東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第52号(平成23年11月25日発行)

特集

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震災と人権 震災を生き延びた命を無駄にしない ─震災関連死を防ぐために

3月11日の東日本大震災発生から8カ月がたちました。住む家を失った被災者たちも、避難所から仮設住宅へ移るなど、その状況は変化しています。今号では、震災からの復興が本格化していくなかで、被災者の孤独・孤立などが要因となって起きる「震災関連死」について取り上げます。

「震災関連死」とは

 1995年の阪神淡路大震災では、6,400人以上の方が亡くなりました。そのうち、「震災関連死」による死者は兵庫県だけで900人超と、全体の一割以上にのぼるとされています。

 大規模震災においては、家屋の倒壊や火災、津波などによる直接的な場合以外にも、命を落とすケースがあります。なんとか生き延びたものの、震災後の環境変化に起因する持病の悪化や過労、自殺などによって死亡するもので、これらは「震災関連死」と呼ばれています。先の阪神淡路大震災で注目され、遺族への災害弔慰金支給の対象にもなりました。

 震災関連死の要因は実にさまざまです。被災直後には、医療機関も被害に遭い、医師や看護師、介護従事者もやはり被災して数が足りず、医薬品なども入手困難になってしまいます。震災で負傷した人はもちろん、以前から持病のあった人たちなどにとって命を落とす危険が増大します。

 また、避難所生活の段階では、衛生面や感染症の問題も生じ、長引けば集団生活によるストレスが強まって体調を崩すなど、やはり生命にかかわることも起こりえると言えます。

 それだけではなく、被災からしばらく経ち、復興が進んでいく過程で起こる震災関連死があることも指摘されています。

復興の陰で孤立する被災者たち

 震災復興への支援には、緊急救護からはじまり、避難生活支援などさまざまな段階があると言われています。震災関連死についても、この段階ごとにその原因が変化していきます。現在の段階におけるそのひとつとして、仮設住宅に移り住んだ被災者のうち、おもに高齢者が、コミュニティから切り離され、孤立してしまい、そのまま孤独死に至るというケースがあります。

 阪神淡路大震災の場合には、仮設住宅での孤独死は4年間で227人にのぼり、そのうち自殺者は19人でした。こうした悲しい経験を踏まえて、避難所を出て仮設住宅などに移った後の被災者を支えるための仕組みづくりが、東日本大震災の被災地においても急務になっています。

 また、自分自身は震災を生き延びたものの、家族をはじめとした身近な人たち、家や職場、日々生活する地域社会などを失った被災者たちの「喪失体験」のショックは、簡単には癒 えるものではありません。「あの時、ああしておけば、あの人は死なないですんだかもしれない」といった後悔や自責の念に苦しむ人も少なくありません。

 世間が復興に向けて「頑張ろう」と進んでいこうとするなかで、そうした体験を引きずらざるをえない被災者たちは、周囲とのギャップに苦しむことになります。「いつまでもくよくよしないで」とまわりに言われ、つらい気持ちを一人だけで抱え込んでしまいがちです。このように、前向きに立ち直ろうとする地域社会からとり残されていくかのような孤立感・不安感に加え、経済的な困難が重なり精神的に追い詰められてしまう。やがて、その苦悩が自殺という結果につながることもあります。これも震災関連死の一つのケースです。

 実際に、9月半ばには、石巻の仮設住宅で、自殺したとみられる60代の独居男性の遺体が死後約一週間たってから発見されるという事件も起きています。仮設住宅での孤独死と、震災の影響による自殺。家族や友人・知人、仕事や地域社会など、他者とのつながりを震災によって断たれ、その後の復興の過程でもそれらを回復することができずに、追い込まれていく被災者たち。その「孤独・孤立」が行き着く最悪のケースがこうした「死」だといえるのではないでしょうか。

救えるはずの「命」を救うために

 原子力発電所事故の影響もあり、今もなお数多くの人たちが避難生活を強いられるなか、復興へ向けた取り組みも少しずつ進もうとしています。震災を生き延び、これからの将来を生きる希望を残す人々の命を救うために、私たちはどうしたらいいのでしょうか。それにはまず、孤独・孤立に陥おちいらないための「つながり」を取り戻すことがその第一歩となるはずです。

 ここでは、そうした「つながり」の回復に向けた支援を二つ紹介します。

 宮城県南部の岩沼市も、3月11日の津波によって沿岸部に壊滅的な被害をこうむりました。その岩沼市は、7月、仮設住宅に入居する高齢者や障がい者などの日常生活を包括的に支援するため、県内では初めてとなる「里の杜(さとのもり)サポートセンター」を開設しました。

 同センターでは、被災者からのさまざまな相談を受け付け、専門相談や心のケアなどにつなぐ「総合相談機能」を持つとともに、仮設暮らしによる孤立や引きこもりを防ぐための「交流拠点」としての役割も担っています。運営は社団法人青年海外協力協会(JOCA)が海外での支援活動経験を活かし当たっています。具体的な活動として、孤立の予防に重点を置いて、集会所の運営をサポートしたり、イベント等を実施して被災者の方が家から出てくる機会を設けています。さらに、入居者向けに情報誌を発行しています。

 「孤独死を防ぐためには、住民どうしのつながりが一番大事です。日々の巡回で情報を集め、社会福祉協議会や民間の支援機関等と共有し、連携しながら、住民全体に目がゆき届くように進めていきたいと考えています」(同センター担当者)。

 もう一つは、NPO法人自殺対策支援センター ライフリンクの取り組みです。自殺対策支援の活動で知られるライフリンクでは、震災で家族を亡くした遺族へ向けて、「死別・離別の悲しみ相談ダイヤル」の設置、「支援情報リーフレット」の作成配布、ホームページ開設という三つの支援事業を4月から開始しました。その後も、10月からは他の団体と協力して「被災者支援 寄り添いホットライン」を立ち上げるなど、文字どおり被災者に寄り添った支援事業を展開しようとしています。

 「電話相談では『復興っていったい何なのですか?』と切々と問いかける遺族もいらっしゃいます。これまで精いっぱい頑張ってきたのに、さらに『頑張れ』と言われても無理だ、という悲鳴です。でも普段はそんなことは口にはできません。周りとの距離を感じ、ますます孤立し自分にはついていけないという感じが強まります。そんな人たちの存在、抱えている気持ちを忘れてはいけません。誰も置き去りにしないような支援の視点が大切だと考えます」(ライフリンク副代表・根岸親(ねぎしちかし)さん)。

 復興は、もちろん、ただ単に物理的な意味でのみ成し遂げられるものではありません。すべての被災者が、孤立から脱し、社会のそれぞれの場所でのつながりを回復したり、新たに獲得し直したりすることは、復興の基礎とも言えるでしょう。真の復興を遂げるためには、被災者の孤独・孤立を起こさせないための今後の取り組みにかかっていると言えるのではないでしょうか。

インタビュー/田村鮎美(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/原 広

里の杜サポートセンター

ポスター画像

「死別・離別の悲しみ相談ダイヤル」のポスター

外部サイトへ移動しますhttp://www.city.iwanuma.miyagi.jp/index.html
里の杜サポートセンターについては岩沼市のHPをご覧ください。

ライフリンクの東日本大震災遺族支援ホームページ

外部サイトへ移動しますhttp://www.lifelink.or.jp/hp/shien311/index.html
ライフリンクの東日本大震災遺族支援ホームページ「震災で大切な人を亡くされた方へ」。震災遺族が必要とする各種相談窓口に関する情報を提供するほか、リーフレットもダウンロードできる。

「死別・離別の悲しみ相談ダイヤル」のポスターは、下記urlにてダウンロード可  [PDF形式:181KB]
外部サイトへ移動しますhttp://www.lifelink.or.jp/ hp/shien311/poster_soudan.pdf

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