東京都人権啓発センター

TOKYO人権 第44号(平成21年12月1日発行)

特集

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“盲ろう者”に必要な支援とは 東京都盲ろう者支援センター

盲ろう者の支援はアメリカや北欧では非常にすすんでおり、たとえばアメリカには「ヘレン・ケラー・ナショナルセンター」という国の専門支援機関があります。しかし、日本では盲ろう者の存在自体があまり知られておらず、行政による支援もかなり立ち後れていました。そんななか、自治体レベルの“日本版ヘレン・ケラー・センター”ともいうべき「東京都盲ろう者支援センター」が2009年5月に開設されました。公の機関としては日本初です。盲ろう者のおかれている現状、支援の必要性、そして支援センターの活動について取材しました。

「盲ろう者」のかかえる三つの困難

顔写真

東京都盲ろう者支援センター
センター長
前田 晃秀さん

  「盲ろう者」とは「視覚と聴覚の両方に障害のある人」のことをいいます。全く見えなくて聴こえない人だけでなく、少し見えたり聴こえたりする人を含み、その障害の程度・状態は人によって様々です(図1)。

 また、そのコミュニケーション方法も多様です(図2)。盲ろうになる以前に障害が有ったか無かったか、有ったとしたらどのような障害かなど、その人がこれまでどのような生活を送ってきたかということによって、基本とするコミュニケーション方法が異なるからです。

 盲ろう者がかかえる困難は大きく三つに分けることができます。

 まず一つ目は、一人で移動することについて。視覚もしくは聴覚どちらかを使えば可能である外出ができません。

 二つ目に、情報入手について。昨今は“点字ディスプレイ”や“読み上げソフト”を使用して、インターネットや電子メールから比較的簡単に情報入手が可能になってきています。しかし、新聞やテレビなどのマスコミュニケーションはどれも視覚・聴覚を利用したものなので、そこから「触覚」で社会の情勢を知ることは困難です。

 そして三つ目は、他者とのコミュニケーションについて。全盲ろうの場合は、触覚を通して他者の言葉を“聞”き、会話することになります。

図1 下記すべてが盲ろう者です。

  見えない 見えにくい
聞こえない 全盲ろう 弱視ろう
聞こえにくい 盲難聴 弱視難聴

図2 盲ろう者のコミュニケーション方法

障害の状態や、盲ろうになるまでに習得した技能により盲ろう者それぞれが使用するコミュニケーション方法は異なります。

使用する感覚や状態によるコミュニケーション方法の一覧表です

触手話の写真

触手話

話者の手話の形や位置を、盲ろう者が手で直接触れることによって手話を読みとる。

指点字の写真

指点字

盲ろう者の指を点字タイプライターの6つのキーに見立て、左右の人差し指から薬指までの6本の指に直接タッチする。

手書き文字の写真

手書き文字

盲ろう者の手のひらに、指先などでひらがな、カタカナ、漢字などを書いて伝える方法。

センターでおこなわれている支援

 盲ろう者の多くは人生の途中で二重の障害を持つことになった中途障害者です。そのため、高齢になってから盲ろうになったケースが多く、視・聴覚に替わる触覚を使った新しいコミュニケーション方法を習得することはけっして容易ではありません。

 また、これまでにあった視覚または聴覚単独の障害に対する支援では、盲ろう者にとっては不充分です。そこで社会生活の多くの場面に盲ろう者とのコミュニケーションに習熟した専門の“通訳・介助者”の助けが必要になります。

 東京都盲ろう者支援センターは東京都からの補助を受けて、NPO法人東京盲ろう者友の会が運営し、通訳・介助者の育成・派遣、盲ろう者同士の交流会の運営、相談、盲ろう者のための訓練プログラムなどをおこなっています。あらたな言語コミュニケーション方法習得の他に、触覚情報を使って炊事・洗濯など生活に必要なさまざまなことができるようにするための訓練などもあります。

 「支援センターに登録している盲ろう者のうち、一割もの人たちが一人暮らしをしているんですよ。見えなくて聴こえないと何もできないんじゃないかと思うかもしれませんが、適切な支援が受けられれば自立した生活ができるんです」(東京都盲ろう者支援センター センター長 前田晃秀さん)。

盲ろう者特有の問題と支援の現状

 他者とのコミュニケーションが困難であることによる盲ろう者特有の “孤独感”があるといいます。本人だけでなく、身近な人たちが必要なコミュニケーション方法を身につけていない場合は、盲ろう者は家庭の中でさえだれとも話ができなくなってしまうことがあるためです。

 「中途障害で盲ろうになった人たちからよく聞かれる話ですが『何も聴こえない真っ暗闇の中にたった一人取り残されて、孤独に一生を終えるしかないんじゃないかと思っていた』と言うんですね。これは盲ろう者の心の問題として非常に深刻です」(前田さん)。

 厚生労働省の調査では、現在全国に23,000人程度の盲ろう者の人たちがいることがわかっています。人口比から推計して東京都内にはおよそ2,300人の方が居住していると思われます。

 しかし、都内で視覚と聴覚両方の障害者手帳を取得している人は820人ほど。さらに東京都の通訳・介助者派遣事業に利用者登録しているのはわずかに83人です。この数値の大きなずれをどのように考えればいいのでしょうか?

 理由はいくつか考えられますが、もっとも大きな要因は盲ろう者向けの支援の存在が知られていないことではないかと考えられています。そのような支援は、視覚と聴覚両方の障害者手帳を取得することによって受けることが可能になります。しかし、そのためには医師の診断が必要ですし、それなりの手間もかかります。もしも盲ろう者向けの特別な支援があることを知らなかったら、二つも手帳を取得しないかもしれません。

 そもそも盲ろう者は独力で情報を獲得することに困難があるのですから、積極的な情報提供や、自宅訪問によるケアなど、本人への直接的な働きかけが必要だと思われます。しかし現在のところ、それは実現できていません。個人情報保護の観点から、支援センターが各自治体から盲ろう者(であろうと思われる人たち)の連絡先を入手することは難しい状況です。しかし、中には支援センターと自治体が連携することによって本人が適切な支援を受けられるようになったケースもあります。こうした協力関係は今後いっそうすすめていく必要があるでしょう。

 また、資金不足から、支援センターによる通訳・介助者の育成が充分におこなえないという実情もあるといいます。盲ろう者に対する支援はまだ発展途上にあると言えそうです。

 最後に、盲ろう者のおかれているこうした状況を打開するために、一人ひとりができることについて前田さんからメッセージをもらいました。

 「盲ろう者にさまざまな支援を届けるためには、まず周りの人たちに盲ろうのことを知ってもらう必要があります。だからぜひ、そのことをどこか心の片隅においてください。そしてもしも、盲ろう者かもしれない人に出会ったら、実際にその人の手をとって、ひらがなで手のひらに文字を書いて話しかけてください。それだけで、闇に閉ざされていたその人の人生が良い方向へ動き出す可能性があるんです」。

東京都盲ろう者支援センター(NPO法人 東京盲ろう者友の会 事務所)

〒111-0053
台東区浅草橋1-32-6 コスモス浅草橋酒井ビル2階

電話:
03-3864-7003
ファックス:
03-3864-7004
メール:
tokyo-db@tokyo-db.or.jp
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