東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第50号(平成23年7月28日発行)

コラム

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ドラッカーの『マネジメント』で人に優しい社会を実現

ドラッカーは『マネジメント』の中で、「人は最大の資産である」といっています。学校や会社など、「社会」という組織の中で“人”と関わる私たちが、このドラッカーの視点を持つと、また新しい発見や気づきがあるかもしれません。

 ピーター・F・ドラッカー(1909-2005)はオーストリア生まれのアメリカの経営学者です。最近の『もしドラ』(注)ブームで、ドラッカーの名前は、経営学に縁のない人たちにもよく知られるようになりました。数ある著書のなかでも特に有名なのが、1974年に出版された『マネジメント』です。

 “マネジメント”という語は直訳すると“管理”あるいは“経営”の意味になりますが、この本が他のビジネス書と大きく異なり、今日も色あせないのは、組織の管理や経営の問題を扱いながらも、根底に人を尊重する考えがあるからでしょう。ドラッカーは、二度の世界大戦を経験したことから、「人間が幸せになれる社会とは何か、健全な組織とは何か」を考えるようになりました。その結果、社会や組織が利益のみを追及している以上、個人の幸せはなく、健全な組織もありえないとの結論に至ったのです。『マネジメント』の中に「人こそ最大の資産である」との一文があるように、ドラッカーは“人”を重要視しました。

 この10年余りで多くの企業が取り入れるようになったCSR(企業の社会的責任)の考え方においても、“人”が重要視されています。CSRでは、“人権に配慮した適正な雇用と労働条件”、“消費者に対する適切な対応”、“社会貢献”などが具体例としてうたわれますが、1974年刊行の『マネジメント』の中に、これとそっくりなことがすでに書かれていることには驚かされます。

 ドラッカーは、マネジメントの役割について「仕事を通じて働く人たちを生かすことだ」といいます。個々人のやる気や生きがいを、いかに組織経営と絡めていくか。これは、組織の中で人権をどう尊重していくか、ということにもつながります。この本が34 年を経た今もなお、多くの人に読まれ続けている理由は、こういうところにあるのかもしれません。

写真:小池さん

小池勝也さん

 ドラッカー学会会員の小池勝也(こいけかつや)さん((株)アットパス 代表取締役)は、「この本には、流行に左右される戦略論やマーケティング用語は出てきません。どんな世にあっても、決して見失ってはならない基本的な考え方と行動原則が書かれています。ドラッカーは、営利企業も“社会的機関のひとつ”として捉えることで、より良い社会を築くためには、お金とモノの動きだけでなく、人と組織、社会との関係性が重要と考えたのです」と解説してくれました。

 現代社会においては、誰もが皆、なんらかの組織のなかで生活しています。学校、会社、地域コミュニティ、あるいは家族もまた小さな組織であるといえるでしょう。小池さんは「ドラッカーの教えを具体的に自分にあてはめて考えてみることが大切です」といいます。そして、数あるドラッカーの言葉から、「知りながら害をなすな」という言葉を印象に残る一言として紹介してくれました。私たち一人ひとりが“人”を大切にしながら、相手に対して、良くないことはしない、間違いと気付いたことは勇気をもって正す。そうすれば、世の中は思いやりにあふれ、もっと人に優しい社会になっていくのではないでしょうか。

インタビュー/鎌田晋明(東京都人権啓発センター 専門員)
編集/那須 桂

(注)岩崎夏海 著『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社 2009)

『マネジメント[エッセンシャル版] ―基本と原則』

冊子表紙

P.F.ドラッカー 著/上田惇生 編訳
ダイヤモンド社 刊
(本著は1974年に刊行された『マネジメント』の重要部分を抜粋したもの)

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