東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第54号(平成24年6月29日発行)

特集

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「障害者アート」で起業 著作権を保障し、障害者の生き方に選択肢を

障害のあるアーティストの創作した作品は、現在ではその芸術性が広く認められています。しかしこれまで、障害者に対する理解不足から、作者としての権利が軽視される事態が数多く起きてきました。「障害者アート」の著作権を守りつつ、その作品を世に送り出し、ビジネスとしても成立させようとする昨今の活動について取材しました。

「障害者アート」への関心とおろそかにされがちな著作権問題

写真:ショップの風景

パルコ吉祥寺店で開催された期間限定ショップ「HUMORA(ユーモラ)」の様子。毎年開催しているのでリピーターが多い。中には障害者による作品だと知らずに買っていく人も。

 障害者による芸術作品は、欧米では1940年代ごろから「アール・ブリュット」や「アウトサイダー・アート」(注)などと呼ばれ、その既成概念にとらわれない、自由で個性的な表現が高く評価されてきました。

 一方日本では、障害者の創作活動は、施設や作業所の中で、余暇やレクリエーションとしておこなわれることが多く、その作品が社会に発信される機会はあまりありませんでした。それが表に出ることがあっても、芸術としてではなく、あくまでも福祉活動の一環として扱われることが多かったのです。

 しかし、1990年頃から、その芸術性を評価する機運が高まりました。「障害者アート」に価値を見出す人が増えたことで、「作品を買いたい」「デザインの素材として使いたい」といった商業的な需要も生まれるようになりました。そのために顕在化したのが、障害のあるアーティストの著作権の問題です。

 芸術作品は「著作権法」によって保護されます。しかし日本では、そういったことが欧米ほどには強く意識されない傾向にあります。さらに障害者が自分の意思を表明することが不得手であることや、周囲の理解が十分ではないことも重なって、その権利は侵害されやすい状況にありました。

 「障害者アート」が社会に広く認知されるようになることは、障害者の人権問題を多くの人に知ってもらう上では好ましいことです。しかし、価値が認められれば認められるほど、権利にまつわる問題も浮上してきました。作品の権利は誰のものか、帰属をどうするか、売買や商業利用の対価をどう作者本人に還元すべきかなどは、家族や支援者にとっても悩ましい問題でした。そこで、NPO法人エイブル・アート・ジャパン(旧称:日本障害者芸術文化協会)を中心とした複数の団体が1999年に「障害者芸術著作権等整備委員会」を立ち上げ、契約の際の問題点を整理し、トラブルを未然に防ぐためのガイドライン策定に努めました。

(注)アール・ブリュット(仏:art brut、「生(なま、き)の芸術」)、アウトサイダー・アート(英:outsider art、「部外者の芸術」) 専門的な美術教育を受けていない人による美術作品など、主流から外れた芸術活動のこと。狭義にはさまざまな障害を持った人によって創作された美術作品をいう。

起業のいきさつと商業利用促進の背景

 (社福)東京コロニー・アートビリティ、(株)セルフサポートの「パラリンアート」、(株)パソナハートフルの「アート村」など、現在、障害者の創作活動をビジネスに結びつける団体・企業は複数あります。2007年に設立された「エイブルアート・カンパニー」も、そのうちの一つです。

 2000年頃、ある業者が無断で作品を複製して本を作った上、高額で全国販売するという事件が起こりました。これを目の当たりにし、世間では「障害者アート」の価値が高く評価されていること、一方では、著作権の課題をクリアして、中間支援組織をつくる必要性があることを、関係者は強く意識したといいます。

 「対価が正当に支払われる仕組みを作って、それを当たり前にすれば、アーティストの活動の場は拡がる。また、顕在化しはじめた悪い事例を減らすことができると考えました。ビジネスとして成立させることと共に、著作権を守る支援の仕組みとしても始めたんです」とエイブルアート・カンパニー事務局の柴崎由美子(しばさきゆみこ)さんは話します。

 また、カンパニー設立には、2006年に施行された障害者自立支援法も少なからず関係がありました。この法律では、医療費や施設利用料などの一部を、本人が負担することとされています。障害者にとって、それだけの収入を得ることは容易ではありません。そのため、現場では「働くこと」の意味を「お金を稼ぐこと」に閉じ込めてしまいがちです。実際、それまで創作活動をおこなってきた多くの作業所や施設が、金額的にはそれほどの収入にはならないにもかかわらず、パンやお菓子作りなど、「とりあえず売れるものをつくること」に活動をシフトさせてしまったといいます。

 「仕事をしてお金を稼ぐことは大切なことです。しかし、そのために生きる喜びである創作活動をまったくなくしてしまうのはどうなのか。創作活動自体を“仕事”としてとらえたいし、彼らが活動を続けられるように、少しでも仕事につなげられる環境をつくりたいなとも思ったんです」(柴崎さん)。

変わる消費動向とそれにマッチした「障害者アート」

写真:作品が使われた商品

メンズでも、カラフルでポップなところが魅力!

 エイブルアート・カンパニーでは2012年6月の時点で、73人の障害者と、登録作家の契約を交わしています。障害の種類、年齢、性別はさまざま。活動拠点や居住地域は全国に広がっています。契約を結ぶことで、カンパニーはアーティストに代わって企業への売り込みや、作品のプロデュース、著作権料の支払いなど著作権事務を一手に引き受けます。

 現在、所属アーティストの作品の使用実績はさまざまな分野に広がっていますが、中でも、優れた成功例があります。

 「2010年から続いている伊勢丹メンズ館とのコラボレーション企画です。男性用の下着やくつ下などのデザインとして作品が使われています。売れ行きは大変好調で、そのお店の週間ベストセラーになったものもあるんですよ」と話してくれたのはエイブルアート・カンパニー事務局の山口里佳(やまぐちりか)さん。この商品企画では、特に障害者によるものであることをうたってはいません。それにもかかわらずよく売れているのは、作品の持つ魅力が、純粋に購買者の心をつかんだからなのでしょう。

 また、これらの商品の売れ行きが好調なのは、2008年のリーマン・ショック以後の、消費動向の変化も大きく係っているようです。

 「流行に踊らされるのではなく自分の生き方に正直になりたい、というふうに消費者心理が変わったといいます。大量生産より個性的で希少性が高いもの、工業製品より手作り感のあるものが好まれるようになりました。お客さんの反応を見ていると、確かにそういう感じがしますね」(山口さん)。

 大手デパートでの躍進は、「障害者アート」の持つ魅力が、こうした時流に合ったことも一因のようです。

生き方の選択肢をもっと多様に

写真:商品展示風景

伊勢丹新宿店メンズ館での商品展開の様子

 いずれにしても、作品が高く評価されることは、作者である本人とその家族、そしてその後に続く人たちに、多くの勇気を与えることになります。

 「障害者にとって、仕事は、社会の中で自分が生かされていることを感じる手段。彼らは、創作活動や製品化された自分の作品を通して、そうしたことを実感しているんです」(山口さん)。

 障害者自立支援法では、障害者が社会で働いて収入を得ることが期待されています。しかし、就労の機会はまだまだ限られ、生き方の選択肢は、健常者に比べて狭く限定されているといえるでしょう。

 “同業他社”の存在について、柴崎さんは、障害者にとってチャンスが増えることにつながるので、自分たちの理想にもかなうと好意的に受けとめています。

 「障害者が自分の意思で選択し、物事を決めるプロセスが大事です。だから著作権の問題にしても、本人がその権利を理解し、自分で判断することも重要なんです」(柴崎さん)。

 私たちはみな、一人の人間として豊かに生きる権利を持っています。経済的に裕福なだけでは、「豊か」とはいえません。様々な選択肢があり、自分の意志で決めることのできる人生こそ、本当の意味で「豊か」だと言えるのではないでしょうか。「障害者アート」がその可能性を切り開く一助となるのを期待してやみません。

インタビュー/鎌田晋明(東京都人権啓発センター専門員)
編集/脇田真也

Able Art Company ロゴ

エイブルアート・カンパニー

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