東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第45号(平成22年3月24日発行)

特集

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「人間らしく生きる権利」を守る貿易 フェアトレード・ビジネス

世界のグローバル化にともなって、私たちが手にする商品は「だれが」「どこで」作ったのかが見えにくくなりました。その陰で、生産国の貧しい人々に対する搾取などの深刻な人権侵害や環境破壊が起きています。フェアトレードによる発展途上国の自立支援をおこなうファッションブランド「ピープル・ツリー」を立ち上げたサフィア・ミニーさんに、お話をうかがいました。

PROFILE

顔写真

サフィア・ミニーさん

イギリス出身。ロンドンで出版とマーケティングの仕事にたずさわりつつ、人権や環境保護のNGO活動へ参加。1990年、来日。翌年、環境問題と貧困問題についての情報発信を目的としたNGO「グローバル・ヴィレッジ」を創設。1993年、フェアトレードの普及を目指し、商品開発と輸入販売を開始。1995年、フェアトレード事業部門を法人化し、「フェアトレードカンパニー株式会社」(ブランド名:ピープル・ツリー)を設立。同ブランドは2001年に英ロンドンにも進出。2004年9月には、スイスのシュワブ財団より「世界で最も傑出した社会起業家」の1人に選出された。NPO法人ソーシャル・イノベーション・ジャパンでは、アドバイザーをつとめる。著書に、『おしゃれなエコが世界を救う〜女社長のフェアトレード奮闘記』(日経BP社)、『By Hand〜世界を変えるフェアトレード・ファッション』(幻冬舎ルネッサンス)など。

より多くの仕事を創出し発展途上国の貧しい人々を支援するファッション・ビジネス

フェアトレードとは、何ですか?

 フェアトレードとは、人権を守る貿易活動です。発展途上国の生産者と先進国の消費者を対等な関係で結び、適正な価格で取引を実現するものです。発展途上国の貧しい人々に仕事の機会を提供し、安定した収入が継続的に得られるようにすることで自立支援します。

 たとえば、発展途上国では、貧困のために子どもたちが働かざるをえないことも多々あります。でも親が十分な収入を確保できれば、子どもの収入をあてにしなくても暮らしていけますし、子どもは学校へ通うことができるわけです。

 フェアトレードの団体は世界中にたくさんありますが、「ピープル・ツリー」は、ファッションの分野に特化していることが特徴です。衣料品の製造過程には、材料作物の種まき、栽培、収穫から、紡績、染色、縫製、刺繍(ししゅう)など、たくさんのプロセスがあるので、より多くの仕事を作り出すことができるんですよ。

 私たちの取り扱っている品物は大規模工場で生産されたものとは違って、すべてが手作りです。ブロックプリント(木版捺染もくはんなっせん)などは高い技術が求められるので、それだけで付加価値が大きくなります。

 一方、現在は大量生産・大量消費によって価格を抑えた「ファストファッション」が世界中でもてはやされています。でも、どうしてそんなに安いのか、想像してみてください。環境破壊につながるような安価な化学素材を使っているからかもしれないし、不当に安い賃金で雇われた子どもたちが作っているせいかもしれません。

 実際、発展途上国のファストファッション製品の生産者たちは、想像を絶するほど劣悪な環境におかれています。狭い部屋にたくさんの人が押し込められ、一つのトイレと炊事場を200人くらいでシェア。その上、一日に10時間以上も働かされていたりするのです。

 そんな劣悪な環境で働かされるよりも、自分の家に手織り機があって、家族のそばで仕事ができるほうが断然いいと私は思いますし、生産現場の実情を知れば、みなさんもきっとそう感じるだろうと思います。

来日当初の日本の印象は?

 私が日本へやって来たのは1990年、ちょうどバブル真っ盛りのときでした。とにかく無駄の多さにショックを受けました。売っているものはすべて過剰包装だし、ちょっと古くなったらすぐに捨てて、新しいものに買い換えてしまう。先進国の日本がこんなことを続けていたら、いつか地球がパンクしちゃうと思いました。「うわ!これでは環境的に見て収支が合わない」みたいな(笑)。

サフィア・ミニーさんの写真

 正直なところ、来たばかりのころは本当にがっかりしていたんです。ところが、あるとき茶道と出会ったことで、私はこの国が大好きになりました。お茶の勉強を通じて日本の伝統文化の面白さを発見することができたんです。もともと私は手工芸品が大好きで、職人さんが一つひとつ丁寧に作り上げた陶器などに関心を持っていました。お茶で使うさまざまな道具には日本の自然や季節感といったものが反映されています。そのシンプルな美しさは、バブルな無駄遣いとはまったく逆。「なんて魅力的な文化なんでしょう」と感激しました。茶道に限らず、日本の伝統文化には、本当の意味でのエコロジーの心が息づいていると感じたのです。

 また、「家族を守るために安全な食品を」という願いから盛んになった日本の生協は、世界でも有名なんですよ。日本にはそういったことが根づいているわけですから「発展途上国の生産者を貧困から救う」というフェアトレードの考え方も、きっと受け入れられるはずだと思いました。

フェアトレードを通じて持続可能な社会作りを目指す

発展途上国で人権を無視した経済活動がおこなわれている現状について話してください。

 私は10代のころから反アパルトヘイト運動に参加して南アフリカの製品をボイコットしたり、国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルでボランティア活動をしたりしていました。だから、もともと人権問題について関心があったんです。フェアトレードの仕事を始めたのも、そういった視点からでした。

 22歳のとき、バックパック一つでアジアやアフリカ諸国をめぐる旅に出たのですが、そこで目にしたのは、発展途上国の人々の生活を犠牲にして貿易がおこなわれている現場でした。

 たとえばフィリピンでは、海岸沿いの村に昔から住んでいた漁師さんたちが立ち退きを迫られていました。おそらく日本の企業もその事業にかかわっていたと思いますが、漁師さんたちは「移住してくれるなら、冷蔵庫付きの新しい家を提供します」という条件を提示されていました。でも、漁師にとって土地を離れることは収入源がなくなることを意味します。それに、先祖代々にわたって住み続けた土地をそう簡単に引き渡せない人だっているでしょう。ところが、そのうち移住を拒む人々に対して、学校を通じて子どもたちに圧力がかけられるようになりました。そして最後には戦車まで出動し、住民は立ち退きを迫られることになったのです。

 他にも、メキシコのコーヒー農園では労働組合運動にたずさわっていた従業員が暗殺される事件や、またフィリピンの農園では、地元の人たちが何百年も育ててきたマンゴーの木を先進国の企業が一方的な経営方針の転換により強制的に伐採するというような暴挙がたくさん横行しているんです。

 発展途上国に限らず日本国内でも、経済的に力のない人たちの人権は無視されやすいんです。いまの国際経済は、本来もっと重視されるべき社会コストや環境コストなどの“経費”をまったく計算に入れないことで成り立っています。でもそれは、人権を無視していることと同じ。ですから、フェアトレードを通して人権を尊重し、環境に優しく、持続可能な経済構造を作り上げていくことが大切です。

 多国籍企業のひどいおこないについて、市民団体などの活動を通して、少しずつ日本でも報告されるようになってきていますが、それもまだ氷山の一角です。たとえ外国の貧しい人たちであっても、人権は尊重されなくてはいけないという、ごく当たり前のことを、もっともっと多くの人に知ってほしい。発展途上国でいま起きていることを重大な人権問題として多くの人に届けることも、私たちの役割だと思っています。

フェアトレード・ファッションをカッコよさで勝負できるものに育てたい

この仕事のどこに、やりがいを感じますか?

 世界中にフェアトレードを広めるために、たくさんのスタッフたちと一緒に仕事できることが、私の喜びです。バングラデシュ人、ネパール人、ケニア人、イギリス人、日本人など、国籍や人種に関係なく、むしろそういったことを乗り越えて幸せの価値観を共有している感じが、とても楽しいんです。

 それから、発展途上国の生産者が自信を取り戻していく様子を見るのが、とてもうれしい! かつては貧しかった女性が仕事を得て「自分が家族を支えているんだ」と自信を持てるようになると、歩き方まで堂々とした感じに変わっていくんですよ。

 現在、ピープル・ツリーのフェアトレード商品を扱ってくれているのは300店ほどですが、この輪をもっと広げていきたいと思っています。でも、さらに売れるようにするためにはいま以上に商品を良くしていかないといけません。そのために、もっと“奥の深いカッコよさ”を追求していきたいですね。

 そして「今日なに着てるの? ピープル・ツリー? カッコいいわね!」って言われるくらいにしたい(笑)。フェアトレードをそんなふうに感じてもらえるように、ピープル・ツリーというブランドを、これからも大事に育てていこうと思っています。

文 山川英次郎

Fair Trade Standards(フェアトレードの基準)

 世界フェアトレード機関(WFTO)が設けた、10箇条の基準です。フェアトレードは人権を守る国際的な経済活動であることを規定しています。

People Tree ロゴ

冊子表紙

おしゃれなエコが世界を救う 女社長のフェアトレード奮闘記

サフィア・ミニー 著

日経BP社 刊

世界フェアトレード・デー2010

5月8日(土)東京・丸ビルで開催
詳しくは 世界フェアトレード・デー特設サイト
外部サイトへ移動しますhttp://www.wftday.org/

エマ・ワトソンさん等の写真
(C) Cantata, L.P.

映画スターとピープル・ツリーがコラボ

英女優のエマ・ワトソンさんは、映画『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー役で知られる、若い人たちのファッションリーダー的存在。海外では著名人が社会に与える影響を自覚して、さまざまな社会活動に取り組むことがよくあります。今企画の商品は3月から発売されています。

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