東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第59号(平成25年8月30日発行)

コラム

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ココロのバリアが溶ける?!生きている図書館 ヒューマンライブラリーで本の話を聞いてみよう

生きた人が図書館の「本」になり、それを借りた「読者」と語り合う一風変わったイベント、それが「ヒューマンライブラリー(注)」です。参加者が皆やみつきになるというこの催し、いったい、どんな魅力があるのでしょうか?
注:【human library】人間図書館の意。別名、生きている図書館【living library】ともいう。

冊子表紙

ココロのバリアを溶かす ヒューマンライブラリー事始め
(駒澤大学社会学科坪井ゼミ 編著/人間の科学社 刊)

 ヒューマンライブラリーの「本」になるのは、障害者やホームレスの人、薬物依存症を患う人など、誤解や偏見を受けやすいさまざまなマイノリティ(少数派)の人たちです。「本」一人に、ごく少数の「読者」がひざを突き合わせて向き合い、語り合います。話し手と聞き手の間に、一般の講演会のような遠さを感じさせないのが特徴です。2000年にデンマークでロックフェスティバルの企画の一つとして開催されたのが始まりで、その後、世界60カ国に広まり、日本では2008年から東京や京都などで30回以上開催されています。

 駒澤大学文学部社会学科の坪井ゼミでは、2010年からこれまでに3回、ヒューマンライブラリーを開催してきました。学生たちが「本」や資金集め、当日の運営などをおこないます。教授の坪井健(つぼいつよし)さんは開催の苦労を次のように話します。「大変なのは『本』になってくださる方を探し出して説得することです。初対面のマジョリティ(多数派)の『読者』に対して弱みをさらけ出してもらうわけですから、交渉役の学生がまずその人を理解していなくては信頼を得られません」。

写真:予約受付の様子

受付では予約表を見ながら『本』を予約する

 出演交渉がまとまると、どんな話をするか「本」と相談します。このとき学生は「編集者」になり、イベント当日は「本」を貸し出す「司書」になります。このようにヒューマンライブラリーは、何でも図書館や書籍になぞらえているのですが、もう一つ重要な仕掛けがあります。それが「利用同意書」です。それは「読者」が「本」を傷つけないことを誓約する内容で、署名することで初めてこのイベントに参加することができます。一般図書館の「利用規約」にあたるこの手続きをなくすと、ヒューマンライブラリーは単なる“見世物小屋”と同じになってしまうのだと言います。「一見、面白半分のイベントのように見えて、マジョリティとマイノリティの力関係を知らず知らずのうちに対等にしてしまう。そこがヒューマンライブラリーの要なのではないか?」。坪井さんはそう分析しています。

顔写真

坪井 健さん

 とは言うものの、難しい仕組みがわからなくとも楽しめるのがヒューマンライブラリーの良さです。「敷居の低さが魅力ですね。通りすがりの人もすぐに楽しめる。それに、普段は話しにくいことも『本役』『読者役』と芝居仕立ての仮想空間なら抵抗なく本音を話せて、思い込みも消えてしまうから面白い」(坪井さん)。

 本音の語り合いは、「読者」の偏見を低減するだけでなく、「本」にとっても新鮮な体験になるようです。「『本』の側も『どうせだれにも分かってもらえない』と思っていることが多いのです。しかし他者に理解してもらえる体験によって、ネガティブな自分像をポジティブに変えていくことができるのではないか。それが楽しくて、一度引き受けてくれた人は繰り返し『本』になってくれるのだと思います」(坪井さん)。

 参加するだけでなく、多くの人に主催してほしいとの願いから、坪井ゼミではマニュアル本を出版し、実施を考える他団体のサポートに力を入れています。

写真:対面風景

過去に坪井ゼミで開催したときの様子

 「心のバリア」が溶ける不思議な体験の後に出会うのは、新しい「何か」を得て変容した自分です。あなたの学校、サークル、職場でもこんな素敵なイベントを、ぜひ開催してみませんか。

インタビュー/鎌田 晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/小松 亜子

駒澤大学ヒューマンライブラリー・サポートプロジェクト2013

ヒューマンライブラリー研修会

開催してみたい。ノウハウを知りたい。「本」になってみたい…。ヒューマンライブラリーをより深く理解する絶好の研修会です。

お申し込み・お問い合わせ

駒澤大学ヒューマンライブラリーのホームページ

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