不幸にして罪を犯した人々が法の裁きを受け、刑に服したら、他の人と等しく尊厳を保障されなければなりません。出所者の不安定な生活状況を改善し、再犯を防ぐための社会の仕組みについて私たちは考える必要があるのではないでしょうか。

インタビュー/林 勝一(東京都人権啓発センター専門員)
編集/脇田 真也

ロゴ

株式会社 キューピットワタナベ

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